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「大人のための絵本」モデル・アンヌさんの名作選ちいさなどろぼう~『くまさぶろう』『すてきな三にんぐみ』~vol.34

  • 2025.7.18

パリ街中での出来事

こんにちは。アンヌです。
暑いので家で映画漬けになっていたら、シャルロット・ゲンズブール主演の『小さな泥棒』(1988年フランス)を再び観たくなりました。盗みなどの非行を繰り返す少女が主人公。時代は50年代、行き場がない子どもが精一杯、大人になろうとする青春ドラマです。
時代は変わり、今のフランスの泥棒事情も様変わりしました。
10歳そこそこの子どもが集団でスリを謀(はか)る光景がパリの街中でちらほら。満員電車に乗り込んでくる様子には独特なものがあります。これに慣れている乗客たちは「また例のね」と目配せし合い、笑みを浮かべて手荷物をしっかり抱え込む。「盗もうったって、そうはいかないよ」。昭和の駄菓子屋にあったような、どこか悪巧みを憎めない空気が漂うのです。
少し前に、母がプラス・ディタリー(Place d'Italie パリ東南部の13区)に住む友人を訪ねに行ったことがありました。どこに行くにも便利で、治安も悪くない住みやすい所です。地下鉄を降りると足早に改札から地上へ。そして横断歩道をスタスタと渡っていると、ふと後ろから大きな声が。
「マダム! マダム!」
息を切らせて子どもが追いかけてきました。
どうしたのかと立ち止まると、差し出されたのは見覚えのあるお財布。
「マダム、落とされましたよ」
丁寧なフランス語です。
いつの間に落としたのかと不思議に思いながらも、拾ってくれたお礼を言おうとしたらもういません。あっという間に走り去ってしまったのです。
地下鉄の入り口には子どもの集団が。
あ! しまった!
母は、慌ててお財布の中を見ました。案の定、現金は一銭も入っていません。でも、健康保険証、身分証明書、運転免許証、クレジットカード、キャッシュカードは、すべて残っています。お財布を盗まれれば、中身だけ取ってポイ捨てされたり、カードの悪用だってよくあることです。でも、「礼儀正しい」小さな泥棒は、なくなったら困るだろうものは返してくれたのです。「何てお行儀がいいんでしょう! チップでもはずみたいくらいだったわ」と母に言わせたほどでした。
盗みはもちろん良くないことです。でもなぜこうした子どもたちがいるのか。さまざまな背景と事情を踏まえると一概にはいえません。悪と知りつつ、どこか許せたり和んだりもするのが「人」なのでは。ふと、シャルロット扮する悪いジャニーヌを思い出しました。不思議と惹かれたのは、揺らぐ思春期に立ち位置を探して、大人の仕草や話し方を盗もうとしていた自分と重なっていたからかも。
今回は、ハートウォーミングな泥棒の話をご紹介します。

『くまさぶろう』

作/もりひさし 絵/ユノセイイチ
(1,870円 こぐま社)
泥棒の名人くまさぶろう。最初の頃は、子どものおもちゃや、人の傘をすっと取っていました。盗みを繰り返すうちに腕が磨かれ、やがて大きな象も盗めるほどに。でもまだ大泥棒といえるには不十分でした。しかしあるとき……。凄腕へと成長してゆく姿に意表をつかれ、心揺さぶられます。読み終えた後、人の気持ちを思いやり、癒やせるような、「大泥棒」でありたいという思いが余韻に。「盗み」を広く捉えた視点と味わい深い絵が大変魅力的な、道徳を超えた一冊です。

『すてきな三にんぐみ』

作/トミー・アンゲラー 作
訳/今江祥智(いまえよしとも)
(1,320円/偕成社)

黒いマントに黒い帽子を被った3人組は、夜になるとお宝求めて馬車を襲います。誰もが恐れる大泥棒。しかしある時出会った孤児のティファニーちゃんは違いました。意地悪なおばさんに預けられるより、この3人の方がずっと楽しそう。そこで、着いていくことに。宝の山を目にすると、ティファニーちゃんは聞きました。「これどうするの?」そこで、大泥棒が編み出したのは……。彼らは一体悪者なのか善良なのか。短絡的な常識を覆す物語と原色が輝くデザインが、多くの世代に響く一冊。創作絵本作家アンゲラーの代表作です。

*画像・文章の転載はご遠慮ください

この記事を書いた人

モデル、絵本ソムリエ
アンヌ

アンヌ

14歳で渡仏、パリ第8大学映画科卒業。
モデルのほかエッセイやコラムの執筆などで活躍。
最近は地域で絵本の読み聞かせ活動も行っている。

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