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30年前、日本中を駆け抜けた“早口のラブソング” 売上70万枚超の“初夏の爽やかロック”

  • 2025.8.21

「海沿いの国道を走る車の窓から、潮の匂いとラジオの音がふっと入り込んでくる――」

1995年初夏、そんな情景とともに流れてきたのが、ZARD『愛が見えない』(作詞:坂井泉水・作曲:小澤正澄)だった。

同年6月5日にリリースされたこの曲は、ZARDにとって15枚目のシングルであり、「SEA BREEZE」’95のイメージソングとしてテレビCMや街頭の映像とともに耳に届いた。

情熱を秘めたロックサウンド

『愛が見えない』は、全編にわたって疾走感がみなぎるロックナンバーだ。ピアノとシンセの透明感ある響きが、初夏の空気をさらりと撫でるように広がり、その下ではギターがクールなカッティングや印象的なフレーズを織り込みながら、ドラムとともにリズムを引き締めていく。

鍵盤のきらめきとギターのエッジが絶妙に絡み合い、楽曲全体に立体感とスピード感をもたらす。サビではそれらが一斉に解き放たれ、風を切るような爽快さと真夏の陽射しのような力強さが一気に広がっていく。

Bメロでは、ラップ調の早口パートが矢継ぎ早に言葉を投げかけ、緊張感が一気に高まる。息をつく間もなく迎えるサビは、メロディが大きく広がり、まるで夏の空へ解き放たれるような開放感をもたらす。

力強さと透明感を兼ね備えた坂井泉水の歌声は、硬質なバンドサウンドの中でも埋もれることなく、鮮やかな輪郭を保って響く。まっすぐに伸びる高音には涼風のような清涼感があり、熱を帯びたリズムの中にも確かな温度と優しさを感じさせる。

初夏の風をまとうサウンド

作曲は、PAMELAHの小澤正澄。エッジの効いたメロディラインに、葉山たけしのアレンジが立体感を与えている。葉山は『負けないで』など数々のZARDの曲を手がけてきた人物。ギターを基調とした爽快感と、楽曲全体をドラマチックに包み込むアレンジ力は、この曲でも遺憾なく発揮されている。

シャープなギターカッティングと力強いリズムが疾走感を保ちながら、曲全体に初夏の空気感をまとわせた。爽快さの中に潜む切なさが、真夏を迎える前のあの季節特有の胸のざわめきを呼び起こす。

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※Google Geminiにて作成(イメージ)

坂井泉水の声が描く情景

坂井泉水のボーカルは、感情を過剰に煽ることなく、あくまで自然体のまま、まっすぐな響きでリスナーの胸の奥へと届く。

その声は、真夏前の澄んだ空気のように清らかで、触れればすぐに溶けてしまいそうな繊細さを持ちながら、芯には揺るがない強さが宿っている。

透明感あふれる声質は、鋭く切り込むギターや力強いドラムの中でも埋もれることなく、音の層をすり抜けて前面に浮かび上がる。ひとつひとつの言葉はクリアに輪郭を持ち、まるで歌詞そのものが情景となって目の前に広がっていくようだ。

サビでは風が吹き抜けるように伸びやかに、Bメロでは心の内側をそっとなぞるように――静と動が絶妙に交差するその表現力は、ZARDの数ある名曲の中でも際立って印象深い

セールスと時代の受け止められ方

シングルは発売後すぐにランキング上位へ駆け上がり、最終的に70万枚を超えるセールスを記録。

タイアップの効果だけでなく、楽曲そのものの完成度が支持を集めた。軽快さと情熱を併せ持つこの曲は、平成中期の音楽シーンの多様性を象徴している。

ZARD中期を刻んだ一曲

1995年はZARDが音楽的に成熟し、表現の幅を広げていた時期。

『愛が見えない』は、ポップで爽快な印象の裏に熱量を秘めた、そんな時代の空気を映す一曲だ。

あの夏の海風とともに聴いた旋律は、30年経った今も色褪せず、耳にすれば当時の光景を鮮やかに蘇らせる。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。