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30年前、日本中が度肝を抜かれた“未来から来たデビュー曲” 時代の感覚を塗り替えた“異質なサウンド”

  • 2025.8.8

「1995年の夏、どんな音に震えたか覚えてる?」

冷房の効いたオフィスを出て、ネオンが瞬く街へ向かう帰り道。気だるさの中に、ふと自由を感じる瞬間――

そんな時間にふさわしい、ひとつの音楽が、30年前の夜の街に突如現れた。

globe『Feel Like dance』(作詞・作曲:小室哲哉)――1995年リリース。

この曲は、単なるダンスチューンではない。音楽、時代、カルチャー――あらゆる境界を軽々と飛び越えることなるグループの衝撃的なデビュー作だった。

恋でも夢でもなく、“リアル”を鳴らすために生まれた

当初、このユニットは“Orange”という仮の名前で動き出していた。構想されていたのは、KEIKOとマーク・パンサーの2人組。だが、制作が進む中で、プロデューサーである小室哲哉自身が前線に立つ形になり、globeが誕生する。

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1998年、globeのコンサーツツアー『globe tour 1998 "Love again"』より (C)SANKEI

小室はglobeのデビュー曲となった『Feel Like dance』で「厳しい社会の中で働く女性が、仕事が終わって自由になったときの感情」を描きたかったという。

同じ年に発売されたH Jungle with t『WOW WAR TONIGHT 〜時には起こせよムーヴメント』(作詞・作曲:小室哲哉)が“男性たちの本音と解放”を描いた楽曲だとすれば、『Feel Like dance』は、その女性視点版とも言える一曲だ。

そこには、恋や夢ではなく、日々のリアルを生きる人の体温と呼吸が刻まれていた。

ちなみにマーク・パンサーは、『WOW WAR TONIGHT 〜時には起こせよムーヴメント』でもラップパートを担当している。そんなところにも、さりげないリンクを感じさせる。

なお、タイトルだが、英語の文法的には本来「Feel Like dancing」が正しい。しかしそこを、あえて「Feel Like dance」にしたのも小室流。

小室曰く、trf『EZ DO DANCE』(作詞・作曲:小室哲哉)ぐらいから、響き重視で考えるようになったそう。意味よりノリ、常識より直感。それこそが、この楽曲の強さだったのかもしれない。

フジテレビ木曜劇場の“異色すぎる主題歌”

『Feel Like dance』は、ドラマ『ひとりにしないで』(フジテレビ系)の主題歌として起用された。

劇伴音楽も、小室哲哉とその右腕・久保こーじが担当している。

当時のテレビドラマ主題歌といえば、王道バラードや感情をなぞるようなポップスが主流だった中、globeのサウンドは完全に“異物”だった。そこに暴れるシンセ、疾走感あるリズム、ラップとボーカルの掛け合い――王道バラードが多かった中で考えれば、ドラマ枠では珍しいタイプの楽曲だった。

だが、その違和感こそが、耳に焼きついた。作品世界との“調和”ではなく、“ズレ”によって生まれる余白。常識を疑う目線と、既存の枠組みに収まらない感性――それは、このグループ、この楽曲でなければ成り立たなかった。

イントロから最後の1音まで、すべてが革新

あの暴れまわる冒頭に鳴り響くシンセのリード。無条件に体が反応してしまうリズムトラック。印象的な小室哲哉のピアノリフに、マークの煽りが被さる。一瞬の静寂を示すかのような左右に振られるシーケンス音。そしてKEIKOのボーカルが、圧倒的に立ち上がる。

音が多いのに、うるさくない。派手なのに、うっとりする。そのバランスこそが、“小室サウンド”の真骨頂だった。

Aメロでは、これまでに聞いたことのないようなタイプのラップが飛び込んでくる。

もともとマークはラッパーではなかった。MTVジャパンの初代VJとしてキャリアをスタートし、小室哲哉に導かれる形で“声”の表現者として新たな道を歩み始めた。そんな彼だからこそ、ラップには“型にハマらない”魅力が詰まっていた。

そしてそのあとに現れるのが、小室哲哉自身の歌唱パート。ラップのようでいてメロディがあり、歌のようでいて機械的でもある。その上には、小室ならではの幾重にも重ねられたコーラスワークが重なり、まるでシンセサイザーのような浮遊感ある“人間の音”が生まれていた。

これは“歌っている”というより、“声で音響を操っている”という感覚。その異質さこそが、globeのサウンドにおけるブレイクスルーだった。

そしてBメロに入り、KEIKOが見せるノスタルジックな一面。そこから再び、爆発的なサビへと繋がっていく構成は、聴き手に一切の“油断”を許さない。

曲の締めくくりは、硬質なピアノのフレーズ。派手な終わりではなく、静けさで終えるというセンスが、どこまでも美しい。

発掘、再構築、覚醒――globeの“始まり”

KEIKOは、小室が主宰するイベントのオーディションで発掘された原石だった。

マークは、音楽番組のVJとしてキャリアを始めた“異分野からの越境者”。

完璧な技術ではなく、“未完成の素材”を最先端のサウンドで仕上げていく――それこそが小室流のプロデュースだった。だからこそ、『Feel Like dance』は多くのリスナーにとって、「初めて出会う音楽」になった。

『Feel Like dance』は“時代の置き土産”ではない

2025年の今、この曲を初めて聴く若者が「めちゃくちゃ新しい」と感じることは、実際によくある。

音の厚み、構成、展開、そのすべてが、2020年代のトレンドにも通じているからだ。

だがこれは、たまたま時代が追いついたのではない。

最初から、あの曲が時代の先を走っていた――それだけの話だ。

30年前に生まれたこの曲は、決して「懐かしの一曲」ではない。

むしろ、“未来に向けて意図的に設計された音楽”だった。

J-POPの中で、何が「ポップ」で、何が「正解」か――その基準を軽やかに飛び越えてみせた。

感情をぶつけるのではなく、感覚を刺激する。

技術で押し切るのではなく、未完成なままのエネルギーで突破する。

globeの『Feel Like dance』は、「音楽はこうあるべき」という前提そのものに風穴を開けた。

だからこそ、今でも色褪せない。すべてを“ズラした”ことで、“時代の外側”に立った一曲。それが、J-POP史に残る異物であり、奇跡だった。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。



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