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35年前、日本中が息を呑んだ“革命のお色気ソング” 静かすぎて逆に目立った“笑わないアイドル“の真骨頂

  • 2025.7.27

「35年前の今頃、どんな音楽が街に流れていたか覚えてる?」

1990年。バブル景気の高揚はまだ表向き続いていたが、その足元ではすでに地価の下落や株式市場の混乱が始まり、「なんとなく不穏」な空気が漂い始めていた。

カラフルでエネルギッシュだった1980年代の終焉と、新しい時代の輪郭が見えないまま進む平成の序章――そんな中で、ひときわ異彩を放ったのがWinkだった。

彼女たちがリリースした『Sexy Music』(作詞・作曲:Ben Findon・Mike Myers・Bob Puzey 日本語詞:及川眠子)は、1990年3月28日に発売された7枚目のシングル。

世の中がまだ明るいふりをしていた頃、Winkは“静かに”時代の変化を映していた。

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(C)SANKEI

“笑わないアイドル”が塗り替えた空気

原曲はイギリスの姉妹グループのノーランズが1981年にリリースしたダンスナンバー。『ダンシング・シスター(I'm in the Mood for Dancing)』(作詞・作曲:Ben Findon・Mike Myers・Bob Puzey)などで知られる彼女たちの代表的な1曲だ。

Winkはこの『Sexy Music』を、驚くほど冷静に、そして無表情にカバーした。

テレビ番組でのパフォーマンスも、声を張らず、笑顔もなく、ただ整った振り付けをなぞるだけ――にもかかわらず、目が離せなかった。

「静かすぎて、逆に目立つ」。そんな存在感が、当時の若者たちの記憶に焼きついた。

表情を消したまま、色気を生んだ

この不思議な魅力を形づくっていたのが、作詞家・及川眠子による日本語詞だ。

彼女は『淋しい熱帯魚』『愛が止まらない』などでもWinkの歌世界を支えてきた存在で、後に『残酷な天使のテーゼ』でもその筆致が話題となる。

及川が手がけたこの詞は、原曲の陽気なセクシャリティをあえて抑え込み、クールで醒めた色気へと変換したような印象を受ける。

「誘っておきながら一歩引く」ような、距離感のあるセクシーさがそこにはあった。

Winkの“ちぐはぐ”な美学

Winkは、衣装やビジュアルではむしろ王道アイドル路線に近い存在だった。揃いの衣装はフリルやレースをあしらい、時にバブリーで“ぶりぶり”とも言える華やかさを漂わせていた。

それにもかかわらず、パフォーマンスは無表情で、淡々と揃った所作を重ねるだけ。

「甘い見た目で、冷たい態度」――このギャップが、強烈なインパクトとして記憶に焼きついた。

見た目は可愛らしいのに、笑わない。

ふわふわの衣装なのに、心ここにあらずのような静けさ。

その“ちぐはぐさ”こそがWinkの真骨頂だった。

過剰の時代に、あえて引いた存在

当時の音楽番組では、他の出演者が全力のパフォーマンスを見せる中で、Winkの二人はまるで感情を抑えた彫像のように映った。

それは、過剰を良しとしたバブルの価値観に対して、「そこまでは乗れません」とでも言いたげな引き算の美しさだった。

彼女たちが生み出した『Sexy Music』の“静かな衝撃”はセールスだけでなく、人々の記憶に残る「異物」としての価値を持っている。

35年経っても、色褪せない違和感

あの時代、なぜこの曲がここまで印象的だったのか。明るさや笑顔、前向きなエネルギーが求められる中で、Winkはすべてをそっと引いた。

笑わないこと、語らないこと、動かないこと。

それらが、結果として時代の“終わり”を静かに告げていたのかもしれない。

『Sexy Music』は、アイドルポップの文脈において、異端でありながら確かな存在感を放った1曲だ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。