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作曲家・林ゆうき、ドラマ&アニメ“劇伴”の名手が曲作りで大切にする新体操選手の頃の感覚

  • 2026.11.3
林ゆうき クランクイン! 写真:ヒダキトモコ width=
林ゆうき クランクイン! 写真:ヒダキトモコ

アニメ『SAKAMOTO DAYS』『メダリスト』、ドラマ『ストロベリーナイト』など、数多くの作品の音楽を手がける作曲家・林ゆうき。劇伴(ドラマやアニメの劇中音楽)を生演奏と映像で楽しむコンサート「劇伴食堂」が、約4年ぶりに第4弾として開催される。作曲家本人が思い描いたシーンの映像を、楽曲に合わせて編集して流すという独自のスタイルは、どのように生まれたのか。創作の根底にある経験や曲作りの裏側、今回の聴きどころまで、話を聞いた。

【写真】劇伴への熱い思いを語る林ゆうき

◆ドラマやアニメの音楽を気軽に楽しめる食堂のようなコンサート

――「劇伴食堂」も第4弾となりますが、どんなコンセプトで始められたのか、改めて教えてください。

林:劇伴というのは、日本特有のスタイルだと思っているんです。海外の場合は映像に合わせて作られることがほとんどですが、日本の劇伴は多くの場合、音響監督さんや選曲家の方からいただく短いテキストやプロットなど、映像のない状態から作っていきます。その際、バトルや恋愛のテーマ、コミカルなシーンなどを想定して、楽曲に起承転結を作って、どこに当ててもおかしくないよう、頭とお尻の流れをちゃんとさせた形で作るんですね。だから曲だけになっても聴き応えがあって、サウンドトラックとしてそのままリリースできる。それが、日本の劇伴の大きな特徴で、メリットだと考えています。

ただ作曲家は、ダビングに立ち会わない限り、自分の曲がどこで使われるのか、放送を見るまで分からなかったりするんですよ。使う場所を決めるのは音響監督さん。ですが「劇伴食堂」では、ドラマについては音楽そのものを楽しんでいただく形になりますが、アニメに関しては映像をお借りし、僕らの曲に合わせて映像を編集して映しています。普段とは逆ですね。MVに近い形なので、アニメのコアなファンの方には、「この曲にこのシーンが合うと、こんなふうに見えるんだ」という、他では体験できない状態を見ていただけると思います。

――そうした劇伴制作の過程は、一般にはあまり知られていませんよね。

林:そうなんです。視聴者の方は完成版しか見られませんから。SNSを見ていると、印象的なシーンの線画のラフが出ることはあっても、音楽でそれがあるかというと、ほとんどない。映像と音楽が一緒になった完成版と、本来流れているはずの曲が違うものを見比べる機会なんて、まずありません。曲が違うだけで全然違うふうに見えるという体験ができたらいいなと思い、映像をお借りしてお届けしています。

――「食堂」という名前には、どんな思いがあるのでしょう。

林:僕は、高級レストランの凝り固まった感じというより、いろんな人が来てくれる“定食屋さん”のような感じで、自分の音楽を楽しんでもらいたいんです。ドラマやアニメって、人々の生活に根づいているものだし、堅苦しいものじゃなく、普段のちょっとした時間に楽しむもの。その音楽を彩る僕らも、気軽に楽しんでもらえる食堂みたいなスタイルがいいなと思って、「劇伴食堂」にしました。

――大衆食堂には和食、洋食、中華といろいろ揃っているように、映画、ドラマ、アニメといろんなジャンルの劇伴を手掛けていらっしゃる林さんらしいコンセプトですね。生演奏でお届けできることについては、どのように考えていらっしゃいますか。

林:演奏はバンドにオーケストラを混ぜるスタイルで、どんなミュージシャンの方がどんな演奏をして、どんな音が鳴っているのかを、実際に見ていただけるのはすごく大きいですね。音楽だけを聴くよりも、体験としてすごく面白くなるはず。アニメの映像と、奏者さんの演奏と、同時に楽しんでもらえる機会になればと思っています。

◆新体操選手の頃の感覚を曲作りでも大切に


――幅広いジャンルの楽曲を手掛けていますが、曲作りにおいて芯になっているものは?

林:僕はもともと音楽をやっていたわけではなく、男子新体操をやっていました。フィギュアスケートのように、伴奏曲に合わせて踊る競技です。その選手だった頃の感覚は、今でもすごく大事にしています。

作曲家になると、「自分の音楽を聴いてほしい」が前提に来がちですが、僕は、映像と一緒に流れたときにどうなるのが一番いいかを常に考えています。選曲家や音響監督の方がどうすれば使いやすいか、映像がさらに盛り上がるか、ですね。だからリクエストに書いていなくても、尺が長くなったときに耐えられるよう、もう一段階盛り上がりを作っておく、みたいなことがよくあります。

