1. トップ
  2. ライフスタイル
  3. 私の忘れたくない一行。飯島章友、川合大祐、柳本々々、ササキリユウイチが選ぶ「川柳」

私の忘れたくない一行。飯島章友、川合大祐、柳本々々、ササキリユウイチが選ぶ「川柳」

  • 2025.6.17
飯島章友、川合大祐、柳本々々、ササキリユウイチ

飯島章友

忘れたくない一行

鉄棒に片足かけるとき無敵

なかはられいこ/作。『くちびるにウエハース』(左右社)収録。

「足掛け回り」の場面として読んだ。近年「無敵の人」なんて言葉がある。それは失うものがなく、絶望と表裏一体になった無敵だ。でもこの句の無敵は逆。自信と表裏一体だ。なぜなら鉄棒で回転するときの恐怖心も消え失せ、今や自分自身すら敵ではなくなっているからだ。こんな無敵感が待っているから前向きになれる。

忘れたくない、自身の一行

上向きにすれば蛇口は夏の季語

『成長痛の月』(素粒社)収録。

profile

飯島章友

飯島章友

いいじま・あきとも/1971年東京都生まれ。柳誌『川柳スパイラル』『川柳雑誌「風」』にも参加。

川合大祐

忘れたくない一行

いい孤独

柳本々々/作。『バームクーヘンでわたしは眠った』(春陽堂書店)収録。

「いい孤独」。これで一句なんである。五七五じゃないのに川柳?と言われるかもしれないが、私は「表現をする」可能性に勇気をもらった。ああここまでやっちゃえるんだ、という勇気。句として見れば「孤独」が五七五から外れ孤独でいるというメタ構造句なのだが、理屈抜きにおもしろい。おもしろい言葉は、勇気だ。

忘れたくない、自身の一行

関脇のタイムトンネル掘るちから

『リバー・ワールド』(書肆侃侃房)収録。

profile

川合大祐

川合大祐

かわい・だいすけ/1974年長野県生まれ。句集に『スロー・リバー』(あざみエージェント)などがある。

柳本々々

忘れたくない一行

生きているのを忘れてた 光ってた

普川素床/作。『川柳作家全集 普川素床』(新葉館出版)収録。

おしまいだと感じられたのにピカピカしてるのはなんでだろ。「なんで?」「ううん」「うん」すごく悲しいのに絶望してるのにあたりがこんなにまぶしいのはなんでだろ。「いつも未来はふしぎ」「え」終わりに立った私ときみがきらきらしてる。めをあける。私はふいに口にする。「いつもみらいはひかりなんだね」

忘れたくない、自身の一行

花たたきつけるかもしんないもん、会ったら

『バームクーヘンでわたしは眠った』(春陽堂書店)収録。

profile

柳本々々

柳本々々

やぎもと・もともと/1982年新潟県生まれ。詩人としても活動をし、2019年には第57回現代詩手帖賞を受賞。

ササキリユウイチ

忘れたくない一行

紀元前二世紀ごろの咳もする

木村半文銭/作。『はじめまして現代川柳』(書肆侃侃房)収録。

咳をしても一人、生半可な孤独。二千年前のやつらは無論、全滅さ……。川柳の咳の寂しさは途轍もない。だが様子がおかしい。弩級の孤独になっちまう咳を、ほかの咳も併せて、いつでもできると言いたげだ。「ごろ」のいい加減さ、のらりくらり。徹底的に孤独になりに行ける。現代川柳は、複雑に、ポジティブだ。そうだろ?

忘れたくない、自身の一行

凌霄がどうなったっておれの負け

『馬場にオムライス』(私家版)収録。

profile

ササキリユウイチ

ササキリユウイチ

1998年生まれ。句集に『馬場にオムライス』『飽くなき予報』(共に私家版)などがある。

元記事で読む
の記事をもっとみる