新潟の辺境にある雪深い町に住む高校1年の風花の家に、都会から従兄妹がやってきて起こる変化を見つめる「銀のくに」(Web「コミプレ」にて連載中)など、詩情あふれる世界を描き、注目を集めるはやしわかさん。『イエスタデイ・ワンス・モア』は、高校時代の友人とのすれ違いを回想する描き下ろし表題作、妻を偲ぶ老男と同居する孫の再生ストーリー「サウダージの庭」、瞽女(ごぜ)のミツの半生を追う「しかたなしの極楽」からなる短編集。
「かけがえのない関係」が人生に何をもたらすかを描く、感涙の3編。
「失われてしまったものに対する愛おしさみたいなものが強くて、そういうあれこれが記憶の保管庫にしまわれている気がしています。『イエスタデイ・ワンス・モア』では、カーラジオから流れてきた曲がきっかけになっていますが、場所や匂いや季節、音楽や食べ物など、ちょっとしたきっかけで引き出しは開いて、そのときの感情も一緒に呼び覚まされる。そういう意味で、記憶って生きるという行為に結びついているんだなと感じます。それが無意識のうちに作品にも出てしまうのかもしれません」
表題作は、女性同士の話が描きたいというざっくりとした思いつきから始まったそうだが、
「女性同士を、高校時代の友達ではなくて、小学校の友達や会社の同僚にしたら違うストーリーになってしまいますよね。どの角度からそのテーマを描くのがいちばんいいかを見つけるまでは、試行錯誤します。私の場合、描きたいテーマが生まれると、その物語に必要なキャラクターが自然発生することが多いです」
「しかたなしの極楽」は、病で失明し瞽女となったミツの切ない恋の話であり、視覚障害の女性旅芸人たちの壮絶な生き方を描く話でもある。
「はじめに瞽女を知ったのは小学生のころで、故郷に縁の深い存在として興味深く感じました。その当時は素朴に、愛する人と結ばれてはいけない人生を残酷だと感じていましたが、大人になって、瞽女社会の掟などは盲目の女性が自活していく上で理にかなっている部分もあると思い直しました。そんな中で、ミツが幸せになるならどんなエンディングがいいかと、私なりに突き詰めて出した答えがこれでした」
はやしさんの繊細なタッチによって、読者は胸を揺さぶられる。
「喜怒哀楽それぞれに多彩な思いがあり、それによって人物の表情も変わると思っているんです。できるだけ単純化せず、そのつどの感情を酌み取って画(え)にしていきたいですね」
PROFILE
はやしわか
マンガ家。新潟県在住。2022年、「しかたなしの極楽」が講談社の「ちばてつや賞 一般部門」で準大賞に。同年、商業誌デビュー。他の著作に『変声』など。
INFORMATION
はやしわか『イエスタデイ・ワンス・モア』
亡妻が好きだったガーデニングや孫との関わりを介して自分を見つめ直す男の気づきを描く「サウダージの庭」。孫の成長もまぶしく、これまた味わい深い。ヒーローズ 792円 Ⓒはやしわか/ヒーローズ
写真・中島慶子 インタビュー、文・三浦天紗子
anan 2438号(2025年3月12日発売)より