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発達障がいと防災 「避難所に行けない」子どもたち——、家族が知っておきたい備え

  • 2026.10.29

災害が起きた時、自宅で過ごすのが難しければ「まず避難所へ」と考える人は多いでしょう。しかし発達障がいのある子どもとその家族の中には、避難所で過ごすことが難しく、別の選択を迫られる人たちがいます。自閉・知的特性のある、現在14歳の息子と能登半島地震で被災した経験から「発達障がい×防災」を発信する、一般社団法人チャレンジドLIFE(滋賀県草津市)の代表・畠中直美さんに、その実情と備えについて伺いました。

発達障がいの特性と、環境変化で強まる困りごと

発達障がいのある子どもが避難所で過ごす際の困りごととは何でしょうか。畠中さんに尋ねると、「避難所でどう過ごすか以前に、避難所に行けない、行っても長時間過ごせない人がいることをまず知ってほしい」との答えが返ってきました。

「避難所にいる人」=「被災者」ではなく、避難所という選択ができない人がどう情報や支援につながるか。それが、発達障がいをはじめ、さまざまな要支援者の防災を考える上で欠かせない視点だと畠中さんは指摘します。

また畠中さんによると、災害時の困難さは障がいそのものが原因ではなく、普段と大きく異なる環境に置かれることで特性が強く出てしまうためだといいます。発達障がいは特性の表れ方が人それぞれ異なりますが、災害時に特に困難を抱えやすいのは、ASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如・多動症)です。取材で伺ったそれぞれの特性と困りごとの具体例を以下にまとめました。

ASDとADHDに共通する特性と困りごと

・感覚刺激による消耗:大勢の人、大きな音やまぶしい光、においなどを人より強く感じやすく、限られた空間で大人数が過ごす避難所では強いストレスを抱える(仕組みは違うものの外部刺激で消耗する点はASD・ADHDに共通する)

ASDの特性と困りごと

・強い偏食傾向:前述の聴覚や視覚、嗅覚に加え、味覚も過敏なため支給された非常食などを食べられないケースが多い

・コミュニケーション障害:考えや気持ちを言語化するのが苦手なため、困っていても伝えることが難しい。また見た目にはわからないため、周囲も気づきにくい

・パターン化した行動、こだわり:見通しが立たないことに強い不安感を覚える傾向があり、普段の日課や習慣から外れることに大きなストレスを抱える。普段と違うルールの下、集団行動をする避難所の生活に適応しづらい

ADHDの特性と困りごと

・衝動性・多動性:じっとしていられず、考えるよりも先に動く特性があるため、災害時という強いストレスのかかる環境下では、避難所を飛び出してしまう、夜中に奇声を上げるなどの問題行動が起こりやすい。また、過剰におしゃべりをしたりはしゃいだりするなど、場の雰囲気にそぐわない行動を取ってしまい周囲から冷たい視線を浴びることもある

息子と経験した能登半島地震

畠中さんが発達障がいと防災に関する講演や自治体向けの防災セミナーに登壇するきっかけとなったのは、発達障がいのある長男(当時小学校6年生)と共に能登半島地震で被災した経験です。

石川県へ家族5人で帰省する途中、高速道路で地震が発生しました。経験したことのない大きな揺れに、慌てる親と泣き叫ぶ下の子たち。一方、長男は名前を呼んでも返事をせず、畠中さんと視線も合わず、表情や体が硬直していたそうです。

弟たちは、怖がりながらも「何があったの?」「どうなるの?」と何度も尋ね、少しずつ状況を理解していったように見えました。そして余震が落ち着き、安全だとわかると、比較的早く日常に戻れたといいます。一方、長男にはそのプロセスを辿ることが難しかったのではないかと畠中さんは感じています。

幸い家族は無事で、実家も暮らせないほどの被害ではありませんでした。しかし長男は地震のショックから不眠が続き、昼夜が逆転。「ずっと緊張していて、突然不安になるのか夜中に大声で泣き出すことなどが続きました」。地震の揺れや鳴り止まないサイレン、ヘリの音によるショック。さらに「いつまた同じことが起こるかわからない」という不安が、地震の後も長男に強い緊張をもたらしていたのではないかと畠中さんは考えます。

