1. トップ
  2. 25年前、日本中が心を重ねた“伝説的な秘密のロック” 大ヒット連発の異才が生んだ“時代を超える月9名曲”

25年前、日本中が心を重ねた“伝説的な秘密のロック” 大ヒット連発の異才が生んだ“時代を超える月9名曲”

  • 2025.8.18

「2000年の夏、あなたはどんな景色を見ていましたか?」

インターネットが日常に入り込み、街のあちこちにCDショップが並び、試聴機からは新譜のメロディが絶え間なく流れていた。

そんな時代に、派手な装飾ではなく、心の奥を静かに揺らす力強さを持った一曲があった。

Mr.Children『NOT FOUND』(作詞・作曲:桜井和寿)――2000年8月9日リリース。

心を射抜く、あの一音から始まる物語

『NOT FOUND』はMr.Childrenにとって19枚目のシングル。飯島直子と内村光良が主演をつとめたドラマ『バスストップ』(フジテレビ系)の主題歌として制作され、ドラマの空気感とリンクするように発表された。

曲はアコースティック・ギターのストロークとともに、桜井の歌声で始まる。

乾いた弦の響きと声が同時に空気を切り開き、聴く者を一瞬で曲の世界に引き込む。その後、ベースとドラムが入り、バンドとしての骨格が立ち上がり、さらにストリングスなどが重なっていく。

しっとりとした質感を保ちながらも、力強さを感じさせる構成は、ミスチルらしさと成熟した表現が同居している。

静けさと高揚感が同居する不思議な力

『NOT FOUND』の魅力は、静けさと高揚感が同じ場所に息づいていることだ。

歌の始まりは穏やかで、聴く者の心にすっと入り込み、少しずつ熱を帯びていく。そしてサビでは、目の前の景色が一気に開けるような解放感が訪れる。

それでも、この曲は決して過剰にならない。音の一つひとつに呼吸するような間があり、聴き手が自分の感情を重ねられる余白が残されている。

語りすぎず、押しつけないからこそ、聴く人それぞれの物語の中で完成する――その懐の深さが、この曲を長く愛される理由のひとつだ。

声が描く、静から動へのドラマ

桜井の歌声は、この曲で静けさと熱情の両方を鮮やかに描き分けている。出だしは、ギターのストロークと共に抑えたトーンで始まり、言葉の一つひとつを確かめるように歌う。その穏やかさが、聴く者を自然と曲の中へ引き込む。

バンドサウンドが重なると徐々に声の奥に熱が宿り、感情の輪郭が少しずつ際立っていく。そしてサビでは、芯のある伸びやかな声が前面に出て、空間を大きく押し広げるように響き渡る。

特にラストのサビでは、これまで抑えていた力を一気に解き放ち、叫ぶような力強さで感情を突きつける。その瞬間、歌詞とメロディが一体となり、聴き手の心を揺さぶる波が押し寄せる。

静から動へと移り変わるこのボーカルの振り幅こそが、『NOT FOUND』のドラマを決定づけている。

undefined
2005年11月、Mr.Childrenツアーよりボーカルの桜井和寿 (C)SANKEI

成熟の時代に刻まれた一曲

2000年の音楽シーンは、J-POPの黄金期ともいえる時代で、CD売上はまだ高水準を保ち、多くのアーティストがミリオンセラーを連発していた。

そんな中、Mr.Childrenは90年代前半から築いてきた王道ポップロックの枠を保ちつつ、より成熟したサウンドへと進化。『NOT FOUND』は、その過程で生まれた“過渡期の完成形”ともいえる。

激しすぎず、甘すぎず、深みを湛えたサウンドは、この時期のミスチルの成熟を象徴していた。

歴史に刻まれた、最速の快挙

『NOT FOUND』は最終的に60万枚以上のセールスを記録した。この作品でMr.Childrenは、デビューシングル『君がいた夏』からわずか8年でシングル総売上2000万枚を突破。当時としてはB’z、サザンオールスターズに次ぐ3組目の快挙で、しかも最速記録だった(この記録は2006年にAKB48が更新)。

また、この節目に並んだサザンの桑田佳祐と桜井和寿は、1995年に『奇跡の地球』でタッグを組んでおり、節目で並び立つ関係性もファンには感慨深い。

25年経っても消えない感情

25年経った今も、『NOT FOUND』は心の奥に触れ続けている。迷いや痛みの中にあっても、そこに微かな笑みを見出そうとする――そんな希望にも似た感情を、そっと手渡してくれる。

決して派手ではないが、ふと耳にした瞬間に胸の奥を揺らす。この歌は、これからも時代を超えて、誰かの心に小さな光を灯し続けるだろう。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。