1. トップ
  2. 35年前、日本中が恋に落ちた“疾走するガールズロック” 40万枚超を売り上げた“衝撃のデビュー曲”

35年前、日本中が恋に落ちた“疾走するガールズロック” 40万枚超を売り上げた“衝撃のデビュー曲”

  • 2025.8.12

「1990年の夏って、音がいつもより熱を帯びてなかった?」

ちょうどその頃、日本の音楽シーンにはガールズバンドの波が押し寄せていた。女性が楽器を手にし、ロックを鳴らすスタイルが市民権を得はじめていたのだ。

そんな熱気の中、さらに鮮烈な衝撃を与えたのが――PINK SAPPHIRE『P.S. I LOVE YOU』(作詞:石田美紀・作曲:小路隆)だった。

1990年7月25日、この曲でデビューした彼女たちは、一気に全国区の存在となる。

undefined
※Google Geminiにて作成(イメージ)

女性たちがかき鳴らした、時代を揺らすギター

PINK SAPPHIREは、全員が女性メンバーのロックバンド。ガールズバンドブームといえど、当時はまだ演奏力やオリジナリティを備えた新人が限られており、ただ“流行に乗った”だけでは埋もれやすい状況だった。

そんな中『P.S. I LOVE YOU』は、ハードロックの骨格にキャッチーなメロディを乗せたパワーポップ路線を打ち出し、骨太な演奏でリスナーを一瞬で惹きつけた。

イントロのギターリフはまさに名刺代わり。「この音が聴こえた瞬間に、テレビの前で手を止めた」という声も珍しくなかった。

ドラマとリンクした“恋の衝撃”

この曲がさらに存在感を増したのは、安田成美主演のドラマ『キモチいい恋したい!』(フジテレビ系)の主題歌に起用されたことが大きい。余談だがこのドラマは、『地面師たち』での演技も話題となった北村一輝の俳優デビュー作でもある。

恋愛をテーマにしたドラマの中で、主人公の揺れる感情を支えるように流れるこの曲は、視聴者にとって物語と一体化した記憶として残った。放送当時は、「ドラマとセットで思い出す曲」という位置づけで語られることが多く、主題歌の力で物語がより鮮やかに印象付けられた好例となった。

結果として楽曲はヒットを記録し、売り上げは40万枚を突破。チャート最高2位の快挙に加え、第23回日本有線大賞では新人賞を受賞するなど、音楽界からの評価も高かった。

勢いだけで終わらなかった理由

当時のガールズバンドの多くは、メディア露出やイメージ戦略で注目を集めることも多かったが、PINK SAPPHIREはあくまで“音”で勝負できるバンドだった

しかもデビュー直前にはメンバー交代という大きな変化があり、本来ならバンドの結束や完成度に影響しかねない状況だった。それでも『P.S. I LOVE YOU』には、リズム隊のタイトなグルーヴ、ギターの切れ味、そしてボーカルの芯のある歌声がしっかりと刻み込まれている。

特に間奏では、ベースがスラップを思わせる鋭いアタックで曲を一気に押し上げ、続くギターソロが華やかさと攻撃性を同時に放つ。“歌モノ”でありながらも、演奏そのものが主役になれる瞬間がそこにある。

こうしたアンサンブルの強度が、新体制ならではの集中力と勢いを生み、ポップスファンからロック志向のリスナーまで幅広く受け入れられた理由だ。

さらに、サビまでの展開の緻密さや、各パートの見せ場を計算し尽くした構成など、細部に宿る“職人技”が、曲を長く聴き続けられる力を与えていた。

“第一声”が残したもの

『P.S. I LOVE YOU』の成功は、PINK SAPPHIREにとって単なるデビュー曲のヒット以上の意味を持った。

それは、ガールズバンドが一過性のブームで終わらないことを証明し、“女性がロックを鳴らす”ことが自然に受け入れられる土壌をさらに広げた出来事だったからだ

今でも、あの夏のテレビやラジオから流れたギターの一撃を覚えている人は少なくない。

35年の時を経ても、その音は色あせず、初めて耳にしたときと同じ熱を持って胸を撃ち抜く。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。