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彼女の父から届いた俺宛ての手紙→挨拶の帰りに口にした一言の、本当の意味

  • 2026.10.25
ハウコレ

いい意味で、と続けるはずだった言葉を、あの日はのみ込みました。便箋の最後にあったのは、俺がずっと口にせずにきた話への問いかけです。

郵便受けの中に、見慣れない筆跡の封筒が1通入っていました。差出人の欄には、彼女の父親の名前です。挨拶に行った日の帰り道、電車の中で自分が口にした言葉を思い出し、封を切るまでにしばらくかかりました。

答えに詰まった、彼女の家の食卓

彼女の実家へ挨拶に行ったのは、付き合って2年の節目でした。

食事の途中、お父さんが差し出したのは1冊のメモ帳です。

「ここに住所を書いてもらえるかな」

理由が分からず戸惑いながら、ボールペンを受け取りました。

食後、お父さんが言いました。

「じゃあ、今日よかったことを1人ずつ」

お母さんと彼女が当たり前のように答えていくなか、麦茶のグラスを持ったまま自分の番を待ちました。俺の実家の食卓では、テレビの音だけが流れていました。父に1日の出来事を聞かれた覚えは、一度もありません。

「ここに来られたことです」

それしか出てこなかった答えに、お父さんは小さくうなずいていました。

最後まで言えなかった続き

帰りの電車で、隣に座る彼女の膝には、お母さんが持たせてくれた紙袋がありました。

「お前の親、ちょっと変だよな」

自分の家とはあまりに違う、という意味で言いました。うらやましい、に近い気持ちでした。

「変って何?うちの親のこと、そんなふうに見てたの?」

「いや、そういう意味じゃ」

いい意味で、と続けるつもりでした。けれど、窓の外を向いた彼女の横顔を見て、続きをのみ込みました。うらやましい理由を話せば、自分の家の食卓の話になります。それを口にするのが怖かったのです。

乗り換えの駅で、彼女は「じゃあね」とだけ言って別のホームへ向かいました。階段に消えていく背中を、ベンチの横に立ったまま目で追っていました。

便箋に並んでいた、お父さんの言葉

彼女と気まずいまま1週間がたった頃、届いたのがこの手紙でした。便箋には、こう書かれていました。

「住所を伺ったのは、口で話すより手紙のほうが、言葉を選べるからです。よかったことを言い合うのは、無口だった私のために、私の父が始めた習慣です。周りからは、変わった家だとよく言われます。あなたの答えを、家内も喜んでいました。次は、あなたの家の話も聞かせてください。」

変わった家だと書いたのは、お父さん自身でした。俺が口にしたのと同じ言葉を、あの家族は受け止めながら続けてきたのです。

自分の部屋で返事を書こうとして、何度もペンを置きました。数日後、封筒を持って彼女の部屋へ。

「お父さんから、俺宛てに手紙が届いた」

「何て書いてあったの?」

「返事を書いてから、ちゃんと話す」

手紙の話をすれば、あの一言の理由も、自分の家のことも話すことになる。その前に、お父さんへの返事で言葉を探したかったのです。

そして...

彼女に便箋を借りて、机に向かいました。最後の問いかけへの答えが、どうしても書けません。書いては消し、便箋を替えるたびに、書き損じが机の端に重なっていきました。

ようやく封をした帰り際、玄関で靴をはきながら、ようやく口にできたのはこの言葉です。

「あの時の変は、悪い意味じゃなかった」

彼女は小さくうなずいて、俺を見送りました。

駅前のポストに返事を入れたあと、開いたのは彼女とのチャット画面。「今度、うちの家の話をしてもいい?」と打ち込んだまま、送信ボタンには触れずに改札を抜けました。

(20代男性・営業職)

本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。

(ハウコレ編集部)

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