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昼休みになると紙袋を持って消える先輩→後を追うと屋上へ続く階段の踊り場にあったのは

  • 2026.10.31
ハウコレ

昼休みを知らせるチャイムが鳴ると、隣の席の先輩はすぐに席を立っていました。紙袋を1つだけ持って、向かうのはエレベーターとは反対の方向。その日、行き先を確かめてみようと思ったのは、ほんの出来心でした。

「ごめん、用事あって」と言われ続けて

入社した時から仕事を教えてくれている先輩は、以前は部署のみんなと連れ立って、近くの定食屋へよく出かけていました。様子が変わったのは、ここ1か月ほどのことです。

「先輩、お昼ごはん行きませんか?」

私が声をかけるたびに、先輩は少し困ったように笑いました。

「ごめん、用事あって」

先輩はそう言って紙袋を手に取り、休憩が終わる直前まで戻ってきません。思い出したのは、去年辞めていった同じ部署の人のことでした。その人も辞める前の数か月、休憩になるたびにどこかへ消えていて、あとから転職先との電話だったと聞いたのです。

先輩も、同じなのかもしれない。そう考え始めると、ほかの理由が浮かばなくなっていきました。

屋上へ続く階段の踊り場で

行き先を確かめようと決めたその日、少し間をあけて先輩の後を追いました。先輩が入っていったのは、フロアの端にある階段への扉。扉を開けた時には、もう姿はありませんでした。トイレや給湯室をひと回りしてから、もう一度階段へ。私たちのフロアは最上階で、上にあるのは立入禁止の札が下がった屋上への扉だけです。

1段ずつ上っていくと、踊り場に青い折り畳み椅子が広げてありました。座面の上には、書店のカバーがかかった分厚い本。鉛筆が挟まれ、色とりどりの付箋だらけです。横には、見覚えのある紙袋。

誰にも見つからない場所で、こんなに付箋を貼って読み込む本。転職先で必要になる何かなのだろうか。本に手を伸ばしかけて、引っ込めました。中を見てしまったら、先輩に顔向けできない気がしたからです。

その時、下の階から、階段を上ってくる足音が聞こえてきました。

「しばらく内緒にしてくれる?」と頼まれて

踊り場から見下ろすと、缶コーヒーを手にした先輩が、こちらを見上げて足を止めていました。

「見つかっちゃったか」

先輩はそう言って笑うと、残りの段を上がってきて、椅子の上の本を取り上げました。カバーのかかった本を、胸に押し当てるように抱えています。

「すみません、先輩を探していて」

頭を下げた私に、先輩は少し間をおいてから言いました。

「しばらく内緒にしてくれる?」

「わかりました」

そう答えたものの、私は本当は、辞めるんですかと聞きたかった。けれど、本を抱えたままの先輩を前にして、その問いを飲み込み、もう一度頭を下げました。先に階段を下りて、自分の席へ。

そして...

それからも先輩は、休憩のたびに紙袋を持って席を立ちました。

「ごめん、用事あって」

誘うたびに返ってくるのは、いつも同じ言葉。私はうなずくだけで、後を追うことはもうしませんでした。約束どおり、階段のことは誰にも話していません。

あの踊り場で先輩が開いているのは、どこへ向かうための本なのか。答えは、まだ聞けていません。

(20代女性・事務職)

本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。

(ハウコレ編集部)

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