新体操選手は、自分のための曲を種目の数だけ選びます。大好きな曲や、「この曲で踊りたい」と思うキャッチーなもの、ダンサブルなもの、すごく感動的なもの――それを、チーム全員が持ってくるんです。チームメイトが10人いたら、普段から50曲くらいを聴いている状態ですね。試合に行けば、さらに膨大な数の曲を聴きながら踊る。その環境にいたおかげで、メインテーマやキャッチーな曲を作ることに、あまり苦しみを覚えずに済んでいるのかなと思います。「こっちがいいかな、あっちがいいかな」と迷うときも、踊っていた頃の感覚が絶対にぶれないよう、とても大事にしています。

――気持ちよく体が動く、音にフィットするような感覚が、今も残っているんですね。

林:残っているというか、勝手にやってしまうというか(笑)。体を動かして、どう心地いいかを体が覚えているので、それがすごく役立っているんでしょうね。

――作品に寄り添うために、どんな素材から着想を膨らませるのでしょう。

林:作曲家の人って、だいたいそういう想像力がある人がなっていると思うんですよ。妄想癖がある、というか(笑)。数行の文字から曲のイメージを読み取って作ることがほとんどなので。映像ができているというより、キャラクター設定や、声優さんがどなたか、「いずれこうなっていきます」という設定をいただいたり、台本、準備稿も含めて読んだりして、そこから紐解いて、それぞれの曲を作っていきますね。

◆劇伴を身近に体験できる機会を増やし、いつか海外でも公演を


――普段のインプットや、アイデアの出し方はありますか。空港やホテルなど、いろんな場所で曲作りを進められたこともあるとか。

林:映画やドラマを見ていても、職業病で「どういう楽器を使っているな」「こういうアプローチをしているんだな」と見てしまいますね。この作品の音楽は何が一番合うんだろう、どういう楽器なら世界観が出せるかなというのは、鍵盤の前で考えるより、散歩していたり、別の作業をしながら考えているときのほうが、アイデアが出るんです。なので、取りこぼさないように常にメモをしていますね。

締め切りの都合で、ホテルなどの旅先でやっていたということもありますけど、いつもと違う環境が新鮮で良かったりもします。細かい作業や、レコーディングスタジオじゃないとできないことのほうが多いですが、スケッチや走り出しのアイデアは、むしろどこでもできるんですよね。

――スランプに陥ったときは、どう立て直しますか。

林:これをスランプと言っていいのか分からないんですが……曲ができないという作曲家の方は、多分いないと思うんです。曲は、無尽蔵にポコポコと出てくるので。悩むのは、それがこの作品の温度感に合っているか、もっとテンポが速いほうがいいんじゃないか、もっとロックに寄せたほうがいいんじゃないかといったこと。生み出すことより、選んで合わせるほうが大変、という感覚のほうが近いですね。

――アイデアはどんどん生まれてくるからこそ、選ぶ苦労が多いんですね。そんな盛りだくさんの楽曲が楽しめる今回のセットリストと、聴きどころを教えてください。

林:前回の「劇伴食堂」以降に作った曲がいろいろあって、正直、選びきれないところもあるんですが(笑)。直近でやったお気に入りに加えて、過去作でも「これを機に知ってもらえたらいいな」と思っている、隠れたお気に入りの曲も入れています。

『メダリスト』の曲も入れてあるのですが、来年2月に劇場版が公開されます。ヒロアカやハイキュー!!と同じく、自分の代表作だと思っているので、ぜひ劇場版に足を運んでもらえたらうれしいです。特にヒロアカは、オフィシャルコンサートでは選ばれなかった曲をあえて選んでおり、原作ファンの方が見たかったシーンを生演奏でお届けします。実際の放送では違う使われ方をした楽曲を、完成版スタイルで聴いていただけるのもこの食堂ならではだと思います。

また劇場版『ストロベリーナイト』のメインテーマのリミックスは、今回が初披露です。終始雨が降り続くような作品なので、頭からずっと鳴っているピアノのアルペジオで雨を表現しています。そのほか、『ONE PIECE FILM GOLD』で、麦わらの一味が逆転していくシーンの曲も演奏します。2月からNetflixで新しい『THE ONE PIECE』が始まり、こちらでも音楽を担当していますが、僕がやりたい表現がこの頃からすでに入っています。それも感じてもらいつつ、新シリーズを楽しんでもらえたらうれしいですね。

――最後に、今後のビジョンと、メッセージをお願いします。

林:劇伴というジャンルが全然知られていないな、という想いがこのコンサートを始めたきっかけでもあります。「どういう音楽が好き?」と聞かれて、ポップスやロックやジャズなら通じるのに、「劇伴が好き」と言っても、あまり分かってもらえない。もっと声を大にして言えるくらい、普通に楽しめるジャンルなんだと知ってもらうには、劇伴を身近に体験できる機会が増えることが一番です。アニメは海外でもたくさん楽しんでいただいているので、日本だけじゃなくて、いつか海外でも「劇伴食堂」の公演ができたらいいですね。ぜひ楽しみにしていただきたいです。

(取材・文:宮崎新之 写真:ヒダキトモコ)

『林ゆうき~劇伴食堂 肆』は、12月27日東京・東京国際フォーラム ホールCにて開催。

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