1. トップ
  2. カルチャー・教養
  3. なぜロロ・ピアーナはアートと建築の名所を選ぶのか? 2026年秋冬キャンペーンから読み解く

なぜロロ・ピアーナはアートと建築の名所を選ぶのか? 2026年秋冬キャンペーンから読み解く

  • 2026.10.27
PHOTO: LOCATION CREDITS: THE ROTHKO CHAPEL, HOUSTON, TEXAS

写真家のマリオ・ソレンティが撮影したロロ・ピアーナの2026年秋冬広告キャンペーンを眺めていて、あ、ここはロスコ・チャペルだ、と気がついた。深い色をたたえたマーク・ロスコの絵画が並ぶ、あの八角形の空間だ。ほかの写真に目を移すと、ソファに腰かけたり庭を歩いたりするモデルたちの姿には、誰かの暮らしの一場面をのぞいているような親密さがある。気になって撮影場所をたどってみると、それらはヒューストンにひとつの文化的な風景を築いたジョン・ドゥ・メニルとドミニク・ドゥ・メニル夫妻へとつながっていった。

ドゥ・メニル夫妻の旧邸宅、メニル・ハウス。 PHOTO: LOCATION CREDITS: THE MENIL COLLECTION, HOUSTON, TEXAS
メニル・ハウスの庭園に置かれた《Torso of Apollo or Dionysos (アポロまたはディオニュソスのトルソー)》(1~2世紀)。 PHOTO: LOCATION CREDITS: THE MENIL COLLECTION, HOUSTON, TEXAS
メニル・ハウス。モデルのカットはすべて、ロロ・ピアーナの2026年秋冬広告キャンペーンより。 PHOTO: LOCATION CREDITS: THE MENIL COLLECTION, HOUSTON, TEXAS

写真に登場する邸宅は、夫妻が暮らしたメニル・ハウス。フィリップ・ジョンソンが設計し、クチュリエのチャールズ・ジェームズが内装を手がけた家である。1954年に夫妻が設立したメニル財団もここを拠点とし、のちのメニル・コレクションの礎となった。初めに目に留まったロスコ・チャペルもまた、ドゥ・メニル夫妻の構想から生まれた場所である。

1964年、二人はロスコにヒューストンに祈りと瞑想のための空間をつくることを依頼した。自宅で美術品とともに暮らすことと、ロスコに礼拝堂を託すこと。一見するとずいぶん違うようで、夫妻にとって芸術はいつも、人の暮らしや生き方のすぐそばにあるものだったのかもしれない。今回のキャンペーンは、そんな二人がヒューストンに残した風景をたどるように展開していく。

メニル・コレクションは、住宅街の中に展示施設と緑地が点在するキャンパスを形成している。1973年にジョンが亡くなった後もドミニクは夫妻の構想を引き継ぎ、1987年にレンゾ・ピアノ設計の本館を開館。周辺には素描を専門とするメニル・ドローイング・インスティテュートやサイ・トゥオンブリー・ギャラリーなどがあり、芸術施設が街の日常と穏やかにつながる、そのあり方に惹かれる。古代から現代まで幅広い作品を収蔵し、ドゥ・メニル夫妻が抱いていた「芸術は人間にとって不可欠である」という信念を受け継ぐ。開館以来、入館は無料だ。誰もがふらりと入れること自体、夫妻にとって芸術がどんな存在だったのかをよく表しているように思う。

メニル・コレクション本館のフレーミング・スタジオ。 PHOTO: LOCATION CREDITS: THE MENIL COLLECTION, HOUSTON, TEXAS

そうした背景を知ってソレンティの写真を見返すと最初とは少し違うところに目がいく。深いブラウンやストーンカラー、チョークホワイトの服はメニル・ハウス室内の調度や庭の緑にすっとなじんでいる。何より惹かれるのは、ここが美術品とともに人が実際に暮らしていた家だということ。ロロ・ピアーナの服もまた、鑑賞されるためというより誰かの日常の中で着られてこそ、その豊かさが伝わってくる。冒頭で感じた写真の親密さはそんなところから生まれているのかもしれない。

そして、ロスコ・チャペル。1971年に開館した無宗派の礼拝堂にはロスコが制作した14点の絵画が並び、自然光が入る八角形の室内でその画面はわずかに表情を変えていく。ロスコは制作中、「この課題の大きさは、私のあらゆる先入観を凌駕する」と語ったという。光や建築、その中に身を置く時間までが作品を見るという経験に入り込んでくる。さらに、瞑想や祈りの場として人々に開かれ、人権や社会正義をめぐる活動にも関わってきた歴史を知ると、ドゥ・メニル夫妻が芸術に託したものの大きさがより鮮明に感じられる。

今回のキャンペーンをきっかけにロロ・ピアーナとの関係はこの後も続いていく。メゾンは、2027年に開館40周年を迎えるメニル・コレクションの、無料で芸術に触れられる環境を支援。ロスコ・チャペルでは、建物の保存とキャンパスの拡張を進める「Opening Spaces」プロジェクトをサポートする。

振り返ればロロ・ピアーナは近年、建築家チニ・ボエリによるサルデーニャ島のカーサ・ロトンダ、 オスカー・ニーマイヤーが設計した自邸カサ・デ・カノアス、ジャン・コクトーが装飾したヴィラ・サント・ソスピール、画家バルテュスが暮らしたグラン・シャレーなどを広告の舞台に選んできた。どれも建築そのものが魅力を持つのはもちろん、誰かがそこで暮らし、ものをつくり、長い時間を過ごしてきた場所である。

今回のロスコ・チャペルとメニル・コレクションもまさにそうだった。今、その文化的な遺産にロロ・ピアーナが新たに関わり、これからの時間を支える側にも加わる。そうしてもう一度写真を見返すと、最初に見た風景に別の時間が重なって見えてくる。

From Harper's BAZAAR art no.6

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