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35年前、日本中が酔いしれた"情緒的な都市型ラブソング" 限定タイアップ→首位獲得の“予定外ヒット曲”

  • 2025.8.13

1990年の夏、日本はまだバブルの余熱を残しながらも、その裏側で少しずつ“静けさ”が広がり始める。人々の心の奥底には“これから先どうなるのだろう”という淡い不安が漂っていた。

そんな時代の空気の中で発売された、都会的でありながら情緒を帯びた一曲がある。

TM NETWORK『THE POINT OF LOVERS’ NIGHT』(作詞・作曲:小室哲哉)――1990年7月7日発売。

彼らにとって21枚目のシングルであり、『TMN』への改称を前にした最後のシングルだ。

想定外から生まれた、節目のシングル

この楽曲は、マクセルカセットテープ「NEW UDシリーズ」のキャンペーンイメージソングとして制作された。

当初はシングルとして販売する予定はなかったが、CMで流れる短いフレーズにリスナーからの問い合わせが殺到。反響がシングルリリースを決定づけた。

リリースは前作『DIVE INTO YOUR BODY』からちょうど1年ぶり。その間、3人はそれぞれのソロ活動に注力していた。個々の活動で得た経験が、再び集結した瞬間に一気に融合する――そんな高揚感が、この楽曲の中には確かに息づいている。

結果として、『THE POINT OF LOVERS’ NIGHT』はTM NETWORK史上初のシングルチャート1位を獲得。

グループにとっては、改称前最後の作品でありながら“初めての1位”という、象徴的な記録を刻むことになった。

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1990年8月、「TMN」への改称発表会見の様子 (C)SANKEI

ハードロックの骨格とシンセの煌めき

TM NETWORKの代名詞といえば、シンセサイザーを駆使した都会的で洗練されたサウンドだ。だが、この曲はそのイメージを変えてしまうほどハードロックの骨格を持っている。

ギターには、当時デュラン・デュランのギタリストであり、小室哲哉のソロ活動にも参加していたウォーレン・ククルロを起用。彼の力強くエッジの効いたプレイが、夜景のように広がる音像を支える。

イントロから漂う張りつめた空気感は、まるで都会の真夜中を見下ろす高層ビルの窓辺に立った瞬間のよう。軽快なポップソングでもなければ、静かなバラードでもない。

激しいサウンドと宇都宮隆のボーカルの組み合わせが絶妙で、聴く者を“夜の物語”の中に引き込む力を持っていた。

時代を閉じ込めた“カセット”のフレーズ

冒頭に登場する「電話ボックスに忘れたカセット」という一節は、今となっては完全に過去の産物だ。

携帯電話もインターネットも普及していなかった時代、音楽はカセットやラジカセで持ち歩くものだった。その日常的で小さな出来事を、都会のラブストーリーの入口として描き出すセンスは、まさに1990年という時代そのものを切り取った瞬間だ。

この“日常の断片から物語を立ち上げる”手法は、小室哲哉の作詞センスの真骨頂でもある。

H Jungle With t『WOW WOW TONIGHT〜時には起こせよムーヴメント』(作詞・作曲:小室哲哉)のように、都会の風景や何気ない会話の断片を切り取り、そこに時間の流れや人間模様を滲ませる。

具体的な固有名詞やモノを登場させながらも、それを聴く人それぞれの記憶や情景に置き換えられる余白を残す――それが小室流の都市型ラブソングだ。

『THE POINT OF LOVERS’ NIGHT』もまた、電話ボックスやカセットといった当時のリアルを、サウンドと組み合わせることで、不思議な懐かしさと新しさを同時に感じさせる世界観を生み出していた。

改称前夜の“交差点”

このシングルがリリースされた2か月後、TM NETWORKは『TMN』へと改称し、よりハードでコンセプチュアルな方向へと舵を切る。

『THE POINT OF LOVERS’ NIGHT』は、ポップな親しみやすさを残しながらも、次の時代を予感させるサウンドをまとっていた。

まさに過去と未来の交差点に立つ作品だったといえる。

リリース形態も時代を物語る。8cmCDのみで発売され、今のような配信やサブスクなどは存在しない。CDプレーヤーやカセットで繰り返し聴くことが、唯一の楽しみ方だった時代だ。

“予定外のヒット”がもたらした意味

本来は限定的なタイアップ曲だったこの楽曲が、ファンだけでなく一般層にも届き、結果的にチャート1位を獲得した事実は大きい。

それは単なる偶然ではなく、90年当時のリスナーが求めていた“夜のムード”と、この曲が見事に一致したからだろう。

その余裕と奥行きは、TM NETWORKが積み重ねてきたキャリアと、3人それぞれのソロ経験があったからこそ生まれたものだ。

今なお残る余韻

『THE POINT OF LOVERS’ NIGHT』は、時代を象徴する作品であると同時に、TM NETWORKの転換点を記録した曲でもある。

もしこの曲が存在しなかったら、改称後の『TMN』時代はまた違った色合いになっていたかもしれない。

今聴いても、そのサウンドは色褪せない。

そして「電話ボックスに忘れたカセット」というフレーズは、スマホ全盛の今だからこそ、より鮮やかに時代を映し出す。

懐かしさと未来感が同居した“夜の歌”――それがこの曲の普遍的な魅力だ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。



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