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【インタビュー】すべてはひとつの円環に。森万里子が見つめる心の宇宙──森美術館で10月31日から個展開催

  • 2026.10.27
《Wave UFO》(1999-2002)。脳波インターフェースやコンピュータシステムを用いた、528×1134×493㎝の有機的なフォルムの巨大なポッド。内部では鑑賞者の脳波を測定し、映像へと変換する。2003年、ブレゲンツ美術館(オーストリア)で開催された個展「Wave UFO」の展示風景から。 PHOTO: RICHARD LEAROYD

勾玉(まがたま)をかたどったような巨大なインスタレーション。ステップがあることから、人が入り込んでいけるのがわかる。オーストリア、ブレゲンツにある、建築家ピーター・ズントーによる設計の美術館で2003年に発表された森万里子の作品《Wave UFO》だ。

中に入ると、操縦席があるわけではなく、複数の人が脳波インターフェースをつけ、有機的形体のポッドに体を預けられるようになっている。脳波バイオフィードバックを用いた機器を備え、自身と同時にそこにいる他者の脳波が映像として投影され、瞑想が一体となる体験をする。

外観や室内でモチーフとなる勾玉。それは胎児の形とも魂とも月の形とも言われ、昔から権力の象徴にもなったり、魔除け、呪術など祭祀のためのものでもあった。脳波を元に生成され、投影される映像は第一線の科学者や研究所との協働によって開発されたシステムにより可視化される。

2026年6月、東京にある森万里子の制作スタジオにて。スタジオ内には、白一色の茶室が設えられていた。 photo: koichi tanoue

古来からの形と現代の先端技術という対極とも思えるものが一つにまとめられる。森というアーティストによって。そんな対極性こそがこのアーティストの依拠するところではないかと考えていたのだが、これが予想外の質問だったのか、こう返ってきた。

「そもそも、それらは対極にあるものなのでしょうか?」

想定外の反応にこちらも慌てる。対極とも思えるものが共存していることに興味を持った、と言えばよかったのだ。

日本で生まれ、欧米で美術の教育を受けたこと。現在は東京とニューヨークという二つの大都市と宮古島といういわば辺境を拠点にしていること。仏教や神道に根ざす思考を持ちつつ、他国の文化にも敬意を抱いていること。宗教思想に畏敬の念を持つと同時に宇宙物理学などを読むこと。森の作品はそんな独特のアティテュード、スタイルから生まれたものであり、彼女に仕事を重ねさせてきた要因だと思ってきた。

「自分の中では古(いにしえ)のものも最新のテクノロジーも区別がないというか、ともにすごく尊いものに思えています。西洋と東洋にしても、元をたどれば人類はアフリカに起源を持ちますし、ホモ・サピエンス以外にも異なる人類の系統が存在しましたが、進化をさかのぼればそれぞれが共通の祖先へとつながっています。そう考えると、違って見えるものの中にも根源的なつながりを見いだすことができると思っています」

そこにあるのは単純な二元論、二項対立ではなく、循環としての二面性だった。生と死、現代と古代、ミクロ(内なる精神・仏教)とマクロ(外なる宇宙物理学)。それぞれ、分断されることなく、彼女の作品の中では一つの大きな円環(輪廻)としてつながっている。

“古(いにしえ)のものも最新のテクノロジーもともに尊いものに思えています。違って見えるものの中にも根源的なつながりを見いだすことができる”

この二面性という補助線を引くと、難解になりがちとも思える、彼女が追う壮大なテーマ(宇宙、生死、テクノロジー)が整理され、作品に対峙したとき、見通しが開けてくるというものだ。

「今回、回顧展的なものとして準備をしていて、自分の変化の軌跡というか、成長の軌跡をご覧いただけます。もともとファッションという世界で仕事をしていて学んだことの延長に初期の作品があるように思えます。アイデアをどういうふうに形にしたらいいかと考えて、持っていたスキルを使ってイメージを生む。映画監督が世界をつくっていくときに必要な人たちを演出する。そういう距離感で、そこに自分自身を構成していました」

今回の展覧会のタイトルは「森万里子:燦燦」という。燦燦(さんさん)とは、光が豊かに満ちて明るく輝くこと。光は仏教では慈悲や智慧を示す光明、それを可視化したものが光背。神道では太陽神に代表される神々とされる。

森万里子は20代前半、ロンドン留学中に父親を喪い、命の儚さを思った。人の存在には終わりがあるのかという問い。彼女はまず仏教にあたり、宇宙物理の書も紐解き、世界各地の古代都市や祈りの場をめぐったという。さらに国内外の新石器時代の遺跡に。そうした探求、思索がその後の創作へとつながる。

「最初に抱いたあの問いの答えが出せずにずっとここまで来てしまったという感じはあります。亡くなるとどこに行くのか。でもそれらは自分が死なないとわからないことなのだろうかと。そこから仏教思想をたどり、新石器時代を経て、輪廻転生にたどり着きました」

「エソテリック・コスモス(宇宙の秘儀)」シリーズより《ピュアランド(浄土)》(1996-1998)。 Hearst Owned
《巫女の祈り》(1996) Hearst Owned
《プレイ・ウィズ・ミー》(1994) Hearst Owned

展覧会は緩やかにクロノロジカルに流れながら、テーマ別に4つのセクションで構成される。最初は作家自身が日常の都市の中に「ポスト・ヒューマン」の女性として登場するシリーズなど。時間を超え、人間とサイボーグの境界を消し、空間をやすやすと移動する。根底にあるのは輪廻転生の概念であり、そこでは意識の拡張を得るためにアートがあるようだ。

