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25年前、日本中をゆるやかに揺らした“都会的な夏の余白ソング” 2000年夏を詰めた“音楽のタイムカプセル”

  • 2025.8.19

「25年前の夏、あの真昼のゆっくり流れる時間を覚えてる?」

2000年の夏、街にはミレニアムの熱気と新しい世紀への期待が漂っていた。渋谷のスクランブル交差点はカラフルなファッションと音楽で溢れ、海沿いの国道には窓を開けた車が低く響くビートを鳴らして走る。

そんな風景にぴたりと寄り添うように流れたのが、Dragon Ash『Summer Tribe』(作詞・作曲:降谷建志)だった。

2000年7月12日に発売された8枚目のシングル。前作『Deep Impact』の熱狂から一歩引き、今作は真夏の空気をゆるやかに揺らすトラックメイクで、日常と非日常の間に漂う時間を描き出した。

定番サンプルを自分たちの色に

この曲のトラックには、クルセイダーズのピアニスト、ジョー・サンプルが1978年に発表した『野性の夢(In All My Wildest Dreams)』をサンプリング。この元ネタは2Pacの代表曲『Dear Mama』でもサンプリングされ、ヒップホップ界では“定番のサンプルネタ”として知られる。

Dragon Ashはその名トラックを組み込みながらも、ビートの質感やラップの温度感で、自分たちらしい都会的な夏の情景へと仕上げている。ループが描く穏やかな波の上で、Kjのフロウが軽やかに跳ねる。

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2002年5月、「MTV THE SUPER DRY KIVE」よりボーカルのKj (C)SANKEI

夏を“走らせずに進める”リリック

『Summer Tribe』の魅力は、全力疾走ではなく、あくまで肩の力を抜いたテンポ感にある。BPMは抑えめ、ドラムはタイトに刻まれつつも押しつけがましくなく、ベースは低く深く空間を支える。

その上で描かれるのは、仲間との笑い声、冷えたドリンク、夜の街を流れる風――「夏を味わうための余白」だ。

タイトな韻を踏みながらも映像的に広がるリリックは、真昼から夜明けまでの時間の流れを、音だけで感じさせる。

当時のシーンでの立ち位置

2000年のDragon Ashは、すでにロックバンドという枠組みを軽々と越えていた。生演奏のエネルギーよりも、サンプリングやループを主体としたプロダクションが際立ち、ヒップホップ的な構造を持ちながらもポップフィールドで強い存在感を放っていた。

『Summer Tribe』は、フェスで爆発させるキラーチューンではなく、クラブや深夜ラジオ、ドライブ中など、生活の中でしっとりハマる曲として息づいた。

夏の余韻を閉じ込めた一枚

『Summer Tribe』は、夏の勢いを煽る曲ではない。むしろ、照りつける真昼の熱気と、夜の涼しさ、その間にある夕暮れの匂いを丁寧に瓶詰めにしたような作品だ。

Kjのリリックには夏を象徴する情景が次々と現れ、耳だけでなく肌や嗅覚までも刺激する。昼のプールサイドのきらめきから夜のクラブの盛り上がり、そして明け方の空の色まで、一日の時間の移ろいがそのままビートに重なっていく

この曲を聴くと、あの日の夏がまるごと戻ってくる。信号待ちで見上げた空の青さ、アスファルトから立ちのぼる熱気、夕暮れに染まるビルのガラス、深夜のコンビニ前で笑い合った仲間の声――それらがビートと共に鮮やかにフラッシュバックする。

25年経った今も、『Summer Tribe』は真夏の午後のまぶしい光や、夜更けに漂う街の静かな熱気を、あの頃の温度のまま蘇らせる。

まるで音楽というタイムカプセルが、2000年の夏をそのままの色と匂いで閉じ込め、今も手渡してくれるかのように。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。