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「会いに来るのはいつも私じゃん」と言われた俺が、彼女の実家に内緒で通い続けた事情

  • 2026.11.5
ハウコレ

棚の奥の紙袋を手にした彼女に、俺は用事があるとしか言えませんでした。あの店の紙袋が増えるたび、彼女に会いに行くためのお金は減っていきました。

彼女の実家の居間で、俺は正座をしたまま膝の上で手を握っていました。半年ほど前、彼女が仕事で遠くの街に移ってから、1年ほどたったころです。向かいに座る彼女のお父さんは、腕を組んだまま、なかなか口を開きませんでした。

お父さんへのあいさつ

結婚を考えていると伝えに行ったのは、彼女には内緒でした。お父さんに認めてもらえてから、自分の口でプロポーズしたかったのです。
長い沈黙のあと、お父さんが言いました。
「遠距離のままで、この先どうするつもりなんだ」
どちらが仕事を変えるのか、どこで暮らすのか。きちんと答えられなかった俺に、その日の返事はもらえませんでした。
帰り際、お母さんが駅前の和菓子屋の紙袋を持たせてくれました。
「またいらっしゃい」
その一言に背中を押されて、もう一度来ようと決めました。

増えていく紙袋

それから、何度も彼女の実家へ通いました。仕事のこと、住む場所のこと。考えをまとめて話しては、お父さんに頭を下げて帰る。そのたびに、お母さんが同じ店の紙袋を持たせてくれます。空になった袋はなんとなく捨てられず、気づけば台所の棚に5枚たまっていました。
ただ、往復の電車代や手土産代は思った以上にかさみました。少し前に買った婚約指輪の支払いも残っていて、新幹線で彼女の街へ行く余裕はありません。通い始めてから、彼女のところへは一度も行けていませんでした。
だから彼女が来た日、荷物を下ろすのを待って聞いてしまったのです。
「来月も来れる?」
「会いに来るのはいつも私じゃん」
彼女の声は、いつもより強いものでした。
「ごめん」
次は俺が行く、とは言えませんでした。お金がないことも、その理由も話せないまま、目をそらすしかなかったのです。

棚の奥

気まずさをごまかすように、彼女はお土産を持って台所へ向かいました。棚の扉が開く音がして、しまったと思ったときには、彼女が一番上の紙袋を手に取っていました。
「これ、どうしたの?」
「ちょっと用事があって」
それしか言えず、彼女の手から紙袋を受け取って、棚の奥に戻しました。
そのあと近くの店でごはんを食べている間、彼女はほとんど口を開きませんでした。何を考えているのか、分かるようで聞けないままでした。

そして...

部屋に戻ると、テーブルに置いていたスマホが鳴りました。画面の「お父さん」の文字を見て、スマホをつかんでベランダへ出ました。
「来週も来るのか」
「はい、来週も行きます」
少し間があって、お父さんが言いました。
「次は、あの子も連れて来なさい」
ガラス戸の向こうで、彼女がこちらを見ているのが分かります。電話を切ったら、棚の奥の紙袋を彼女の前に全部並べて、1枚ずつ話そうと思います。

(20代男性・会社員)

本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。

(ハウコレ編集部)

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