2つ目は、自分と他者、そして世界や宇宙を切り離された別個のものと捉えず、根源的にはすべてがつながっているとする「ワンネス」という概念をテクノスピリチュアルな空間体験によって実現すること。具体的には前述の《Wave UFO》など。

3つ目、「太古の記憶」と題され、森のインスピレーション元である新石器時代の遺跡や古ケルト文化、縄文文化の世界観があり、一方、ニュートリノ観測施設「スーパーカミオカンデ」のもたらすデータを享受する。そこから展開された作品を見ていく。

《ピースクリスタル》(2016-2024)。森が世界6大陸で展開する、自然と人間のつながりを探るパブリックアート・プロジェクトの第3作。現代人の平均身長に合わせた高さ167.5㎝のクリスタルガラスを用いた立体作品で、直立する人体を思わせる上下の円錐が、魂を象徴する球体を包む。人類共通の起源への敬意と世界平和への祈りを託し、2024年にヴェネチアで発表。エチオピアでの恒久設置が計画されている。 PHOTO: MARTA BUSO, COURTESY OF FAOU FOUNDATION, NEW YORK
《プライマル・リズム:サンピラー(太古のリズム:太陽の柱)》(2011)。同プロジェクトの第1作として、沖縄・宮古島の七光湾に恒久設置された、高さ4.2メートルの積層アクリル製の柱。海と空の色を映しながら、冬至の日には湾内へ長い影を落とし、天空の運行と自然、生命の循環を結びつける。 photo: RICHARD LEAROYD, COURTESY OF FAOU FOUNDATION, NEW YORK

4つ目、実質的にはこれが展示の締めくくりとなるが、森が2010年に設立したFaou財団の活動の紹介だ。世界6大陸、それぞれの地域コミュニティの協力を得て、天空の動きとも連動したパブリックアート作品を設置していく。2011年、宮古島に《プライマル・リズム:サンピラー(太古のリズム:太陽の柱)》、2016年、リオデジャネイロに《リング:自然とひとつに》を恒久設置した。エチオピアでは《ピースクリスタル》が計画され、2024年にヴェネチアで発表されている。自然環境は地球の宝であると位置づけ、自然と人間の関係への意識を高めようとする活動が続いている。

また、展覧会では森のこれまでの活動の記録の資料や彼女のコレクションである古代のオブジェクトも展示されるという。

森万里子の仕事、行動を見てきて、重ね合わせたくなったのはフランスの社会人類学者、民族学者クロード・レヴィ=ストロース(1908~2009)の思想である。彼の構造人類学の中核にある理論というのは、人間はしばしば世界を、生と死、自然と文化、天と地といった二項対立で分断して理解するのだが、神話や儀礼はその分断を媒介(メディエーション)し、媒介者(メディエーター)を置くことで対立を克服するとするものである。

森は、古代と未来、科学(宇宙物理学)と霊性(仏教・縄文文化)といった二つの間に立ち、作品という「装置」を通してその対立や境界を無効化してきたと言えよう。彼女自身が白い衣服や巫女的な装いで作品に佇むスタイルは、二つの世界を行き来して対立を円環にしてしまう「構造主義的媒介者(メディエーター)」の立ち位置そのものではないのか。

レヴィ=ストロースは著書『野生の思考』で、近代科学のような目的合理的な思考に対し、すでにある素材や概念を組み合わせて新しい意味を創出する思考法を「ブリコラージュ(器用仕事)」と呼んだ。これは「未開」の劣った思考ではなく、人間に根ざした本質的な知のあり方であるとも。

2025年、ニューヨークのショーン・ケリー・ギャラリーで開かれた個展「ラディアンス」の展示風景より、《お社》(部分)(2025)。 PHOTO: JASON WYCHE, COURTESY OF SEAN KELLY, NEW YORK

森はスーパーカミオカンデの宇宙線データに代表される最先端テクノロジー(近代科学の産物)を素材として用いながら、それを新石器時代の巨石や石柱、ケルト文化の死生観といった「神話的思考」に接続する。科学の産物を「知見の証明」のためではなく、 「人間の普遍的な生命感覚や神話を立ち上げるための素材」として再編成(ブリコラージュ)している点が、まさしく「野生の思考」の現代的実践と言えるだろう。

レヴィ=ストロースは、歴史の進行や変化を肯定する近代社会を「熱い社会」、時間を円環的なものと捉え、構造の維持や自然との調和を重視する伝統社会を「冷たい社会」と分類した。現代の大都市は「熱い社会」の極致であり、時間軸は未来への直線的な進歩に向かっている。一方、森が宮古島の自然や古代遺跡に見いだすのは、自然と霊魂が循環する「冷たい社会」に通じる時間感覚である。

森の活動は単なる個人の精神的探求に留まらない。 「現代文明に対する知の再編アプローチ」 として鮮やかに浮かび上がってくるのである。

MARIKO MORI
森 万里子: 東京都生まれ。ロンドンのチェルシー・カレッジ・オブ・アートを卒業後、ニューヨークのホイットニー美術館インディペンデント・スタディ・プログラムを修了。1997年、第47回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展で優秀賞を受賞。古代文化や仏教、宇宙物理学と最新技術を横断し、心の宇宙を探求する。東京、ニューヨーク、宮古島を拠点に活動。

10/31~2027/3/28、森美術館
東京都現代美術館の「森万里子 ピュアランド」(2002)以来、国内24年ぶりの大規模な個展。初期の「サイボーグ」シリーズから《Wave UFO》、パブリックアートまで、30年以上の活動から約40点を紹介。光、知覚、意識をとおして、テクノロジーと精神性、生命のつながりを没入的な空間の中で体感できる。

From Harper's BAZAAR art no.6

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