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【スイスの隠れ世界遺産】1200年前へタイムトラベル!?今も修道女が暮らすアルプスの小さな村・ミュスタイアへ

  • 2026.11.4

スイス南東部、イタリアとの国境近くに位置する小さな村、ミュスタイア(Müstair)。アルプスの山々に囲まれた静かな村には、約1250年の歴史を持つ世界遺産「ミュスタイアの聖ヨハネ・ベネディクト会修道院」があります。驚くのは、1200年前の壁画が残っているだけでなく、今も現役の修道女たちが暮らしていること。今回は実際に使われていた食堂や寝室などを見学しながら、知られざる修道院の暮らしもご紹介します。

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アルプスの山々に囲まれた小さな村・ミュスタイアへ

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ミュスタイアがあるのは、スイス・グラウビュンデン州の南東部。イタリアとの国境にほど近い、ヴァル・ミュスタイア(Val Müstair)と呼ばれる谷に位置しています。

チューリヒから向かう場合は、スイス国鉄やレーティッシュ鉄道を利用してツェルネッツ(Zernez)へ。そこから811番のポストバスに乗り換え、オーフェン峠を越えて1時間ほど。修道院へは「Müstair, Clostra Son Jon」で下車するのが便利です。

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道中はスイス国立公園を通り、車窓にはアルプスの雄大な景色が広がります。気軽に立ち寄れる場所ではありませんが、その分、スイスの山あいの暮らしを感じられる場所です。

わずか数千人規模の谷に残る、スイスの第4の言語「ロマンシュ語」

スイスにはドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語という4つの公用語がありますが、ロマンシュ語を使う人は国内でもごく少数です。

ロマンシュ語はラテン語を起源とする言語で、なかでもヴァル・ミュスタイアでは、特に「ヤウアー(Jauer)」と呼ばれる地域独自の方言が受け継がれています。

「Via Imperiala」はロマンシュ語で「皇帝の道」

村を歩いていると、看板や地名にもロマンシュ語が使われています。日本人の筆者からみると正直あまり違いがわかりにくいのですが、見慣れない地名や言葉に出合うのも新鮮です。

世界遺産「ミュスタイア修道院」

伝説の始まりは、カール大帝が遭遇した吹雪!?

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ミュスタイアを代表するのが、1983年にユネスコ世界文化遺産に登録された「ミュスタイアの聖ヨハネ・ベネディクト会修道院(Benedictine Convent of St. John at Müstair)」です。その歴史は、8世紀のフランク王国の王、シャルルマーニュ(カール大帝)の時代にまでさかのぼります。

伝説によると、774年イタリア北部のランゴバルド王国を征服したカール大帝は、フランク王国へ戻る途中、現在のスイスとイタリアの国境にあるウンブライル峠で激しい吹雪に遭遇。無事に生還できたことへの感謝として、翌年この谷に修道院を建てたといわれています。

豆知識
ちなみに、ミュスタイアという地名も、ラテン語で修道院を意味する「Monasterium」が由来。修道院を中心に村が発展してきたことが、名前からも伝わってきます。

1200年前の壁画が今も!異なる時代の絵が重なる教会

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修道院に到着したら、まず見ておきたいのが教会です。中へ足を踏み入れると、壁一面に描かれたフレスコ画が目に飛び込んできます。実はこれらの壁画、すべてが同じ時代に描かれたものではありません。9世紀前半のカロリング朝時代のものと、12世紀頃のロマネスク様式のものが残されているのです。

イエス・キリストの生涯を描いたフレスコ画。左側に見えるのがカール大帝の像

なかでも、約1200年前に描かれたカロリング朝時代の壁画は、修道院が世界遺産に登録された大きな理由のひとつ。これほど古い壁画がまとまった形で残されているのは、世界的にも貴重なのだそう。

さらに興味深いのが、12世紀の壁画の下にも、9世紀の絵が隠れている可能性があるということ。

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実際に、後世の壁画を保存のために取り外したことで、その下にあったカロリング朝時代の絵が明らかになった場所もあります。「それなら、ほかの場所も調べればいいのでは?」と思ったのですが、そう簡単な話ではありません。

上に重なる12世紀の壁画も、もちろん貴重な文化財。古い絵を見るために、後世の絵を壊すわけにはいかないのです。X線による調査も試みられたものの、漆喰の層が厚く、十分な結果は得られなかったのだそう。

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取り外された12世紀頃のロマネスク様式の壁画

修復技術がさらに進歩すれば、いつか壁画の下に隠された景色を見ることができるのかもしれませんね。ちなみに、壁画を保護するため、現在は教会内で暖房を使用できず、礼拝も主に夏の間に行われています。

今も7人の修道女が暮らしている

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ミュスタイア修道院が興味深いのは、世界遺産であると同時に、今も修道女たちが生活していること。

もともとは男性の修道院でしたが、12世紀に女性の修道院へと変わり、以来、ベネディクト会の修道女たちによる祈りの暮らしが続いています。

筆者が訪れた2026年9月時点では、暮らしているのは63〜94歳の7人。修道女たちは今も、聖ベネディクトの戒律に基づく「Ora et Labora(祈り、働け)」の精神をもって、祈りの時間を中心に、読書や共同の食事などを組み合わせた規則正しい毎日を過ごしているのだとか。

12世紀の鐘を実際に鳴らしてみた!

