1. トップ
  2. ライフスタイル
  3. 歩道を走る自転車は全員「反則金6000円」?…日本の危険な道路で始まる「青切符取り締まり」への最大の懸念

歩道を走る自転車は全員「反則金6000円」?…日本の危険な道路で始まる「青切符取り締まり」への最大の懸念

  • 2025.5.2

警察庁は2026年4月から、自転車の交通違反に対して「青切符」を導入する方針だ。反則金の対象として、スマホの「ながら運転」や信号無視など113の違反行為が挙げられている。自転車評論家の疋田智さんは「事故に直結する危険な違反を重点的に取り締まるメリハリが必要だ」という――。

確かに「危険自転車」は目に余る

4月24日に警察庁から「自転車のルール違反にも青切符を導入し、反則金を徴収する」とのリリースが出された。5月24日までパブリックコメント(意見公募)を実施したうえで、来年4月1日から運用を始める方針だ。

この連載でもたびたび書いていたとおり、私は「導入やむなし」と思う。というより個人的に大賛成だ。自転車のルール違反はこのところ目に余るから。その結果、交通事故の中の自転車事故の率は、このところうなぎ上りとなっている。

今回の警察庁案は113項目の具体例について、反則金の額が提示された。

発表当日は、テレビのニュースやワイドショーで流れ、翌朝の新聞にもかなりの大きさで報じられた。

「スマホを見ながら」で1万2000円

自転車の「青切符」の反則金額は原付バイクをベースとしたとのこと。違反内容に応じて3000円から1万2000円だという。

いくつか見ていこう。最高額は、スマホがらみだ。

▼ 携帯電話使用等(保持)1万2000円

じつはスマホながら運転は「事故に結びつくような危険な運転」の場合、赤切符が切られるという。赤切符すなわち刑事処分である。この青切符は「そこまでじゃないが、とにかくスマホ見ながらはダメ」ということらしい。

自転車に乗りながらスマホを使用している男性の手元
※写真はイメージです

その他、金額ごとに見ると、こんなところになる。

▼ 信号無視、逆走、歩道走行は、6000円 ▼ イヤホン着用運転(必要な音が聞こえない状態で運転する行為)や傘差し運転、一時不停止、車間距離不保持は、5000円 ▼ 並んで走る行為や2人乗りは、3000円

……など。

こういうのが113項目ある。私はこれらを見ているうち、次第次第に「あ、ダメだ、これは」と思ってきた。

【図表】「青切符」の対象となる自転車の交通違反(反則金6000円~)
警察庁「自転車をはじめとする軽車両の反則行為と反則金の額」より編集部作成
多くの生徒・学生が「違反者」に

テレビ画面の中で多くのキャスターは「これからはこうなります」と、淡々と進行するばかりだった。その後どうなるかがまるでない。このあたり、私は本当に不思議なんだが、普通の想像力を働かせれば、こんなのが有名無実に陥るのはすぐに分かるだろう。

たとえば反則金3000円の「並んで走る行為」。地方の高校生なんかがよくやってて、迷惑といえば迷惑だが(法律でも自転車の並進は違反)、これを全部取り締まるの? と思う。

東京の歩道でビジネスマンの乗る自転車が並列して走っている
※写真はイメージです

反則金5000円の「車間距離不保持」などは、高校や大学の自転車部なんて全員違反だ。人気マンガ『弱虫ペダル』の登場人物たちももれなく反則金。ことさらに113項目に挙げることが必要だろうか、これ。

【図表】「青切符」の対象となる自転車の交通違反(反則金3000~5000円)
警察庁「自転車をはじめとする軽車両の反則行為と反則金の額」より編集部作成
歩道を走る自転車を全て取り締まる?

