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37年前、世界を驚かせた“歴史映画の名作” 坂本龍一が“世界的アーティスト”として快挙を成し遂げた“伝説の作品”

  • 2025.4.29
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(C)SANKEI

1988年、映画は“歴史”そのものになった。

「37年前の冬、どんな映画が世界を動かしていたか覚えてる?」

1988年といえば、日本ではバブル景気がじわじわと膨らみ始め、ファッションも音楽も“贅沢で華やか”な空気が漂っていた時代。

そんな中、アジアと西洋、歴史と芸術が融合した壮大な作品が世界を驚かせた。

『ラストエンペラー』――1988年1月23日(日本)に公開。
清朝最後の皇帝・愛新覚羅溥儀の波乱に満ちた人生を描いたこの作品は、アカデミー賞9部門を制し、映画史にその名を刻んだ。

『ラストエンペラー』とは?

物語の主人公は、1908年にわずか3歳で即位した清朝最後の皇帝・溥儀。紫禁城の中で“神のように崇められる”存在として育ちながらも、外の世界を知らずに大人になり、やがて王朝の崩壊、軍国主義、戦争、そして戦後の収容所生活へと時代の渦に巻き込まれていく。

監督はイタリアの名匠、ベルナルド・ベルトルッチ。主演にはジョン・ローンを起用し、溥儀の繊細な感情の起伏を丁寧に描写した。

この映画が革新的だったのは、“紫禁城で初めて全面ロケが許可された西洋映画”という点。
その壮麗な映像美と緻密なセット、美術、衣装は、観る者に“記録映画以上のリアリティ”をもたらした。

なぜ『ラストエンペラー』は世界中を魅了したのか?

まず、映画のスケールが圧倒的だった。一人の人生を通して20世紀の激動の歴史を描き出す構成は、観客に「個人と時代」の関係性を突きつけ、政治や体制という巨大な力の中で、人はどう生きるのかという普遍的な問いを投げかけていた。

また、音楽を担当したのは坂本龍一、デヴィッド・バーン、そしてスー・ソン。東洋と西洋、伝統とモダンが混じり合ったサウンドトラックは、映画の美術と見事に調和し、視覚と聴覚の両方で“歴史の重厚さ”を体感させたと言える。

結果として、『ラストエンペラー』は1988年のアカデミー賞で作品賞、監督賞、美術賞、音楽賞など主要9部門を受賞。その功績は、西洋映画におけるアジア史の表現を大きく前進させた一作として、高く評価された。

『ラストエンペラー』が映画史に残した意義

この作品は、単なる伝記映画にとどまらない。皇帝という“象徴”を通して、「栄光と孤独」「自由と喪失」「アイデンティティの揺らぎ」を描いたことで、観客に深い余韻を残し、清朝や近代中国史に対する理解が西洋に広がるきっかけとなり、国際的な歴史教育や東アジアへの関心を高める役割も果たした。

そして日本においても、この映画で音楽賞を受賞した坂本龍一が“世界的アーティスト”として一躍注目を集めることとなり、文化の境界を越える可能性を示したことは特筆すべき点だ。

今なお観る者を惹きつける、“静かな革命”

『ラストエンペラー』は、37年が経った今も、その映像と音楽、そして“溥儀という存在の孤独”が静かに語りかけてくる。

かつて神と呼ばれた少年が、やがてただの一市民として小さな植物を育てる姿に、人は何を見るのか。それは、“時代が人を作る”のか、“人が時代を作る”のかという問いへの、ひとつの答えなのかもしれない。

この映画は、決して古びない。なぜなら、それが“誰の心にもある孤独と希望”を描いた物語だからだ。


※この記事は執筆時点の情報です。