1. トップ
  2. エピソード
  3. 「結婚は妥協だった」と言った俺→笑い声に消えた、そのあとに続けた言葉

「結婚は妥協だった」と言った俺→笑い声に消えた、そのあとに続けた言葉

  • 2026.11.3
ハウコレ

妻がテーブルに置いた白い封筒を、俺は開けずに裏返しました。部屋の机の引き出しには、妻に渡しそびれていたクリアファイルが入っていたのです。

鍋の湯気越しに、大学時代の友人がにやにやしながら俺を見ていました。妻が台所で皿を洗っている間に、結婚生活のことを聞いてきたのです。俺が返した言葉は、半分しか妻に届いていませんでした。

笑い声に消えた後半

友人は独身で、俺の結婚を何かとからかってきます。「結婚ってどうなの」と聞かれ、俺は少し考えてから答えました。
「結婚は妥協だった」
そのあとに「俺じゃなくて、あいつがな」と続けたのですが、友人が手を叩いて笑いながら「あいつのほうがな」と繰り返す声に重なってしまいました。台所の水音もあって、妻には前半しか聞こえていなかったはずです。
妻が席に戻ると、友人は「お前、それは言いすぎだろ」と笑いました。俺は妻の取り皿に鍋の具をよそいながら、どう言い直そうかと考えていたのです。

4年前から知っていた封筒

駅までの道で、妻に「さっきの妥協って、どういう意味?」と聞かれました。俺は「そういう意味じゃないよ」としか言えませんでした。人の多い道で説明できる話ではなかったのです。
家に着くと、妻が寝室から白い封筒を持ってきました。それが何なのか、俺には見ただけで分かりました。
引っ越しの荷物を詰めた日、本棚の隙間から落ちてきたのを見ていたからです。札幌の会社の名前と、内定という字が目に入りました。
妻はその話を一度もしませんでした。俺も聞けないまま、4年がたっていたのです。
「妥協したのは、私のほうだよ」
その声を聞いて、俺はコートを脱ぎかけた手を止めました。

渡しそびれていたクリアファイル

封筒を裏返したのは、中身を確かめるためではありません。開けなくても、何が書いてあるかは知っていました。
「怒ってるわけじゃないの。ただ、あの言葉は聞きたくなかった」
妻にそう言われ、俺は「ちょっと待ってて」と部屋へ向かいました。
机の引き出しには、半年前に印刷した求人票が入っています。妻が内定をもらっていたあの会社が、東京に事務所を出すという告知と一緒にです。
渡すきっかけを、ずっと探していました。この週末に切り出すつもりで、鍋の席でも頭の中で言葉を並べていたのです。
書類の山に埋もれていて、引き出しを何度か開け閉めしてようやく見つけ出せたところでした。

そして...

クリアファイルを封筒の隣に並べ、妻の向かいに座りました。
「これを見てから、さっきの続きを話させて」
妻は求人票を読み終えると、封筒とファイルをしばらく見比べていました。「今さら、どうしろっていうの」と言われ、俺は「どうもしなくていい」とだけ返しました。妻が選べるようにしておきたかった、それだけです。
妻はその場では答えを出さず、ファイルを封筒と一緒に寝室の引き出しへ戻しました。
妥協だったという言葉は、妻ではなく俺自身に向けたものです。あの封筒は妻が手放したものではなく、まだ手放していなかったものなのだと、俺はそのとき初めて気づきました。

(30代男性・会社員)

本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。

(ハウコレ編集部)

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