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ミーレ×などや、代々木上原に生まれた「FIRST PLACE」【リジェネラティブな暮らしのアート vol.5】

  • 2025.4.16
長い年月が刻まれた柱の奥に広がるキッチンと土間、割れ石が彩るカウンター、練り込まれた土壁や襖紙の装飾。Photo_ Taro Ota
長い年月が刻まれた柱の奥に広がるキッチンと土間、割れ石が彩るカウンター、練り込まれた土壁や襖紙の装飾。Photo: Taro Ota

未来を考える起点となる場所として誕生したFIRST PLACEは、単なるリノベーション空間ではない。時間をかけて積み重ねられてきた素材と、これからの暮らしを見据えたデザインが融合する場だ。通常なら図面やスケジュールを整えて進めるキッチンづくりも、建築家・岡村俊輔は、床下から現れたひび割れコンクリートの美しさをいかに生かすか、といった「対話」から始める。社会が変容する中で、未来をどう捉えるのか──建築の観点から向き合う「などや」と、「Immer Besser(常により良いものを)」を理念に、時代に合わせて常に人の暮らしに寄り添ってきたドイツの家電ブランド「ミーレ」が共鳴する。

跳躍から着地へ。未来に向けての問い

ミーレのビルトイン家電が組み込まれたキッチン。Photo_ Taro Ota
ミーレのビルトイン家電が組み込まれたキッチン。Photo: Taro Ota

岡村は、このプロジェクトを「未来への原点」と位置づける。「社会は今、大きな局面を迎えています。急激な人口減少、価値観の変容、社会構造の変化──これらを前に、私たちは都市でどう生

きていくのか、未来に向けて何を指し示し、何を残していくべきなのか、大きな問いを突きつけられています」と話す。そして岡村がキーワードとして掲げるのは「着地」だ。「20世紀に跳躍した都市と社会が、200年のときをかけて再び着地する。そう考えたとき、過去を恨むのではなく、明るい未来に向けて前進することができるはず。

私たちの役割や使命も、その中で明確になるのではないかと思っています」。などやが場づくりをする上で、常にイメージしているのは100年後の東京だという。「人が減り、建物は朽ち、自然と同化している。人々は修理をしながら暮らし、街の余白には植物が自生し、虫や鳥が飛び、あちこちに野良猫がいる。人の生活、建物、自然が小さく循環する、そんな都市が理想なのです」。こうした未来への視点は、空間の細部にも表れている。「着地の象徴として、80年間コンクリートに覆われていた土を現し、余った土で土間と壁をつくりました。キッチンの蛇口はクーラーの冷媒管を加工し、カランは洗面所で使っていたもの。扉には、元々あった襖を裏返して加工しています」と岡村。

役割を終えたミーレ機器のパーツや、などやの解体の過程で生まれた土壁の土や床下の土壌などを混ぜ込んだ板材。Photo_ Saiko Kodaka
役割を終えたミーレ機器のパーツや、などやの解体の過程で生まれた土壁の土や床下の土壌などを混ぜ込んだ板材。Photo: Saiko Kodaka

また、FIRST PLACEでは、単に古材を使うだけでなく、新しい素材のあり方も問い直す。デザイナー・狩野佑真が手がけた「ミーレとなどやをつなぐマテリアル」は、改修時に出た土砂や小枝、さらには役割を終えたミーレ機器のパーツを組み合わせて生み出されたものだ。廃棄されるはずのものが、新しい空間の表情を生み出す奥深さが存在する。FIRST PLACEは、そうした価値観を今の時代にどう再解釈し、暮らしの中に取り入れていけるかを問いかける場でもある。そして常に少しずつ手を加えながら、空間は生き物のように進化する。豊かさとは何か──その問いに岡村はこう語る。「今はまだはっきりとは言えませんが、その答えはこうした試みの先にあるのではないかと思っています」

Text: Mina Oba Editors: Yaka Matsumoto, Sakura Karugane

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