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「イタイ女…」「吐きそうになった」“あまりにも生々しい脚本”に厳しい声も…だけど「日本映画を変えた一作」大絶賛の名映画

  • 2025.9.15

映画のなかには、痛みを抱えながらも前に進む人を描いた作品があります。今回は、そんな中から"傷ついた心の再生を描いた作品"を5本セレクトしました。本記事ではその第1弾として、映画『愛がなんだ』(エレファントハウス)をご紹介します。好きという気持ちだけで突き進む28歳の女性テルコ。仕事も何もかも投げ出して一人の男性に尽くし続ける彼女の恋は、果たして愛なのか、それともただの執着なのか――。

※本記事は、筆者個人の感想をもとに作品選定・制作された記事です
※一部、ストーリーや役柄に関するネタバレを含みます

あらすじ

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映画『愛がなんだ』の公開記念舞台あいさつに登壇した岸井ゆきの(C)SANKEI
  • 作品名(配給):映画『愛がなんだ』(エレファントハウス)
  • 公開日:2019年4月19日
  • 出演: 岸井ゆきの(テルコ役)

映画『愛がなんだ』は、28歳のOL山田テルコ(岸井ゆきの)が、猫背でやせ型のマモちゃんことマモル(成田凌)に出会ったところから物語が始まります。

彼に一目惚れして以来、テルコは仕事も友情もそっちのけで、すべての時間を彼に捧げるようになってしまいます。仕事中でも深夜でも、マモルから連絡があれば飛んで行き、平日のデートに誘われれば勤務を放り出すほど。その結果、会社ではクビ寸前の立場に追い込まれ、親友にも呆れられてしまいます。それでも彼がそばにいるだけで幸せを感じていたテルコ。けれど、彼にとって彼女は“都合のいい女”にすぎませんでした。

マモルは時には優しくしてくれるものの、テルコが少しでも近づこうとすると距離を置いてしまいます。彼女は「嫌われたくない」という思いから、自分からは連絡もできず、気持ちを伝えることさえできません。そんなある晩、飲み明かした末にマモルの部屋へ泊まったテルコ。このことをきっかけに距離が縮まり、恋人同士になれるかもしれないと、期待するのですが…。頼まれてもいないのに家事をしたり世話を焼いたことで、逆にマモルは彼女から離れていきます――。

突然連絡が途絶え、空白の3ヶ月が過ぎたある日、ようやくマモルから電話が入ります。会いに行った先でテルコの目に映ったのは、彼の隣に寄り添う年上の女性・すみれの姿でした。

愛と執着の境界線――純度が高すぎる片思い

映画『愛がなんだ』は、直木賞作家角田光代さんが2003年に発表した同名小説を原作としています。純度の高い片思いを描いたこの小説を、『街の上で』『窓辺にて『ちひろさん』で知られる今泉力哉監督が映画化しました。

主人公テルコを演じる岸井ゆきのさんは、『神は見返りを求める』『ケイコ 目を澄ませて』『アット・ザ・ベンチ』などに出演してきた実力派。彼女の不安定で切実な表情は、原作が持つ生々しい感情をそのままスクリーンに映し出します。

相手役のマモルを演じる成田凌さんは、『チワワちゃん』『スマホを落としただけなのに ~最終章~ ファイナル ハッキング ゲーム』『雨の中の慾情』などで存在感を放ってきた俳優で、気まぐれでつかみどころのない役どころを熱演。

さらに、マモルが恋するすみれ役に江口のりこさん、テルコの友人・葉子役に深川麻衣さん、葉子を追いかけるナカハラ役に若葉竜也さんと、脇を固めるキャストも個性豊かです。

登場人物たちの関係はどこまでもリアルで、時に痛々しく映ることも――。それでもスクリーンに映し出される期待や絶望は、誰しもが経験した恋の記憶と重なり、観る者の胸を揺さぶります。

呼ばれればどこへでも…尽くすことで遠ざかる矛盾

映画『愛がなんだ』が描くのは、好きという想いの甘美さと残酷さです。

テルコはマモルの呼び出しにどんな状況でも応じ、頼まれてもいないのに家事や洗濯物にまで手を出してしまいます。けれどその献身は「愛情」ではなく「テリトリーを侵した」と受け取られ、逆に彼を遠ざけてしまいます。尽くすことが必ずしも相手を救わないという矛盾こそが、この映画の大きなテーマのひとつです。

さらに描かれるのは、すれ違う想い――恋の一方通行です。テルコはマモルを追いかけ、マモルは年上の女性すみれを見つめ、ナカハラはテルコの親友・葉子を想う。誰ひとりとして報われない恋愛模様は、SNSで「地獄のような恋の食物連鎖」と呼ばれるほど。

その構図はテルコとマモルのベッドシーンにも表れています。

マモルはテルコと肉体関係をもとうとしますが、うまくはいきません。すると直後に「中目黒って初めて降りた」と口にし、さっき別れたばかりのすみれのことを思い出すのです。すぐ横にいるのはテルコなのに、心の中は別の女性で占められている――隣にいるのに心はここにない、その残酷さが際立つ名シーンです。

相手から別に好きな人がいると聞かされるのは、もちろん苦しい時間です。けれど同時に、マモルが他人には見せない弱さや本音を自分だけに打ち明けてくれることは、どこか嬉しさを伴います。恋愛の対象としては見られていなくても、恋愛相談をされる親しい関係でいられる――切なさの中にわずかな希望が入り混じる、この複雑な心境こそが『愛がなんだ』のリアルさを物語っています。

SNSでは、あまりにも生々しい脚本に「イタイ女…」「吐きそうになった」と辛辣な声が見られ、「昔の自分と重ねすぎて死ぬかと思った」と告白する声もありました。「恋愛依存症というより執着心」と冷静に分析する人もいれば、「観たら壊れちゃうやつ」と懸念する人も。

一方で、本作を絶賛する声も多数寄せられています。「自然体で引き込まれた」「女性なら誰しも共感するような名言だらけ」といった声や、「一番好きな恋愛映画」という熱い支持。さらには「恋愛映画の質を上げる傑作」「大げさじゃなく、日本映画を変えた一作」との評価まで――。多くの観客が、この作品に恋愛のリアルと普遍性を見出しています。

『愛がなんだ』は、どうしようもなく報われない恋の中で傷つきながらも、それでも誰かを想うことで再び立ち上がろうとする――そんな傷ついた心の再生を描いた名作です。


※記事は執筆時点の情報です