一番の疑問点は、反則金6000円の歩道走行だ。

たしかに法律上は「自転車は車道が原則、歩道は例外」ということが決まっている。また歩道はその例外規定においても徐行(時速7.5キロ以下)となっている。

しかしだ。現状は、誰もが知ってるとおり、ほぼすべてのママチャリが歩道を走っているし、徐行なんて誰も守っちゃいない。ということは、全員、青切符の対象なのだ。

これをどう取り締まるというのだろう。だいたい取り締まる側の警察官が圧倒的に足りていない。

おそらく来年4月の施行日には新聞テレビ巻き込んで大キャンペーンで「今日から青切符です」「○○交差点では、次々と違反自転車が止められました」なんて、いつものパターンで報じられるだろう。

で、おおよそ2週間騒いだらおしまいだ。その間、歩道走行するママチャリ同士で「反則金6000円も取られちゃったわ」「運が悪かったわねぇ」なんてことが頻発する。

そもそも日本の車道は危険すぎる

そもそも車道に出ようにも、車道の左端は違法駐車だらけで、それを避けて走らねばならない。中には自転車専用レーンを塞ぐようにして駐車している車もあり、危なくて仕方がない。まずは違法駐車の取り締まりが先決だろう。

自転車専用レーンに2台続けて駐車していた
自転車専用レーンに2台続けて駐車していた

さらにいうなら「自転車走行スペース」の整備が欧米他国に較べて貧弱すぎる。ママチャリライダーたちが「恐くて車道が走れない」と感じるのは、今のままでは当たり前なのだ。

自転車専用レーンが整備されていても、駐車している車のせいで車道にはみ出すしかなく、危険な状態に
自転車専用レーンが整備されていても、駐車している車のせいで車道にはみ出すしかなく、危険な状態に

それに「運が悪かった」などという取り締まりは、最悪最低の取り締まり方だろう。摘発された人は「今後はこうしよう」「安全のために」と思うだろうか。絶対に思わない。

そもそも今回の青切符は「自転車事故を減らす」のが目的のはずなのに、今回の青切符案は、その目的に合致しているとは思えないのだ。

「絶対ダメなヤツ」から取り締まるべき

今回の青切符導入に際して一番必要なのは、取り締まりのメリハリである。

事故に直結する危険な違反は、厳然としてある。それは「スマホながら」「逆走」「信号無視」「遮断踏切侵入」などだろう。必要なのは、どうしてもこれだけは摘発しないと事故が減らないという「絶対ダメなヤツ」の選別だ。そういうのを、3つ、4つ指定して、そこを重点的に取り締まることだろう。

自転車専用レーンを逆走する自転車。これは「絶対ダメなヤツ
自転車専用レーンを逆走する自転車。これは「絶対ダメなヤツ

歩道走行や、併走、傘差しなどは「しないに越したことはない」が、今はまだいい。だいたい113項目もの違反行為を誰が覚えられるというのか。取り締まる現場の警察官に、傘スタンド「さすべえ」はどうなのか、イヤホンの解釈はどうか、私の前で説明してみろと言いたい。

そしてなにより「違法モペッド」の問題はどうなのか。街中に電ジャラス自転車が蔓延しているのを放置して「歩道走行の取り締まりです」なんてどうかしているとしか思えない。

刃物を持った殺人鬼が街中で徘徊しているのに、立ち小便を取り締まってる警官がどこにいる。

私が考える青切符取り締まり重点項目はこの5つだ。


1 スマホながら運転 2 逆走(右側通行) 3 信号無視 4 遮断機がおりた踏切侵入 5 一時停止の無視

番外 飲酒(これは論外で赤切符) 番外 違法モペッド(これも論外だが、自転車じゃなくオートバイ問題)

疋田 智(ひきた・さとし)
自転車評論家
1966年生まれ。東京大学工学系大学院(都市工学)修了、博士(Ph.D.環境情報学)。大東文化大学社会学研究所客員研究員。学習院大学、東京サイクルデザイン専門学校等非常勤講師。毎日12kmの通勤に自転車を使う「自転車ツーキニスト」として、環境、健康に良く、経済的な自転車を社会に真に活かす施策を論じる。NPO法人自転車活用推進研究会理事。著書に『ものぐさ自転車の悦楽』(マガジンハウス)、『自転車の安全鉄則』(朝日新聞出版)など多数。YouTube『芝浦自転車研究所』

元記事で読む
の記事をもっとみる