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美しくておいしそうな木版画にうっとり。夢眠ねむさんが、彦坂木版工房さんと対談。【夢眠ねむの絵本作家に会いたい!・1】

  • 2025.3.7

「これからの本好きを育てる書店」を営む夢眠ねむさんが、憧れの作家さんを訪ねる新連載。
第1回は『パン どうぞ』『できあがり』など、本物以上においしそうな食べ物を木版画で描く夫婦ユニット・彦坂木版工房(彦坂有紀・もりといずみ)さんが登場です。
web版では子育てのお話、思い出の絵本のお話などを特別に公開します。

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子どもとの暮らしの中から生まれた絵本

もりといずみさん(以下もりと) これ、僕が作を担当して、きくちちきさんが絵を描いた絵本、『おかおあらうの みーせて』なんですが。

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『おかおあらうの みーせて』
もりといずみ/作 きくちちき/絵 講談社

ちょっと前まで、娘は顔を洗うのが苦手だったので、「お顔を洗うのって楽しいんだよ、気持ちいいんだよ」っていう絵本を作りたいなと思って。早速絵コンテを描いて講談社の担当さんに見せたら「とってもいいですね」となって、友人のきくちちきさんに「ぜひ絵をお願いします」って言って作ったんです。
いろんな動物が「おかお あらうの みーせて」って言われて、「ぱしゃ」って顔を洗っていく。そのお話の最後に、娘が出てくるんです。「できたー!」って。もう、全部ぬれちゃってますけどね。「あぁ きもち よかった」って。これを読んだら、娘はすぐ洗面所にかけていって、顔を洗ったんですよ。これは成功したなって。

夢眠ねむさん(以下夢眠) (本誌の記事で)絵本を作る中で、彦坂さんはパンの絵に「おいしそう」って共感してもらえたらそれで満足、というお話がありましたけど、今のお話を聞くともりとさんはもう、伝えたいメッセージがめっちゃあるんですね。

もりと そう、ありますね。

彦坂有紀さん(以下彦坂) あるんでしょうね。だって私、娘が顔を洗ってるのを見ても、何も思わなかったですもん。

夢眠 (笑)。なんかおふたりとも、いいご夫婦って感じで、いいですね。本屋をしていると、「歯磨きの本ありますか」とか「トイレの本ありますか」とか聞かれることも結構あって。でもこの本だと、しつけっぽくなくていいですね。

もりと 「みーせて」って問いかけているんですよね。楽しいから、すぐやってみたくなる。僕自身、この絵本ができたのはうれしかったですね。娘が生まれてからより絵本の解像度が上がって、絵本の作り方のヒントを生活の中で見つけられるようになって。なんか、しつけっぽい絵本って読む方も聞く方も窮屈で、それより、こういう楽しい切り口の絵本をどんどん作りたいなと思っていますね。

夜の読み聞かせ、どうしてる?

夢眠 お子さんには、よく読み聞かせをされていますか。

もりと もう5、6年、毎日してるよね。夜は必ず読みますし、昼間もね、幼稚園から帰ってきたら読んだりとか。

夢眠 私、夜の読み聞かせのタイミングが、いまいちよくわからなくて。まだ1歳ですけど、「寝ろー」ってミルクを飲ませてから、暗闇にすって置くんですけど、暗い中でブックライトみたいなのをつけて読むんですか。

彦坂 本当に赤ちゃんだった頃は、多分、日中に読んでいた気がします。まだ首もすわってないときから、遊びの1つで読んでいましたが、「わかるかな、この人に」って思いながら(笑)。

夢眠 私、今、「ねむるまえほん」っていう番組を担当してるんですけど、一体みんないつ絵本を読んでるんだろうと。夜は寝てからベッドに置くから、「読んでる間に寝たね」みたいなのが理想なんですけど、それが全然まだわからなくて。

彦坂 いつからだろう。でも、読んでる間にすーっと寝るってことないよね。

夢眠 夜の読み聞かせって、そういう描写が多くないですか。あ、寝ちゃった、みたいな。あれ、夢物語?

彦坂 幻想(笑)?

