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「はじめまして」で通した俺が、取引先から外された日。ロビーで後輩に話した一言

  • 2026.10.31
ハウコレ

気づいていないなら、それでいい。そう決めて名刺を差し出した打ち合わせのあと、俺は1階で後輩に余計なことを話してしまいます。後ろに誰が立っていたのかも知らずに。

会議室に入ったとき、課長の隣で資料をそろえている女性の顔に見覚えがありました。後輩を連れて訪ねた、新商品の販促を受注できるかがかかった打ち合わせです。1年前、居酒屋の個室で俺が帰らせた子だと、すぐに分かりました。

笑い話にしていた個室の一言

あの合コンで、俺は盛り上げ役のつもりでいました。入り口近くの席から、遅れて引き戸を開けた彼女を見上げて、口から出たのがこれです。

「ブスは帰っていいよ」

笑いながら言うと、何人かがつられて笑いました。幹事の子が「ちょっと」と言いましたが、気にも留めません。彼女は端の席で1杯だけ飲み、お金を置いて先に帰っていきました。

悪いことをしたとは思っていませんでした。その後の飲み会でも、本当に帰った子がいたと何度か笑い話にしていたくらいです。だから顔を覚えていました。

課長だけを見て進めた打ち合わせ

当日の会議室で、彼女はこちらを見て、すぐ手元に目を落としました。気づいていない、と俺は判断しました。彼女の前に立ち、名刺を両手で差し出します。

「はじめまして」

彼女から名刺を受け取り、「本日はよろしくお願いいたします」と頭を下げて正面の席に座りました。説明のあいだは、決裁する課長だけを見て話しました。彼女と目が合えば、何か思い出させてしまうかもしれない。納期や配送について彼女に質問されても、答えは課長に向けて返しました。

エレベーターで1階のロビーに降りると、後輩と2人きりになりました。手応えがあったぶん、気が緩んでいたのだと思います。

名刺入れを差し出したのは

「今の担当、前に合コンで帰らせた子だよ。気づいてないみたいだから助かったわ」

笑ってそう言うと、後輩は顔をこわばらせました。

「え、それまずくないですか」

「お忘れ物です」

振り向くと、先方の課長が立っていました。差し出されたのは、俺の黒い名刺入れ。課長は笑っていませんでした。受け取って頭を下げるあいだに、課長は次のエレベーターで戻っていきました。

翌日、うちの部長に呼ばれました。

「ロビーでのお前の話、先方の課長さんが聞いていたそうだ。今回は見送りになった。お前はこの件から外れろ」

それでも、彼女なら何とかなると考えたのです。何も覚えていない担当者なら、頼めば口添えしてくれるはずだと。

そして...

打ち合わせから2日後、もらった名刺の直通番号に電話をかけました。先方の課長には、何度かけても取り次いでもらえなかったのです。

「先日はありがとうございました。少し行き違いがあったようで、担当の方から課長さんにお口添えいただけないかと思いまして」

少し間があって、彼女が答えました。

「はじめまして、とおっしゃいましたよね」

「え?」

聞き返した俺に、彼女は続けました。

「1年前に1度お会いしています。そのとき帰っていいと言われたので、今回も私から申し上げることはありません」

「いや、あの」

「失礼いたします」

電話は、そこで切れました。気づいていないと決めつけていたのは、俺のほうです。彼女は1年前の一言を、言った俺よりずっと正確に覚えていました。

(20代男性・営業職)

本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。

(ハウコレ編集部)

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