滋賀県の自宅に戻ってからも影響は続きました。少しでも親と離れ一人になることを強く怖がるようになり、ようやく集団登校で通えるようになっていた学校も親の付き添いが必要に。短時間ならできていた留守番もできない状態が4ヶ月近く続きました。一日に何度も「また揺れる?」と聞き、地震を思い出すようなトラックの大きな音や橋の揺れにも強く反応。そのため、歩いている途中に頭を抱えてうずくまり、動けなくなることもあったといいます。

「それまで積み重ねてきた成長が、地震によって7、8年分後退してしまった感じで、かなりショックでした」と畠中さんは振り返ります。不安や緊張があっても、パニックになる前に助けを求める、見通しが立たなくても自分から情報を得ようとするなど、成長とともに特性との付き合い方を少しずつ身につけてきた息子さん。それが地震によって一気にできなくなってしまったのです。その後、時間はかかったものの、息子さんは少しずつ落ち着きを取り戻し、現在は地震前の状態まで回復しているといいます。

「急な変化や見通しの立たない状況に強い不安を感じる子にとって、災害の影響は日常生活でも続くことがあります。今まではできていたことが非常時にはできなくなる。そして再びできるようになるには、また時間と経験の積み重ねが必要だと、我が子を通して強く感じました」

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実際に起こった事例

ほかにも、畠中さんが活動を通して見聞きした被災地での事例を紹介してくれました。

・夜中に独り言をつぶやき続け「うるさい!」と怒鳴られて翌朝早くに避難所を出た

・自宅が被災し避難所でも過ごせず、親戚・知人宅を転々としていたため、物資など必要な支援につながれなかった

・避難所の駐車場で車中泊。狭い車内でじっとしていられない子どもにスペースを譲っていた母親が、エコノミークラス症候群で亡くなった

こうした事態を防ぐためにも、事前の想定と備えが子どもと家族を守る鍵になります。

畠中さんが代表を務めるチャレンジドLIFEが2025年に実施した「子育て家庭の大震災への備えに関する全国調査」からは、障害のある子どもがいる家庭は一般の避難所を選ぶ割合が低いことが明らかになっています。

情報と支援につながるために——家庭が地域とかかわる

「避難所に行かない/行けない」場合、必要な情報をどうやって得ればいいのでしょうか。現在は各自治体がホームページやSNSで情報を発信しています。一方で、停電時などは避難所の掲示板に物資の配給や給水に関する情報が直接貼り出されることも。また情報を得られても、障がい児を一人にできず物資を取りに行けないケースも多いといいます。

だからこそ「ここに障がい児家庭がある」と平時から周囲に伝えておくことが重要だと畠中さんは言います。特性を持っていると知ってもらえれば、いざという時に気にかけてもらったり、助けを求めたりしやすくなるはずです。

ただそのためには、子どもも一緒に地域の人たちと関わる必要があります。しかし、「今まで発達障がいへの理解を得られず傷ついてきた人も多いと思うから、無理はしないでほしい」と畠中さん。たとえば、近所に住むママ友や民生委員など「この人ならわかってくれそう」と思える人を探し、少しずつ知ってもらう工夫をしてほしいと言います。

同時にすべての自治体で作成されている「避難行動要支援者」名簿への登録や個別避難計画の策定を通じて、地域の防災施策の対象者として事前に把握してもらうことも大切です。名簿への掲載基準は自治体によって異なりますが、要介護度や障害の程度など、一定の要件に該当する人が対象になります。基準の範囲外でも、自治体によっては、希望に応じて名簿に登録できる場合もあるので自分の住む自治体に問い合わせてみましょう。個人情報は厳密に管理されていますが、心配なときはどこまで開示されるのか確認しましょう。

