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柴犬に吠えられるたび目をそらしていた俺が、犬へのあいさつを教わった場所

  • 2026.11.4
ハウコレ

仕事帰りに通いはじめた店で、同じあいさつを何度も練習しました。週末の散歩の誘いに「今日も無理」と返すたび、彼女のメッセージは短くなっていきました。

ドアを開けた瞬間、彼女の部屋の柴犬が吠えはじめました。近所の犬に手をかまれたのは、小学生のころのこと。それ以来、犬の声を聞くと、上着を脱ぐのも忘れて、ソファの端でスマホを見てしまいます。

目をそらしていた理由

彼女が柴犬の写真を見せるたびに、「へえ」とだけ言って仕事の話に変えていました。怖がっていると見抜かれそうだったからです。
その日、彼女がリードを手に取りました。
「一緒に散歩行かない?」
彼女の声に反応して、犬がまた俺に向かって吠えます。
「犬の散歩に付き合う暇はない」
スマホに目を落としたまま、そう答えていました。画面を見ていたのは、犬と目を合わせないためです。大人になっても犬が怖いなんて、彼女にだけは知られたくありませんでした。
1人で玄関を出ていく彼女の背中を見て、ようやく気づきます。いつか一緒に暮らしたいと思っているのに、このままでは、その話を切り出すこともできません。

仕事帰りの犬カフェ

次の週から、仕事帰りに犬カフェへ通うようになりました。
店員さんに事情を話すと、犬へのあいさつの仕方を教えてくれました。身を低くして、軽く握った手を鼻の前に差し出すこと。吠えられても、慌てて手を引っこめないこと。
最初は、店の犬が近づくだけで背中が汗でぬれていました。彼女の部屋でも、犬が近づくたびに、つい立つ位置を変えてしまいます。
その間も、週末になると彼女から散歩の誘いが届きました。
「週末はいつも、川沿いを橋まで歩くんだよ。一緒にどう?」
返したのは「今日も無理」の一言です。練習していることを話せば、怖いことまで話さなければなりません。

橋のたもとのベンチで

1か月がたった週末、また「今日も無理」と返しました。途中で怖くなったら、彼女に知られないまま帰るつもりだったのです。
橋のたもとのベンチに座って待ちました。
遠くに柴犬と彼女の姿が見えて、ベンチから立ち上がります。犬は俺に気づくと、すぐに吠えはじめました。
いつものように目をそらしかけて、店で教わったことを思い出します。ゆっくりしゃがみ、犬と目線の高さをそろえました。軽く握った手を、鼻の前にそっと差し出します。
吠えられても、手は引っこめませんでした。やがて犬が手のにおいをかぎはじめ、しっぽが左右に揺れました。
しゃがんだまま顔を上げます。
「いつも、この道なんだろ」
「なんでいるの」
すぐには答えられず、犬の背中ばかり見ていました。

そして...

「リード、持ってもいい?」
受け取ったリードは、思っていたよりずっと強く引っぱられました。
橋を渡りながら、犬が怖かったことも、犬カフェに通っていたことも話しました。
「ずっと、この子のことが嫌いなんだと思ってた」
彼女はそう言って、「最初から言ってよ」とあきれた顔をしました。
一緒に暮らしたいという話は、まだ切り出せていません。

(20代男性・会社員)

本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。

(ハウコレ編集部)

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