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実話をこれほどのドラマにできるとは… 大河ドラマを手がける人気脚本家と実力派女優が挑んだ“渾身の名作”

  • 2025.3.31

現在、大河ドラマ『べらぼう』を手がける脚本家・森下佳子。NHKドラマ『大奥』や『義母と娘のブルース』など、原作ものを得意とする脚本家だが、『べらぼう』のような実話をベースに脚色した作品も得意とする。2022年のドラマ『ファーストペンギン!』も、山口県の漁師とシングルマザーが、浜を生き返らせるために奮闘した実話が元になったドラマだ。

日本の漁業が抱える問題をわかりやすくドラマ化

『ファーストペンギン!』は、主人公・岩崎和佳(奈緒)のモデルとなった坪内千佳さんが書いた『ファーストペンギン シングルマザーと漁師たちが挑んだ船団丸の奇跡』が原作のドラマ。山口県萩市で実際に行われた、漁師が朝採れの水産物を箱詰めして直接消費者に届ける漁業6次産業化を成功させた事例がモデルになっている。

通常、漁師は水揚げをした後、漁協が運営する市場へと出荷し、仲卸を通して小売店などの店頭に並び、消費者へと魚が届く。漁師は、販売や流通を取りまとめている漁協に販売金額の一部を納めている。代わりに、漁協は船の燃料や氷や梱包材などの運営資材を漁師へ提供している。安定的に魚を流通させるために欠かせない仕組みであるが、漁師にとっては収入が市況に依存してしまうことが問題となっている。

また、全国流通に向かない魚は市場に買い取ってもらうことができなかったり、安すぎる金額で取引されたりすることも。漁師が直接消費者に販売することは、これらの問題を解消する手立てになるのだ。

文章で書くとややこしい漁業が抱える問題を、『ファーストペンギン!』はわかりやすく、それでいてコミカルに伝えてくれる。そして、漁師が直接出荷することは、自分たちが獲った魚の価値を自ら誇ることでもある。これは一種のロマンなのだ。

『ファーストペンギン!』は、ロマンを求めて、大海へと飛び込んだ一人の女性と漁師たちの物語。日本が抱える漁業の問題を理解することができるドラマでありながら、実話であるこのエピソードを通して挑戦することの大切さを伝えてくれるドラマなのだ。

奈緒の啖呵を切るシーンが気持ち良すぎる

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 (C)SANKEI

『半分、青い。』や『あなたの番です』で、注目された奈緒。『ファーストペンギン!』は、奈緒にとって地上波の民放GP帯の連続ドラマ初主演作だ。

『ファーストペンギン!』で演じる岩崎和佳は、奈緒史上最もパワフルな役柄だろう。特に第1話、奈緒の啖呵は作中屈指の見どころだ。漁師たちから無理やり頼まれた「さんし船団丸」の再建。はじめは漁業のことは何もわからない和佳であったが、それが徐々に自分自身の目標になっていき、漁業6次産業化こそが自分のやりたいことだと決心をする。しかし、そううまくいかない。漁協の組合長から反対され、和佳に依頼をした片岡(堤真一)も組合長に迎合しようとする。そんな二人に、和佳は啖呵を切る。怒りと憤りが顔いっぱいに表れた奈緒の表情、息切れしながら必死に声を荒げる姿からは、長いものに巻かれない、自分が信じる正しい道を行くという決心が伝わってくる。必死になる奈緒の姿が、物語のテーマそのものになっているのだ。

和佳はパワフルな女性であるものの、完全無欠の女性なわけではない。心が折れそうになりながらも、自分を奮い立たせて必死に前に進んでいる。うまくいかない現実に葛藤しながら頑張る等身大の姿を見ていると、奈緒にしかできない役柄だと実感させられる。奈緒は『ファーストペンギン!』以降、数々のドラマや映画で主演を務めている。本作のパワフルでありながら、細やかな芝居が評価された証拠だろう。

一次産業をモデルにしたドラマは、ロケが多くなるが故に制作に対して少なからずハードルがある。『ファーストペンギン!』は、実際の漁港や漁協の建物を使用したり、まき網漁業の様子を撮影したりと、リアリティを追求した画面作りが見られる。この実話を伝えようという意気込みのあるドラマなのだ。まず、第1話から大海へ飛び込む勇気を感じ取ってほしい。



ライター:古澤椋子
ドラマや映画コラム、インタビュー、イベントレポートなどを執筆するライター。ドラマ・映画・アニメ・漫画とともに育つ。X(旧Twitter):@k_ar0202