また全国の約97%の自治体には自主防災組織があります(2025年4月時点)。地域住民が自主的に結成する組織で、防災訓練や防災資機材の備蓄や整理・点検を行っているほか、災害発生時には情報の収集と伝達、被災住民の救護なども行います。町内会等で活動しているため、自宅がある地域の自主防災組織に問い合わせをすれば、対応を協議してもらえるといいます。

「私も地域の組織に入っていますが、歓迎してもらえます。多くの自主防災組織が想定する要支援者は高齢者が中心です。それ以外の当事者がいると知ることで、地域の防災のあり方が変わっていくことも実感しています。わが子の命を守るにはどうしても家族だけでは難しい部分もあるので、できる範囲で足を運んでみてほしいですね」

避難所を運営する側が配慮できること

避難所を運営する側が、発達障がい児のいる被災家庭にできることは何でしょうか。まずは特性のある子の家族や周囲の人に、どう接すればいいのか確認すること。そして特別な配慮ではなくても、たとえば落ち着くまでの間だけ静かな場所を案内するなど、できる範囲で寄り添ってもらえるとありがたいと畠中さんは言います。

「発達障がいのように、見た目ではわかりにくい困難さを抱えている人がいると運営側が認識し、わがままではないと理解してくれるだけでも、当事者家族はすごく救われると思います」

家庭が備えられること

普段から、障がいについて周りに伝えることの重要性は先ほどお伝えしたとおりです。とはいえ、避難所に行かない選択を想定した準備も家庭には必要です。

「常備薬や食べ慣れた食べ物を最低3日間、できれば1週間分備蓄しておくこと。さらに車中泊を想定した準備もしておくと安心です」

また特性の表れ方は人それぞれ。わが子に合わせた備えを考えましょう。「強いストレス状態でも“これがあれば落ち着ける”というアイテムがあると思います」と畠中さん。そうした“お守りアイテム”を防災バッグに入れておくことを勧めます。

 

忘れてはいけないのが、登下校中など子どもが一人の時に被災するケースです。前出の調査でも、障がい児家庭の5割が「子どもが一人になる可能性がある」と回答しています。一方、自力での対応は難しいと考えている家庭が半数に上ります。

畠中さんも能登で被災した際の息子さんの様子を、「完全にフリーズしてしまい、家族が話しかけても返事もできなくて。もしも一人だったらとすごく不安になりました」と振り返ります。

こうした事態に備えて、子ども本人や家族の情報などを記したヘルプカードやSOSカードを持たせることが必須だといいます。

また、発達障がいがあると災害のニュースを見るだけでも強い不安を訴える子も多く、防災の話をするのが難しいケースもあります。「なるべく遊びの中に取り入れるなど、知っておいてほしい情報を工夫して伝えていくことが必要」だと畠中さんは訴えます。

自分で選択肢を持っておくことの大切さ

災害という緊急時に選択肢を広げるのは簡単ではありませんが、「わが子に合わせた選択肢を持っておくことで、家族の命も心も守ることができる」という畠中さんの言葉が印象的でした。発達障がいは見た目にはわかりづらい特性だからこそ、まずは身近な人が「その子に合った備え」を考えること。その積み重ねが、誰も取り残さない防災へつながっていくのではないでしょうか。

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<畠中直美(はたなか なおみ)さんプロフィル>

キャリアコンサルタント、ダイバーシティコミュニケーターとして、企業・官公庁での研修講師、コンサルティングを全国で行う。自閉・知的特性のある長男(中3)を含む3人兄弟を育てる。わが子の障がいをきっかけにチャレンジドLIFEを設立し「発達障がいの目線で、みんなの生きやすさを叶える。」を理念に活動。「発達障がい×防災」をテーマに、企業・学校・地域をつなぐさまざまなプロジェクトの立ち上げに関わる。

<執筆者プロフィル>

那須 あさみ

フリーランスライター。小学生、中学生の4児の母。さまざまな年齢の子どもと一緒に家庭で備えられる防災を模索中。

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