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35年前、日本中の心に火を灯した“まっすぐすぎる情熱ソング” バブルの余韻に響いた“叫ばない叫び”

  • 2025.7.19

1990年、日本はまだバブル景気の余韻の中にいた。モノが売れ、街に音が溢れ、テレビの向こうでは毎晩のように笑い声が響いていた。けれど、そのきらびやかな表面とは裏腹に、どこか“心の静けさ”を求める声がくすぶっていた時代でもある。

そんな空気の中、叫びではなく、“語りかけるような音”が、多くの人の心に火を灯した。

THE BLUE HEARTS『情熱の薔薇』(作詞・作曲:甲本ヒロト)ーー1990年7月25日リリース。

“パンク”とは何か。その答えが、そこにあった。

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(C)SANKEI

叫ばない。煽らない。それでも“燃えていた”

THE BLUE HEARTSは、1985年に結成されたパンク・ロックバンド。デビューシングル『リンダリンダ』(作詞・作曲:甲本ヒロト)や、『TRAIN-TRAIN」(作詞・作曲:真島昌利)などのヒット曲を世に送り出し、当時のバンドブームの中心的存在のひとつだった。

荒々しくて、真っすぐで、何より「熱い」バンドという印象が強い。しかし『情熱の薔薇』は、それまで世間が彼らにもっていたイメージと比べると異質な曲だった。

紡がれる言葉は淡々と穏やか。けれど、内側から何かがじわじわと湧き上がってくるような不思議な曲だった。

リズムはシンプル。メロディはどこか優しい。だが、そこに込められた想いは、これまで以上に強く、深く、聴く者の心に刺さった。

「永遠に変わらないものはあるのか?」「今までの常識が常識じゃなくなったら?」

当時、華やかなバブルの終わりが見え始めていた中で、静かで誠実な言葉は、多くの人にとって“真実”だった

テレビから流れた“本物のバンドの音”

『情熱の薔薇』は、斉藤由貴が主演をつとめたドラマ『はいすくーる落書2』(TBS系)の主題歌として起用された。

THE BLUE HEARTSにとっては、前作『はいすくーる落書』で『TRAIN-TRAIN』が使われた縁もあり、2作連続でのテーマ曲抜擢となった。

このドラマは、型破りな教師と問題児たちのぶつかり合い、そして少しずつ心を通わせていく姿を描いた作品だ。

一見どうしようもない不良たちが、誰かに本気でぶつけられ、言葉ではなく「本物の気持ち」と出会って少しずつ変わっていく。それはまさに、“目に見えない本当のもの”に触れた瞬間の物語だった。

だからこそ、『情熱の薔薇』がこのドラマに流れた時、それは単なる主題歌ではなく、物語の“心の声”そのものになっていた。

バンドにとっても、この曲は大きな転機となる。THE BLUE HEARTS最大のヒット曲となったのは、テレビを通じて、彼らの“本質”がそのまま全国に届いたからだろう。

当時の音楽番組での彼らの演奏は、華やかな演出に彩られた他のアーティストとはまるで違っていた。ただ音と向き合い、誠実に演奏する4人の姿。その無骨さは、まさに“嘘のない音楽”を信じる彼らの姿勢そのものだった。

大声を張り上げるのではなく、小さな真実を全力で伝えるという覚悟。

そのスタンスは、世間が持つ勝手な「パンクバンド」像とは違う、本当の意味での魂の叫びがあった。そしてそれは、『はいすくーる落書2』に登場する不器用な若者たちが、誰にも見せなかった「情熱」を内側で燃やしていた姿とも、どこか重なっていた。

ドラマも、曲も、どちらも声高に語らない。けれど、心の奥で確かに変化が始まる瞬間を、私たちはそこに見ていた。

この曲が「時代」に勝った理由

1990年は、平成になって2年目。街にはまだ昭和の記憶が残りながらも、次の時代に向けた空気がゆっくりと動き出していた。

音楽シーンでは、第二次バンドブームの熱がまだ冷めやらぬ中で、ロックバンドが“若者のリアル”を代弁する存在だった。音楽番組には、生身の言葉でぶつかるバンドがひしめき合い、派手な演出や技巧よりも“何を歌っているか”が重視されていた時代でもある。

そんななかで『情熱の薔薇』は、それまでのTHE BLUE HEARTSが放っていた衝動的なエネルギーとは一線を画す曲調で、聴く者の耳に残った。

ヒロトは相変わらずステージで飛び跳ね、叫び、全力だった。だがこの曲には、ただ暴れるだけではない、内に秘めた“決意”のようなものが滲んでいた。

「今でも、あの歌の中に戻りたくなる」

『情熱の薔薇』は、今も多くの人にとって“心の中のスタンダード”であり続けている。

決して歌詞を語らずとも、あの曲を聴いた瞬間に自分のどこかが温かくなるような、不思議な感覚。

それは、「ちゃんと大人になろう」と決めた瞬間の記憶だったり、「本当の幸せってなんだっけ?」と自問した夜の記憶だったりするのかもしれない。

今、社会も、音楽も、日常も、ものすごいスピードで流れていく。

でも、ふと立ち止まって、あの曲を聴いたとき、“自分のままでいい”と思わせてくれる何かがそこにはある。

35年前、静かな炎が灯ったその瞬間は、今も私たちの胸の奥で、確かに燃え続けている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。