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衝撃の名ゼリフから30年… 日本中が衝撃を受けた“伝説のドラマ”、今見ると心がえぐられる理由

  • 2025.3.28
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(C)SANKEI

子役出身俳優の代表格といえば、安達祐実だろう。2歳でモデルとしてデビューして以来、人生をずっと芸能界で過ごしてきた彼女は、子ども時代から大スターの道を歩み続け、今も第一線で活躍している稀有な存在だ。

そんな彼女の代表作と言えば、多くの人がいまだに31年前のテレビドラマの名前を挙げるだろう。『家なき子』である。

「同情するなら、金をくれ!」の印象的なセリフとともに語られるこのドラマは、放送当時の視聴率が30%を超えるほどに国民的人気の作品だった。貧困に苦しむ女子小学生が、その理不尽な運命に負けずに人生を切り開こうと懸命に努力する姿と、社会の闇を煮詰めたような衝撃的な内容で世間を騒然とさせた。

だが、そこで描かれた内容は、2025年の今こそリアルに感じられるものがある。

貧困で犯罪に手を染める少女

『家なき子』が放送されたのは1994年のこと。当時は昭和のバブル経済がはじけて数年後、これから平成不況が本格化するといった報道が多くされていたが、日常生活においては日本ではまだまだ豊かな時代だった。

とはいえ、日本の相対的貧困率は少しずつ上昇し始めており、この年13.8%に達していたという。つまり小学校の30人学級のクラスに3人くらいは貧困の子どもがいてもおかしくない計算だ。

そんな世相で『家なき子』は、極度の貧困を描く作品だった。主人公のすずは、母親と血のつながらない父と3人暮らしだが、父は働かず酒とギャンブルに明け暮れ、母は家計を支えるために無理をしたことで入院してしまう。すずは、母の治療費を稼ぐために、クラスメイトの給食費を盗む場面が、第一話から描かれている。

そして貧乏であることを理由に学校ではいじめにあってもいる。家に帰れば父親(内藤剛志)は酒を買ってこいとすずに命令するし、金も盗む。家庭訪問に来た担任教師・片島智之(保坂尚輝)に金を貸してくれと臆面もなく言うような父親なのだ。

そんなすずを片島は何かと気にかける。児童のことを思いやる良い教師に見えるが、すずはそんな片島に反発。「同情なんかいらないんだよ、同情するなら金をくれ」と言い放つのだ。

そしてすずは、働きもせず女を連れ込んでいる父を殺害しようと自宅アパートに放火までする。しかも、その罪を父親になすりつけようとするのだ。警察に連行された父、入院中の母、すずは野良犬のリュウを相棒に1人で生きていく決意を固める。

これだけの衝撃的な要素を第一話に詰め込んだことが功を奏し、ドラマは瞬く間に社会現象となっていった。中島みゆきの主題歌『空と君のあいだに』も主人公の心情に寄り添ったような歌詞で大きな話題となる。「君が笑ってくれるなら、僕は悪にでもなる」というサビのフレーズは、母のためには盗みも放火も辞さないすずのことを歌っているようにも感じられるし、彼女に寄り添った犬のリュウの気持ちにも受け取れる内容で、CDシングルは146.6万枚の大ヒットを記録。中島みゆきの曲で最も売れたCDとなった。

堕落した父親を抱え、いじめに遭い、母のための治療費を懸命に稼ぐすずの姿は、当時驚きをもって迎えられた。バブルが崩壊したとはいえ、まだ日本経済が豊かさを保っていた時代であり、多くの人にとって貧困はまだリアルなものではなかっただろう。その意味で、このドラマがヒットしたのは、貧困の少女への共感というより、衝撃的な内容を子どもが主人公のドラマでやるという、ギャップにあったと思われる。

むしろ、今この作品を現代の視点で見ると、今の時代にこそふさわしい部分もあるように思う。1994年と比べて、2025年の今は格差が広がり、相対的貧困率も上昇している。物価高に苦しむ人が多い今の時代の方が、「同情するなら金をくれ!」の台詞はより切実に聞こえてくるだろう。

無垢な少女から一転、安達祐実の狂気の演技

そして、本作の社会現象は、やはり安達祐実の名演技なくしては語れない。子どもが盗みや放火を働くという、ある種汚れ役とも言える役柄を、安達祐実にやらせるという発想が当時の視聴者に驚きだった

安達祐実は、それ以前には子役の少女らしく、無垢なイメージで通っていた。ハウス食品『咖喱工房』のCMや、日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞した『REX 恐竜物語』では恐竜の卵を発見し、は母親代わりとなってティラノサウルスを育てる純真な少女の役などで知られていたのだ。

そうした子役が、いきなり盗みや放火をして、大声で「金をくれ!」と叫んでいたのだ。世間が驚かないはずがない。彼女は、本作で天才子役の名をほしいままにした。その迫真の演技によって、本当に当時事務所にお金が届いたことがあるという(※)。それだけ、視聴者の心を震わせる演技をしていたのだ。

また、すずの父親役の内藤剛志の怪演も忘れがたいインパクトを残した。クズを絵に描いたような男を演じ切り、テレビドラマの悪役として歴史に残る名演技だった。

『家なき子』は壮絶な内容だが、今のドラマにはない異様な熱量が籠もった作品でもある。そして、格差が開いた今だからこそ再び観る価値ある作品だと言えるだろう。



ライター:杉本穂高
映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。X(旧Twitter):@Hotakasugi

※出典:安達祐実の「家なき子」時代の驚きの話 同情され実際にお金もらった?【livedoor ニュース】