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大人目線の「面白くない」は言わない

もりと 僕は読んだ後に、「あれはよかったよねー」とか、横になって目をつぶりながらしゃべるよ。で、「あそこのさ、本当はああだったんじゃないのかな」とか言いながら、なんとなく絵本が頭にあるまま寝ていく、って感じかな。
絵本の専門書に、「読んだ後に質問はしないで、読後感を大切にしてあげてください」みたいなことも書いてあるけど、自分は「面白かったでしょ、ここがさ」とか、「ほら見て、後ろにこういうのあるんだよ」とか、つい言っちゃうし、言ってもいいんじゃないって思っちゃう。親子でお互いの感想や考えを言い合うのは、いいんじゃないかなって。

彦坂 私も自分の感想を言う派だな。でも、マイナスな感想はあんまり言わないようにしています。あくまで私の感想だから。

夢眠 本当に、映画の帰り道と一緒ですよね。感想を言う派の人と、言わないで、ファミレスで飲みもの飲んで帰る人、みたいな(笑)。おうちによっても違いそうですね。

もりと 大人としてね、「微妙だな」とか、「これってもうちょっと……」って思っても、子どもが「面白かったね」って言ったら、「やっぱ面白かったよな」ってなる。
「面白くない」って言っちゃうと、もうそういう絵本って思われちゃうからね。

夢眠 いらんこと言わんとこう、みたいなことですよね。私も、「脳にいい」とかうたっている絵本は、前はなんとなく避けていたんですけど、そういう絵本を息子がもう目をキラキラさせて見ているので、「あ、この本、面白いんだ」って思い直して、仕入れています。最近は。子どもの気持ちを尊重して。

今も胸に残る絵本の記憶

夢眠 おふたりが子どもの頃の、絵本の思い出はありますか。

彦坂 私はよく覚えているのが「バーバパパ」シリーズ(アネット・チゾン、タラス・テイラー/作 やましたはるお/訳 偕成社、講談社)。あと、小学生になると、夏休みにラジオ体操があるじゃないですか。朝6時とかに近くの公園に行って。朝早いし眠たいし、やだなと思うんですけど、ラジオ体操の後に「絵本読んでいいよ」という時間があって。私はそのために頑張って行ってました。田舎なんで、公園もめっちゃ広いんですよ。木の太い幹の根元に、確か絵本が置いてあって。いわむらかずおさんの「14ひき」のシリーズ(童心社)とか。

夢眠 もう、その場面自体がまるで絵本みたいな、夢の環境ですね。青空図書館みたい。「14ひき」はまさに、登場人物のねずみ感覚で読めますね。

彦坂 確かにそう。それを読みたくて、ラジオ体操に行ってましたね。

もりと 僕が子どものころよく遊んだのは、『おみせやさん』(五味太郎/作 ほるぷ出版 現在品切)って大型パノラマ絵本。

夢眠 わあ。広げると、商店街になるんだ。結構、大物ですね。

もりと そう、畳の部屋で広げて立てて、その中に入ってずっとお店屋さんごっこをしてました。それから、小学校の時に『ワニくんのおおきなあし』を読んでました。

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『ワニくんのおおきなあし』
みやざきひろかず/作・絵 BL出版

僕は昔、アレルギーがいろいろあって、給食が食べられないので毎日弁当を持っていってて。みんなと違うお昼ごはんを食べるのが、「やだな」みたいな気持ちがあって。
このワニくんは、みんなより足がずいぶん大きいんですよね。だから足を踏まれたり、からかわれたり。小さくしたいと冷やしてみたら、よけいはれちゃったり。 でも、よく考えたら、良いこともいっぱいあるなと。台風のときも地面をしっかり踏めるし、泳ぐのも速いとか。
マイナスをプラスにする。なんていい絵本だって、もりと少年は思ったんだよね。僕のアレルギーも別に悪くないな、みたいな。実際、後になって給食が食べられるようになってわかったんだけど、お弁当の方がおいしかった。みんなと違う居心地の悪さを、解消してくれた絵本ですね。

夢眠 へー、これ、めっちゃいい本ですね。私も今度、お店に仕入れよう。

もりと あと今は大人の趣味で、骨董系の絵本を集めるのが好き。初期のクロス装の『ちいさなうさこちゃん』(ディック・ブルーナ/文・ 絵 いしいももこ/訳 福音館書店)とか、いわさきちひろさんや赤羽末吉さんの昔の作品とか。自分たちの作る本も、ずっと昔から本棚に刺さっていたような、飽きのこない内容やデザインにしたいんですよね。50年売り続けられるような。

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夢眠ねむ
ゆめみねむ/2019年、下北沢に予約制の書店「夢眠書店」をオープン。U-NEXTkids「ねむるま えほん」の企画監修・選書を担当。著書に『本の本』(新潮社)『夢眠書店の本棚』(ソウ・スウィート・パブリッシング)など。一児の母。

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彦坂木版工房
ひこさかもくはんこうぼう/彦坂有紀(右)、もりといずみ(左)の木版工房ユニット。主に食品パッケージのイラストや監修、デザインを行う。絵本作品に『パン どうぞ』(講談社)『できあがり』(福音館書店)など多数。

撮影/大森忠明 ヘアメイク/光野ひとみ 編集協力/原陽子

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