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血圧も反射も正常なのに目を開けない。実在の症例を描く『生存放棄』

  • 2026.11.3

スウェーデンで難民認定を待つ子どもたちに実際に報告された〈あきらめ症候群〉に着想を得た映画『生存放棄 クワイエット・ライフ』が、12月11日に日本で公開される。ヴェネチア国際映画祭で賞を受けた一作で、日本版ポスターも解禁された。(フロントロウ編集部)

目を覚まさない妹と、証言を求められる姉

舞台は2018年のスウェーデン。母国ロシアで迫害を受けたセルゲイとナタリアの夫婦は、2人の娘を連れて逃れてきた。働きながら言葉を覚え、当局の審査にも従って、ふつうの暮らしが始まる日を待っている。

ところが難民認定の申請は却下される。その直後に末娘のカティアが突然倒れ、外の世界にまったく反応しなくなる。医師の診断は〈あきらめ症候群〉。娘を目覚めさせるには家族に安全と希望を取り戻させる必要があると聞かされた両親は、再審査に望みをかける。そこで姉のアリーナに求めたのが、彼女自身には覚えのない出来事を証言することだった。

映画『生存放棄 クワイエット・ライフ』場面写真
© les films du worso

妹を救いたい、家族の未来をつなぎたい。その願いが、もう一人の娘を追い詰めていく。家族を守るための愛が嘘と圧力に変わっていく過程を、物語は息苦しいほどの緊張感で追う。

スウェーデン国外では確認されていない病

〈あきらめ症候群〉は1990年代後半にスウェーデンで初めて報告された症例で、2003年から2005年にかけては400件以上が確認された。血圧も反射も正常に働いているのに、歩くことも話すことも、食べることも、目を開けることさえできなくなる。不思議なことに、この症例はスウェーデンの外では確認されていない。

20年以上にわたって原因を探ってきたスウェーデンの医師たちは、極度の不安とストレスにさらされた子どもたちが、絶望のあまり意識の働きを切り離してしまうのだと結論づけた。トラウマ体験の後に働く防御の仕組みとして正式に病気と認められたのは、2014年になってからだ。

映画『生存放棄 クワイエット・ライフ』で倒れた妹
© les films du worso

『ミス・バイオレンス』の監督が描いた“難民の家族”

メガホンをとったのは、『ミス・バイオレンス』でヴェネチア国際映画祭の銀獅子賞を受けたアレクサンドロス・アブラナス。今作では無機質な行政施設や医療の現場を、カフカの小説のような不条理の空間として映し出した。2024年の第81回ヴェネチア国際映画祭ではオリゾンティ部門に出品されてインターフィルム賞を受け、その後もリューベック・ノルディック映画祭の観客賞やジュネーヴ国際映画祭の賞を重ねている。

共同脚本のスタヴロス・パンバリスとともに、クーデターや戦争、住む場所を追われた記憶が色濃く残る国で育ったという監督。制作の背景について「政治的混乱のトラウマは私たちの血の中にあるのです」と語り、戦争や気候危機が新たな難民を生み続ける時代に、無関心ではなく人間性と愛で向き合う道を探ったと明かしている。

出演はチュルパン・ハマートヴァ、グリゴリー・ドブリギン、ナオミ・ランプ、ミロスラヴァ・パシュティナ、エレニ・ルシヌーら。

姉妹を正面から捉えた日本版ポスター

あわせて解禁された日本版ポスターは、審査員の前で証言しなければならない姉妹を捉えたもの。証言に失敗すれば、家族全員が暴力の待つ母国へ送り返される。真実を知る妹と、その代わりに両親から嘘の証言を求められる姉。同じ重圧を受け止める2人の姿が並んでいる。

映画『生存放棄 クワイエット・ライフ』日本版ポスター
© les films du worso

映画『生存放棄 クワイエット・ライフ』は、12月11日(金)より新宿シネマート、ヒューマントラストシネマ渋谷、アップリンク吉祥寺ほかで全国公開。

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