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『ゲット・アウト』撮影裏話、観客を凍らせた“幻の結末”とは【ネタバレ】

  • 2026.11.3

白人の恋人の実家を訪ねた黒人青年が、少しずつ違和感の正体に近づいていく。2017年に全米公開された『ゲット・アウト』は、製作費450万ドル(当時の為替レートで約5億円)の低予算作品ながら、その50倍以上となる2億5,000万ドル超の世界興行収入を記録し、アカデミー賞脚本賞まで受賞したホラー映画だ。

監督・脚本を務めたジョーダン・ピールは当初、この映画が製作されるとは思っていなかったという。催眠シーンの誕生秘話から、試写で観客に衝撃を与えたもうひとつのラストまで、撮影と編集の舞台裏をたどる。(フロントロウ編集部)

※この記事には『ゲット・アウト』のネタバレが含まれます。

オバマ政権時代に書き始めた「製作されるはずのない」脚本

ピールが脚本の構想を練り始めたのは2008年。人種差別はすでに過去のものだという考え方が広がりつつあった時期で、ピール自身はそれを「ポスト人種という嘘」と呼んでいる。描きたかったのは、露骨な差別主義者ではなく、善意の裏に潜む日常的なマイクロアグレッション(無意識の偏見に基づく言動)だった。

2018年のアフリカ系アメリカ人映画批評家協会の授賞式では、執筆当時を振り返り、「最初は楽しみのためのプロジェクトでした。これが映画化される日が来るなんて思っていなかった」と語っている。自分が観たいと思う映画を頭の中で上映しながら、それを文字に起こしていく作業だったそうだ。

転機となったのは、主人公クリスが恋人ローズの母ミッシーに催眠をかけられ、意識だけが暗闇に落ちていく「サンクン・プレイス(沈んだ場所)」の場面を書き上げたときだった。ピールは「とても無防備な状態でこのシーンを書いた。自分のいちばんの恐怖を紙の上に吐き出したんです」と明かし、書き終えたときに初めて、この映画が何を描く物語なのかを理解したと振り返っている。

催眠シーンは、主演俳優のオーディション課題だった

恋人の母に催眠をかけられ、クリスが体の自由を奪われていく。あの催眠シーンについてピールは、「ホラー映画なのだから、観客には怖い場面を見せなくてはいけない。史上もっとも怖いシーンのひとつにしたかった」と語り、参考にした作品は『羊たちの沈黙』だったと明かしている。

クリス役のダニエル・カルーヤは、ピールが脚本の執筆中に観ていたドラマ『ブラック・ミラー』での演技をきっかけに、オーディションに招かれた俳優だ。そのオーディションで演じたのが、まさにこの催眠シーンだった。ところがダニエル本人は英NMEの取材で、「あのシーンは大変だと思われがちですが、もっと難しいシーンがほかにありました」と打ち明けている。

彼がもっとも苦労したと語るのは、ローズの家族と食卓を囲む場面。家族が人種にまつわる際どい発言を重ねるなか、クリスはその違和感に気づいていることを観客に伝えつつ、礼儀正しく振る舞い、しかも苛立ちを家族には悟られないようにしなければならない。その微妙なさじ加減が難しかったという。

鹿との衝突は「笑いの途中」。編集者が仕掛けた恐怖のタイミング

恐怖の演出は、編集室でも練り上げられていた。編集を担当したグレゴリー・プロトキンは米Deadlineの取材で、序盤にクリスとローズの車が鹿をはねる場面について、2人が笑っている最中に衝突させることにこだわったと説明している。和やかな会話の流れを途切れさせず、もっとも楽しい瞬間に突然の衝撃を与えることで、観客の予想を裏切る狙いだった。

ウォルターがクリスに向かって全力で走ってくる場面も、当初はウォルターが角を曲がって走ってくる様子を最初から見せる編集だった。それをクリスの怯えた表情を長く映す構成に変更。視点が切り替わった瞬間には、ウォルターがすでに目前に迫っているという、より衝撃的な流れに組み替えたという。

試写室の空気が凍った「もうひとつの結末」

ピールは複数のラストを撮影しており、当初用意されていたのは、現在知られているものとはまったく異なる結末だった。

クリスがローズの首を絞めているところにパトカーが到着し、警官に取り押さえられた瞬間に画面が暗転。次の場面では、クリスはすでに刑務所の中にいる。親友ロッドが面会に訪れるこの場面について、プロトキンは「まさにみぞおちへの一撃」と表現し、ロッドを演じたリル・レル・ハウリーの演技を絶賛している。

しかし、試写の観客はクリスやロッドに深く感情移入していたため、このラストを受け入れられなかった。プロトキンによれば、あまりにも重すぎるという反応だったという。

最終的に、パトカーから降りてくる人物は警官ではなくロッドに変更されたが、赤と青の警告灯がクリスの顔を照らすカットだけは残された。プロトキンは、クリスがローズの首を絞めていたかどうかにかかわらず、あの光を浴びた時点で彼がどう扱われるかを観客は悟ると、その演出意図を語っている。

ピール自身も、結末を理由にこの映画は製作されないと考えていた時期があった。米The Hollywood Reporterによると、ピールは「黒人の青年が最後に白人の一家を殺し、観客がそれに喝采を送る。そんな映画を誰かが製作してくれるとは思わなかった」と語っている。

「20回は書くのをやめた」脚本が歴史を変えた

2018年3月、ピールは『ゲット・アウト』でアカデミー賞脚本賞を受賞し、アフリカ系アメリカ人として初めて同賞に輝いた。受賞スピーチでは、「この映画の脚本を書くのを20回ほどやめました。不可能だと思っていたから」と明かし、それでも書き続けたのは、映画化さえ実現すれば観客に届くと信じていたからだと語っている。

受賞後の記者会見では、番号札を掲げて指名を待つ記者たちを見て、「これから僕は競売にかけられるんですか?不気味ですね」とジョークを飛ばした。劇中でクリスが密かに「競り」にかけられる場面を知っている人なら、思わずゾッとしてしまうひと言だったかもしれない。

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