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結論が出ない「持ち家vs.賃貸どちらが得か」問題…元財務官僚が「答えはけっこう簡単」と断言するワケ

  • 2025.7.3

「持ち家と賃貸のどちらがよいか」はなかなか結論の出ない問題だ。持ち家派は「家賃を払っても資産にならないから買ったほうが得」というが、本当のところはどうなのか。経済学者で元財務官僚の髙橋洋一さんは「地価の仕組みが分かっていれば簡単に答えられる」という――。

※本稿は、髙橋洋一『お金のニュースは嘘ばかり』(PHP新書)の一部を再編集したものです。

RENT/BUYと書かれた木製の家
※写真はイメージです
持ち家か、賃貸か

年金と並んで、中高年の暮らしに関する大きな問題は「家」でしょう。住宅に関してよく聞かれるのは「持ち家と賃貸、どちらがよいか」という質問です。

答えはけっこう簡単で、最初から土地や家をもっていない人であれば、賃貸のほうがよい。

最初から資産があるならともかく、資産をもたない人がお金を出してわざわざ資産を買う、というのは端から不利で、資産をもつために払ったお金が無駄になる確率のほうがはるかに高い、と知るべきでしょう。

土地が上がる、というのも神話です。たとえば一つの土地が100年にわたり1000万円の価値を保ち続ける、という確率はほとんどない。土地は利用してナンボで、利用する企業が多ければ地価は上がるし、少なければ下がります。確率を予想するのは困難で、コロナのような突発的な事態が起きてリモートワークが隆盛になれば都心のオフィス価格は下がるし、土地も下がる確率が高い。

地価が高いときに住宅ローンを組んで家を買った人が、給料から払いきれずに結局、土地や家を売らざるをえなくなる人が出てきます。1億円の土地で1億円の融資を受けて土地が5000万円に下がれば、返せなくなるのは子どもでもわかる話です。

土地を買う人にはそれだけのリスクが掛かる、ということ。ただ住むだけであれば、持ち家のリスクなど負わずに借りるほうがはるかに楽でしょう。

家賃は地価によって決まる

「毎月、大家さんにお金を払うぐらいなら、自分で持ち家を買ったほうが得だ」という人がいますが、なぜ「得」なのかがわかりません。

月々の家賃は何によって決まるのか。基本的には、地価によって決まります。たしかに地価が大幅に上がって大家さんの手取り額が莫大なら、部屋の借り手も土地を買ったほうが得になるかもしれない。でも地価が上がらず、大家さんの手取り額が少なければ、家賃と土地を買う金額はあまり変わらないはずです。

先ほど述べたように、土地の値段が上がり続けることはまずありません。であれば、家賃を払おうと土地を買おうと大差ない。むしろ高額の土地を買って地価暴落のリスクを背負うほうがよほど「損」です。常識的に見て、持ち家より賃貸を選ぶ判断はごく普通だと思います。

新しい家の鍵を男に渡す不動産業者
※写真はイメージです
長期の高い変動リスクを抱えてお金を借りる行為

もう一つ、住宅ローンを借りる人は貸し手側の気持ちを理解していません。

住宅ローンを貸している側からすれば、地価が下がれば担保価値が下がるわけです。貸し手としては当然、取りっぱぐれの心配をして焦ります。借り手に対して地価の下落分を追加で担保に入れるよう求めるのは、十分ありうることです。

その瞬間、借り手としてはローンが払えず「詰み」になる可能性が高い。ローンを借りて安穏としていられると思うのが間違いで、貸し手の立場になれば地価下落のリスクがわかります。銀行も企業と同じで経営をしているわけですから、返済が滞れば土地を取り上げ、身ぐるみを剝がそうとする事態も当然、想定できます。

「借り換えをしませんか」というのは魔の誘いで、貸し手は収入減を何としても阻止し、儲けを出すことしか考えていません。自動車ローンの場合は短期なのでまだしも、最大35〜50年もの長期にわたり、高い変動リスクを抱えてお金を借りるのは、筆者から見てずいぶん勇気のいる博打です。自分といっさい関係ない周囲の状況変化で数千万円ものお金を失うかもしれないのですから、とんでもないリスクといえます。

筆者の印象では、田舎から都会に出てきた人ほど持ち家信仰が強い。実家に土地や家があるならば、なぜわざわざもう一つ買おうとするのでしょうか。東京生まれで地元の歴史を知る者からすれば、堤防に囲まれた川沿いの新築住宅を目にするたび、身震いがします。山の手はともかく、江戸城・墨田川より東は水が流れるように堤防の高さを下げており、台風・大雨による洪水リスクがひときわ高い。

いま住宅ローンを払っている人には気の毒で、日本の地価が下がらないよう祈るばかりです。

ちなみに、いま抱えている住宅の価値を計算して価格が高ければ、住宅を売却してローンを期限前に返済し、負債がチャラになってお釣りが来るかもしれません。

所得税の補完としての相続税

一方、親の家や土地がある人にとって、心配なのは相続税でしょう。親が生きているあいだに譲れば、贈与税。仮に生前贈与が非課税ならば皆、贈与をするに決まっています。「相続税の補完」として、贈与税があるわけです。

では、相続税があるのはなぜでしょう。世界を見れば、シンガポールやオーストラリア、ニュージーランド、スウェーデン、ノルウェー、ポルトガルなどには相続税がありません。これらの国で相続税を課さない理由の一つは、世界の富裕層を呼び込みたいからです。

相続税が存在する理由は、相続税と贈与税の関係と同じです。すなわち、相続税は「所得税の補完」。現状では所得税の脱税があり、生きているうちに万遍なく捕捉するには限界があります。そこで代わりに相続時の課税を行ない、所得税の未回収分を徴収するのが狙いです。

相続税はゼロにできる

裏を返せば、マイナンバーの活用によって所得税を完全に捕捉できれば、脱税がなくなって税収が増え、相続税をゼロにできます。2023年分の相続税収は約3兆53億円で、明らかに少ない。基礎控除額を大幅に下げたにもかかわらず、真面目に収める人がほとんどいないのです。

髙橋洋一『お金のニュースは嘘ばかり』(PHP新書)
髙橋洋一『お金のニュースは嘘ばかり』(PHP新書)

法人税の税逃れを完全に捕捉できれば相続税はゼロにできるし、所得税の税逃れを完全に捕捉できれば、法人税はゼロにできる。相続税と法人税がともにゼロというのは理論上、最も美しい姿です。

マイナンバーによる税収の捕捉を徹底するとともに累進課税を強め、生前に漏れなく所得税を集めるのが、いちばん正しい解法です。リベラルは富裕層に対する累進課税の強化や大企業に対する法人税引き上げだけを主張するけれども、理屈をいえばいま生きている個人の脱税をなくすほうが先決で、所得税を完全に徴収できれば、法人税との二重課税という状態も解消されるでしょう。

髙橋 洋一(たかはし・よういち)
政策工房会長、嘉悦大学教授
1955 年、東京都生まれ。東京学理学部数学科・経済学部経済学科卒業。博士(政策研究)。80 年、大蔵省(現・財務省)入省。大蔵省理財局資金企画室長、プリンストン大学客員研究員、内閣府参事官(経済財政諮問会議特命室)、内閣参事官(首相官邸)などを歴任。小泉内閣・第1 次安倍内閣ではブレーンとして活躍。2008 年に『さらば財務省!』(講談社)で第17 回山本七平賞を受賞『髙橋洋一のファクトチェック2025 年版』(ワック)、『明解!金融講義 世界インフレ時代のお金の常識・非常識』(ソシム)、『財務省亡国論』(あさ出版)ほか著書多数。

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