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見学中に出会ったのが、12世紀に作られたという鐘です。男性の修道院から女性の修道院へと変わった時代のもので、発掘調査によって発見されたのだそう。表面にはラテン語の銘文が刻まれ、かつては一日7回の祈りの時間を知らせるために使われていたのだとか。

実際に鳴らしてみると、ずっしりと重い鐘からは想像もつかないほど、澄んだ音がしました。かつて修道女たちもこの音を聞いて祈りの場に集まっていたのだと思うと、なんとも不思議な気持ちになります。

2003年まで非公開だった!修道女たちの旧居住区域を見学

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続いて、10世紀に建てられたプランタ塔(Plantaturm)へ。塔内には、中世の共同寝室や食堂、バロック時代の修道女の個室など、かつて約200年間にわたって修道女たちが暮らしていた空間が残されています。

修復を経て、2003年には修道院博物館としてオープン。現在は一般公開され、修道女たちが実際に使っていた部屋や家具などを間近に見ることができます。

携帯電話もテレビもOK? 意外と知らない現代の修道院生活

ベッドと机、小さな窓が設けられた個室

現在でも修道女たちは修道院の壁の内側で生活し、外出には一定の制限があるのだとか。一方で、月に1日の自由時間や年に2週間の休暇が設けられていて、テレビや携帯電話を使うこともあるのだそう。

とはいえ、休暇の際に滞在するのは、基本的にほかのベネディクト会の修道院。家族のもとへ帰るのは、病気や葬儀など、特別な事情がある場合に限られているといいます。自由な時間があっても、その過ごし方は私たちの日常とはずいぶん違うようです。

世界遺産だけじゃない! ユネスコ生物圏保存地域にも注目

実は、ミュスタイアの魅力は修道院だけではありません。

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この村を含むヴァル・ミュスタイア一帯は、スイス初の高山地域のユネスコ生物圏保存地域の一部でもあります。生物圏保存地域とは、自然を守るだけでなく、地域に暮らす人々の生活や経済活動との共存を目指す取り組みのこと。

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この地域では、1979年にスイス国立公園が国内初のユネスコ生物圏保存地域に認定され、その後、周辺地域へと範囲を拡大。2017年には現在の生物圏保存地域として正式に認定されました。

ヴァル・ミュスタイアでは、農家の80%以上が有機農業に取り組んでいるほか、地域の資源を使ったプロダクトの開発や伝統的な景観の保全も進められています。

地域で採取した石を砕いて作る顔料セット「CULURS」(左)や、地元のアルプス松などの植物から抽出した精油を使った石鹸「Savuns da la Val S-charl」(右)など

世界遺産としての文化的な価値と、生物圏保存地域としての豊かな自然。その両方が評価されているという、スイスでも珍しい谷なのです。

ちょっと歩けばイタリアへ! 徒歩で国境越えも楽しめる

最後に、ミュスタイアならではのユニークな楽しみ方をもう一つ。

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実はこの村、イタリアとの国境までわずか数キロ。修道院から東へ足を延ばせば、徒歩で国境を越えてイタリア・南チロル地方へ向かうこともできます。

筆者も実際に歩いてみましたが、わずか15分ほどでイタリアに辿り着いてしまいました。

教会や城跡も見つけられました

パスポートは忘れずに携帯したいところですが、気軽に国境を越えて隣国へ行けるというのは、ヨーロッパならではの体験ですね。

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1200年前の壁画に、かつての修道女たちの生活空間。そして、今も続く祈りの暮らし。ミュスタイアの聖ヨハネ修道院には、さまざまな時代の歴史が重なっています。

現在は新たに入会する女性が少なくなっているという課題もありますが、だからこそ、この場所で受け継がれてきた日々の営みを知ることが、より大切に感じられました。

チューリヒからは少し遠いものの、アルプスの奥にこんな世界遺産があると知れば、旅の目的地に加えたくなるはず。スイスの有名観光地とはひと味違う旅を楽しみたい人に、ぜひ訪れてほしい場所です。


ミュスタイアの聖ヨハネ修道院

(Benedictine Convent of St. John at Müstair)

住所:Via Maistra 73, 7537 Müstair, Switzerland
アクセス:スイス国鉄ツェルネッツ(Zernez)駅からポストバスで約1時間、「Müstair, Clostra Son Jon」下車
営業時間(修道院博物館):
5〜10月/月〜土曜 9:00〜18:00、日曜・祝日 13:30〜18:00
11〜4月/月〜土曜 10:00〜12:00、13:30〜16:30、日曜・祝日 13:30〜16:30
休館日:12月25日
入場料:修道院教会は無料、修道院博物館は大人12スイスフラン、学生8スイスフラン、6〜16歳6スイスフラン、6歳未満無料
※教会は礼拝などにより見学できない時間帯があります。各種ガイドツアーあり。

©Chiharu Kubota

取材協力
スイス政府観光局
スイス インターナショナル エアラインズ
スイストラベルシステム

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