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映画館で“祈る観客が続出”する理由とは?「100回行きました」「異様な光景ではある」“日本初の体験”ができる大人気アニメ映画

  • 2025.12.31
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Google Geminiにて作成(イメージ)

映画『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-』が、日本映画史に残る記録を打ち立てている。日本初のインタラクティブ映画として2025年2月21日に公開された本作は、上映館数が100館以下という制限の中で興行収入25億円を突破した。作品の仕組みとファンの熱量が生み出した、“異例尽くし”のヒットの背景を振り返る。

100館以下で25億円突破、日本映画史に残る快挙

本作は、2025年2月21日より85館で上映をスタートした。インタラクティブ上映用機材の台数に限りがあるため、その後も上映館数は60~80館前後にとどまったまま興行が続いていた。2004年に『週間映画ランキング』が開始されて以降、公開初日から100館以下の上映館数で25億円を突破した作品は本作が日本初とされている。

『ヒプノシスマイク』は、音声ドラマを原作に、テレビアニメ化やアプリゲーム化などを経て展開してきた“音楽原作キャラクターラッププロジェクト”だ。舞台は、武力による戦争が根絶されたH歴と呼ばれる世界。人を傷つける兵器は禁じられ、代わりに人の精神へ干渉する特殊なマイク『ヒプノシスマイク』を用いたラップバトルが争いの手段となった。
『イケブクロ』『ヨコハマ』『シブヤ』『シンジュク』『ナゴヤ』『オオサカ』を代表する6ディビジョンに分かれた男性MCたちは、それぞれの威信と領土をかけ、言葉だけで勝敗を決する戦いに身を投じていく。兵器ではなくリリックが力を持つという世界観は、本作の根幹であり、映画のインタラクティブ性とも強く結びついている。

観客の一票が物語を動かすインタラクティブ体験

最大の特徴は、観客がスマホを使って投票し、物語の展開を左右する仕組みだ。1回の上映につき投票は5回、ストーリー分岐は全48パターン、エンディングは7種類用意されている。
劇中では、『イケブクロ』『ヨコハマ』『シブヤ』『シンジュク』『ナゴヤ』『オオサカ』の内いずれかが勝ち上がり、最終的には女性チーム『言の葉党』との決戦に挑む。しかし、その勝敗は決められていない。彼らがラップバトルをした後、観客がスマホで「どちらが良かったか」を投票する仕組みになっている。この結果次第で結末が変わるのだ。スクリーンの前で祈るように投票結果を待つ観客の姿は、この映画ならではの光景だといえる。

筆者自身も複数回鑑賞したが、推しディビジョンのエンディングに辿り着けたのは4回目だった。1回2,500円という均一なチケット代の中で、何度も通う人がいるのは、結果だけでなく“参加する体験”そのものにも価値があるからだろう。

SNSでは「100回行きました」「何回見ても飽きない」「こんなに通ったの初めて」といった熱量の高い声が相次いでいる。さらに、結果発表の場面では胸の前で指を組んで見守る観客や、自然と拍手が巻き起こる様子も見られ、その独特な空気感に「異様な光景ではある」「この映画ならでは」という声もあがっている。

これからも挑み続ける作品の真価

本作は、単なるアニメ映画でも、音楽映画でもない。観客の一票が物語を左右し、自分自身がこの世界に入り込める“体験型コンテンツ”として成立している。25億円という数字は、その仕組みが一過性の話題ではなく、確かな支持を得た証明だろう。
兵器ではなく言葉が力を持つ世界観と、観客の選択が重なる瞬間。その熱狂はスクリーンの中だけで完結せず、劇場そのものを物語の一部に変えてしまった。本作は、映画の楽しみ方そのものを更新した一本として、今後も語り継がれていくはずだ。


ライター:柚原みり。シナリオライター、小説家、編集者として多岐にわたり活動中。ゲームと漫画は日々のライフワーク。ドラマ・アニメなどに関する執筆や、編集業務など、ジャンルを横断した形で“物語”に携わっている。(X:@Yuzuhara_Miri