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「先に寝てて」と妻に言い続けた俺が、書斎で義母への手紙に書けずにいた一行

  • 2026.10.29
ハウコレ

「ちょっと調べもの」とごまかしても、妻はそれ以上聞いてきませんでした。美容院から戻った俺は、引き出しの中のボールペンが動いていることに気づきます。

俺の手帳のポケットには、義母から渡された小さなメモが挟まったままでした。この半月で、折り目がやわらかくなるほど開いては戻しました。便箋に向かう前に読み返すのが、決まりのようになっていました。

玄関で義母に握らされたメモ

半月ほど前、妻の実家に顔を出した帰りのことです。妻が車に荷物を積んでいる間に、義母が玄関で、折りたたんだメモを握らせました。

開いてみると、義母の丁寧な字で、妻のことがこう書かれていました。

「あの子は、平気じゃないときほど平気と言う子です。どうかよろしくお願いします」

結婚して5年、義母から手紙をもらったのは初めてでした。メールで返すのは違う気がして、手書きで返事を書くと決めました。

ところが、書斎で便箋を広げても、宛名の先がいつまでも埋まりません。

書いては塗りつぶした「気づきます」

「これからは、ちゃんと気づきます」と書くたびに、妻が「平気だよ」と言った場面が浮かびました。約束をすっぽかした俺に笑ってみせた顔も、遅く帰った日に用意されていた夕飯も、俺は「平気」の言葉どおりに受け取っていただけです。気づけなかった人間が書く「気づきます」は軽すぎて、行ごとペンで塗りつぶしました。

中身は妻自身のことなので、妻の前では書けません。食器を片づけると「先に寝てて」と言い、書き出しを調べるためのスマホを持って書斎にこもりました。

ある夜、妻がノックなしにドアを開けました。机に広げていた便箋は、とっさに引き出しの中へ。

「ノックくらいしてよ」

「何してたの?」

「ちょっと調べもの」

パソコンの電源さえ入れていないのに、口から出たのはそんな言葉です。妻は湯のみを机の端に置き、それ以上は聞かずに出ていきました。本当のことを言えばよかったと思いつつ、追いかけはしませんでした。

便箋の横に移っていたボールペン

休日、美容院から戻って書斎の引き出しを開けると、便箋の上に置いていたはずのボールペンが、横に移っていました。妻が見たのだと、すぐに分かりました。宛名は読まれたでしょう。ただ、その下は全部塗りつぶしてあるので、中身までは伝わっていないはず。

その夜も、俺は「先に寝てて」と言いました。

「うん」

妻の返事は、それだけでした。引き出しのことも宛名のことも、何も聞いてきません。書斎のドアを閉めてから、手帳のメモを開きました。平気じゃないときほど平気と言う。義母が書いていたのは、ついさっきの妻のことでした。

そして...

次の日、妻に「お義母さんに、手紙書いてた」とだけ伝えました。

「そっか」

妻は洗濯物をたたむ手を休めずにそう言い、中身を聞いてはきませんでした。いつもなら、話はここで終わりです。俺は妻の隣に座り、顔を見てから聞きました。

「本当は、気になってたでしょ」

少しして、妻は小さくうなずきました。

「うん。ずっと気になってた」

その夜、塗りつぶし続けた行の下に、ようやく一文を書き足しました。「平気と言われたら、顔を見て聞き返します」。ポストに入れたのは、その2日後です。妻の口から「平気」以外の本音を聞けたのは、あのメモのおかげでした。

(30代男性・会社員)

本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。

(ハウコレ編集部)

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