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「登場人物クズばかり」「不快感しかない」“驚愕のゲス展開”に視聴者騒然…それでも「観た甲斐あった」心満たされる名映画

  • 2025.6.30

映画の中には、胸を締め付けられるような感動を描いた名作があります。今回は、そんな中から「心がえぐられる作品」を5本セレクトしました。本記事ではその第4弾として、映画『彼女がその名を知らない鳥たち』(クロックワークス)をご紹介します。執着と軽蔑が交錯する共感不能の関係。見た目ではわからない“本当の姿”に触れたとき、心に残るのは、衝撃か、それとも後悔か――。

※本記事は、筆者個人の感想をもとに作品選定・制作された記事です
※一部、ストーリーや役柄に関するネタバレを含みます

嫌悪と依存が交差する日常 と“消えた男”のゆくえ

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(C)SANKEI
  • 作品名:『彼女がその名を知らない鳥たち』(クロックワークス)
  • 公開日:2017年10月28日
  • 出演:蒼井優(北原十和子 役)

自堕落な生活を送る十和子(蒼井優)は、15歳年上の不潔な男・陣治(阿部サダヲ)と暮らしています。しかし十和子は、8年前に別れた黒崎(竹野内豊)を忘れられずにいます。陣治のことを嫌悪しながらも、生活は彼の稼ぎに頼りきり。そんな彼女は、黒崎に似た水島(松坂桃李)と不倫関係に。

やがて、黒崎が行方不明だと知らされ、十和子は陣治に疑いの目を向け始めます。執着心をあらわにする陣治が失踪に関わっているのでは――。水島の身にも危険が及ぶのではと、不安が次第に恐怖へと変わっていきます…。

“見るに堪えない自堕落な女”と“下品な男”…“イヤミス”の真骨頂に絶賛の声

この映画は、読後にイヤな気持ちが残るミステリー、通称“イヤミス”のジャンルで知られる作家・沼田まほかるさんの同名小説を原作としています。監督を務めたのは、『凶悪』『死刑にいたる病』などで知られる白石和彌監督。出演は蒼井優さん、阿部サダヲさん、松坂桃李さん、竹野内豊さんといった実力派俳優です。

蒼井優さん演じる十和子は、同居人・陣治に寄生しながら不倫に溺れる女性。一方、阿部サダヲさん演じる陣治は、彼女に執着しストーカー行為を繰り返す男です。衣装や美術も、二人の“どうしようもなさ”を際立たせます。陣治の服は汚れており、十和子の部屋には、彼女のだらしなさを象徴する長い電気の紐が吊るされるなど、細かな演出が光りました。

SNSでは、リアルな演技や演出、目に余る展開に「登場人物クズばかり」「全く共感できない…不快感しかない…でも面白い!」「見るに堪えない自堕落な女、下品な男を蒼井優と阿部サダヲが演じきっている」「蒼井優さんの最高傑作だと思った」「観た甲斐あった」「久々にずーっと観入っちゃう映画で面白かった」「観終わった最後に面白かったなって満足できる映画」と絶賛の声が寄せられています。

“理想の人に抱いた幻想”と“不器用な優しさ”のあいだ

一見すると詩のように響くタイトル『彼女がその名を知らない鳥たち』。ネット上では、この“鳥たち”が何を指しているのかについて、さまざまな考察が語られています。

まず、“鳥たち”とは十和子の周囲に現れる男たち――黒崎、水島、そして陣治――を指しているのではないかという意見。黒崎や水島は、当初は魅力的で理想的に映る存在ですが、物語が進むにつれて、身勝手さや軽薄さが明らかになります。

一方、冒頭では不潔で下品にしか見えなかった陣治が、実は誰よりも献身的に十和子を守る姿を見せます。見た目や第一印象では測れない「本当の姿」に、十和子もようやく気づきはじめます。

「その名を知らない」とは、その人の本当の姿を知らない、という意味ではないか――。そんな見方があるのも、うなずけます。

また、序盤で“鳥”は、ヒッチコックの名作映画『』のように不吉な存在として描かれますが、終盤には無数の鳥が空へ舞い上がる印象的なシーンが登場します。その飛翔は、恐れや不安の象徴だった“鳥”が、メーテルリンクの『青い鳥』のように、優しさや愛情の象徴へと変わっていく過程を映しているようにも感じられます。

さらに、陣治を“親鳥”のような存在と重ねる見方もあり、共通して言えるのは「彼女がその名を知らない鳥たち」とは、十和子が気づかずにいた愛や優しさ、あるいは、失って初めて知る感情を指しているのではないか、という視点です。

なんだろう、このずっと続く気持ち悪さ。だけどラストは衝撃と切なさが残った」といったコメントがあるように、気づけなかったことへの痛みこそが、この映画が「心をえぐられる作品」と言われる理由ではないでしょうか?

 愛されていたことに後から気づく痛み。そうした名前のない感情が、十和子の知らなかった「鳥」として、物語の中を静かに飛び続けているのかもしれません。


※記事は執筆時点の情報です