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25年前、日本中がざわついた“真顔で踊るバンド” 歴史あるプロのユーモアと融合した“軽快な骨太サウンド”

  • 2025.8.13

2000年の夏、耳に飛び込んできたのは、どこまでもクリアで、どこまでも重い、異質な疾走感だった。

ベースはうねり、ドラムは跳ね、ギターは潔く刻み、ボーカルはそのすべてを突き抜けていく。

軽快なのに骨太、シンプルなのに密度がある

一見ストレートなロックナンバーに見えて、その裏ではL’Arc〜en〜Cielが“音で遊びながら攻めている”感覚が、確かに鳴っていた。

L’Arc〜en〜Ciel『STAY AWAY』(作詞:hyde/作曲:tetsu)――2000年7月19日リリース。

ポップでも、ロックでも、ダンスでもない。それらすべてを吸収しながら、ただ“ラルクらしく”あることだけに集中したような一曲だった。

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1999年、『第28回ベスト・ドレッサー授賞式』に登壇したL’Arc〜en〜Ciel (C)SANKEI

とにかく“ノれる”のに、バンドの個性が剥き出し

『STAY AWAY』は、L’Arc〜en〜Cielにとって20枚目のシングル。作曲を手がけたtetsuya(tetsu)によるこの楽曲は、同氏の作風としては珍しくコード進行が非常にシンプル。

だが、そのシンプルさを感じさせないほど、ベースの歪み、ドラムの跳ね方、ギターのキメ、ボーカルの抜け感すべてが生々しく際立っている。

ベースラインは“グルーヴ”というより“推進力”として前面に現れ、曲全体を力強くけん引していく。

ギターは一聴すると控えめだが、緻密にリズムへ絡みつくカッティングと、要所で差し込まれる技巧的なフレーズが、楽曲に立体感を与えている。kenのセンスと技術が“隙間”をデザインしていることが伝わってくる。

そのなかで、yukihiroのドラムはこの楽曲の屋台骨となっており、タイトなビートの中にも跳ね感と遊びを共存させる独特のグルーヴを刻み出している。細かく刻まれるシンバル、瞬間的な抜き差しの妙――その一打一打が、演奏全体に絶妙な緊張感と躍動を与えている。

そしてhydeのボーカルは、そんなリズム隊の波にしなやかに乗り、浮遊感を漂わせながらも力強く突き抜けていく。

“難しいことはしていない”ように聴こえるのに、こんなにも音が立体的に響いてくる――。

それこそが、当時のL’Arc〜en〜Cielの成熟ぶりを示していた。

ポップに聴こえるのに、芯はロックのまま

2000年、J-POPはメディアとの連動や大型タイアップによって、多くの楽曲が“聴かれる理由”を与えられていた時代だった。

楽曲単体でのインパクトが希薄になりかけていた中、『STAY AWAY』は、ただ音を鳴らすことで圧倒的な存在感を放った。

軽やかなノリと、高度なバンドアンサンブル。その両立こそがラルクの真骨頂だった。

一聴するとストレートなポップ・ロックに見えるが、ギターのトリッキーなフレーズ、跳ねるリズム、細部まで練られたアンサンブルが、曲の立体感を何倍にも引き上げている。

“ノれる”という言葉で片付けるには、あまりに情報量が多い。かといって、“複雑”と感じさせないのは、バンドとしての成熟と余裕があったからこそだろう。

『STAY AWAY』は、音で勝負しながら、耳に届く瞬間にはすでに“楽しさ”として完成している。

それは、難しいことをしているようには見せない。でも、確実に「技術と美意識のある音」だけで成立している――そんなラルクらしい矛盾を体現した一曲だった。

“あの映像”が残した衝撃 遊び心が本気であるということ

この楽曲が印象深く記憶されているもうひとつの理由が、ミュージックビデオで描かれた強烈なダンスシーンだ。

ラストのサビでメンバー4人が数十人のバックダンサーと完全シンクロして踊るというCG処理された映像は、当時のファンにとっても衝撃的だった。

振り付けを担当したのは、香瑠鼓。Wink『淋しい熱帯魚』やB.B.クィーンズ『おどるポンポコリン』、さらには泣く子も黙るで有名な「タケモトピアノ」CMなども手掛けた、日本のポップカルチャーを裏から支えてきた振付師だ。

つまりこのダンスシーンは、単なる“おふざけ”ではない。きちんと歴史ある“プロのユーモア”を咀嚼したうえで、L’Arc〜en〜Cielらしい美学でアウトプットされた遊びだった。

“カッコよさ”と“面白さ”は、両立できる。

しかもそれを、最も自然な形で成立させてしまったことに、このバンドの懐の深さがあった。

今でも鳴った瞬間に心が反応する、25年目のグルーヴ

『STAY AWAY』が響かせる“ノリ”は、単なる快感ではなく、演奏・構成・センスが一体となって生まれる完成されたグルーヴだ。

軽快なのに深く、遊んでいるのに鋭い。その絶妙なバランス感覚こそが、L’Arc〜en〜Cielの強みであり、この楽曲の核心だった。

イントロが鳴った瞬間、空気が変わる。「ああ、これこれ」と身体が先に反応するあの感じ。それは25年が経った今も、少しも色褪せていない。

“ラルクらしさ”とは、ジャンルでもなく、演出でもなく――音の中にある。

『STAY AWAY』はその事実を、これ以上なく痛快な形で証明してみせた。

だからこそこの曲は、今なおライブでもファンの記憶の中でも鳴り続ける、“ラルクの音”を象徴する一撃として、生きているのだ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。