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【2026年最新版】恋愛小説おすすめ40選。切ない純愛から苦しく歪んだ愛まで「ときめき」「切なさ」「読みやすさ」「余韻」「恋のしんどさ」で評価してみた

  • 2026.10.21

聖女の告解

誰かを好きになることは、必ずしも幸せなことではない。会えるだけでうれしい恋もあれば、好きになったことで人生が壊れてしまう恋もある。結婚すれば終わるものでもなく、別れれば消えるものでもない。恋愛小説が面白いのは、そんな「好き」という感情の厄介さを、安全な場所から何度でも体験できるところにあるのかもしれない。

本記事では、ダ・ヴィンチWebで書評・レビューなどが掲載された作品を中心に、2026年に読みたい恋愛小説40作を厳選した。王道の青春恋愛から、結婚、性愛、執着、喪失、恋愛と呼んでいいのかさえ分からない関係まで幅広く紹介する。

※評価は本記事独自のもの。「ときめき」「切なさ」「読みやすさ」「余韻」に加え、その恋がどれくらい読者の胸を苦しくさせるかを「恋のしんどさ」で表した。

▶聖女の告解

▶犯人はキミが好きなひと

▶恋愛裁判

▶恋とか愛とかやさしさなら

▶女王様の電話番

▶余命半年の僕が、死へ急ぐ君と出会った話

▶探偵小石は恋しない

▶キスに煙

▶ホテルローヤル

▶ナチュラルボーンチキン

▶告白撃

▶グリフィスの傷

▶今日のかたすみ

▶星を編む

▶マリエ

▶恋とそれとあと全部

▶汝、星のごとく

▶光のとこにいてね

▶夜に星を放つ

▶エゴイスト

▶愛じゃないならこれは何

▶赤と青とエスキース

▶スモールワールズ

▶オルタネート

▶私は女になりたい

▶ふたり、この夜と息をして

▶この恋は世界でいちばん美しい雨

▶傲慢と善良

▶さんかく

▶じっと手を見る

▶君は月夜に光り輝く

▶余命10年

▶桜のような僕の恋人

▶僕が愛したすべての君へ

▶君を愛したひとりの僕へ

▶君の膵臓をたべたい

▶ぼくは明日、昨日のきみとデートする

▶植物図鑑

▶小説 秒速5センチメートル

▶すべての雲は銀の…

『聖女の告解』(葉月香/ポプラ社)

聖女の告解 葉月香/ポプラ社
聖女の告解 葉月香/ポプラ社

死刑囚と向き合うシスター。罪を犯し、死を目前にした男と接するうち、彼女の中に「救済」という言葉だけでは片づけられない感情が芽生えていく――。信仰によって人を救おうとする者と、社会から救われる資格を失ったかのように扱われる者。その距離が近づくほど、「この感情は慈愛なのか、それとも恋なのか」という問いが重くなるラブ・サスペンスである。

甘い恋愛物語とは正反対だ。相手を理解すること、赦すこと、愛することはどこまで同じなのか。本作は恋愛と倫理を危険なほど近づける。好きになったから救えるとは限らず、好きになったことで破滅へ向かう可能性すらある。恋愛小説に幸福だけを求めない人、恋と倫理が衝突する物語を読みたい人におすすめしたい。

評価:ときめき★★★☆☆/切なさ★★★★★/読みやすさ★★★★☆/余韻★★★★★/恋のしんどさ★★★★★

『犯人はキミが好きなひと』(阿津川辰海/ポプラ社)

犯人はキミが好きなひと 阿津川辰海/ポプラ社
犯人はキミが好きなひと 阿津川辰海/ポプラ社

好きになる女性が、なぜかことごとく事件の犯人だった――。そんな悲惨すぎる恋愛遍歴を持つ男と、彼をよく知る幼なじみの女性を中心に展開する、ラブコメと本格ミステリを掛け合わせた異色作である。恋をすれば事件が起こる。しかし、それでも人は誰かを好きになってしまう。

面白いのは、恋愛小説では「相手を信じること」が美徳になりがちなところを、本作では「本当にこの人を信じていいのか?」というミステリの疑念が邪魔してくる点だ。好きだから疑いたくない。でも疑わなければ事件は解けない。その矛盾が、ラブコメとしても推理小説としても効いている。甘い恋愛小説だけでは物足りない人、謎解きも一緒に楽しみたい人には絶好の一冊である。

評価:ときめき★★★★★/切なさ★★★☆☆/読みやすさ★★★★★/余韻★★★★☆/恋のしんどさ★★★★☆

『恋愛裁判』(深田晃司/文藝春秋)

恋愛裁判 深田晃司/文藝春秋
恋愛裁判 深田晃司/文藝春秋

人気アイドルグループのセンターとして活動する女性が、事務所の定める「恋愛禁止」ルールを破って恋をする。そして、その行為をめぐって彼女は裁判の場に立たされる――。映画『恋愛裁判』をノベライズした作品であり、「アイドルは恋をしてはいけないのか」という問題を真正面から描く。

普通なら恋人同士だけの問題であるはずの恋愛が、仕事、契約、ファン、世間の視線によって「社会の問題」に変わっていくのが本作の苦しさだ。誰かを好きになるという極めて個人的な感情を、他人が禁止することはできるのか。夢を守るためなら恋を諦めるべきなのか。恋愛と職業倫理、個人の自由がぶつかるため、単なる芸能界ものに終わらない。推し文化の時代だからこそ読みたい、2026年らしい恋愛小説である。

評価:ときめき★★★★☆/切なさ★★★★☆/読みやすさ★★★★★/余韻★★★★★/恋のしんどさ★★★★★

『恋とか愛とかやさしさなら』(一穂ミチ/小学館)

恋とか愛とかやさしさなら 一穂ミチ/小学館
恋とか愛とかやさしさなら 一穂ミチ/小学館

大切な恋人と、このまま穏やかに人生を歩んでいけると思っていた。ところが、相手が起こしたある行為をきっかけに、これまで信じていた恋人像が崩れ始める。好きな人が「自分には絶対にしない」と思っていたことを、他人にはしていたと知ったとき、その人を以前と同じように愛することはできるのか。

本作が鋭く突くのは、「自分にやさしい人=やさしい人なのか」という問題である。恋愛中は、つい自分に向けられた態度だけで相手を判断してしまう。しかし、人間性は自分以外への振る舞いにも表れるはずだ。好きだからこそ見逃したい、でも見逃した瞬間、自分まで何かを裏切る気がする。恋愛の甘さより「信じるとは何か」を問う作品であり、大人の恋愛小説を読みたい人ほど刺さるだろう。

評価:ときめき★★★☆☆/切なさ★★★★★/読みやすさ★★★★☆/余韻★★★★★/恋のしんどさ★★★★★

『女王様の電話番』(渡辺優/集英社)

女王様の電話番 渡辺優/集英社
女王様の電話番 渡辺優/集英社

新卒で入社した不動産会社を辞めた20代の志川が新たに働き始めたのは、SMの女王様を客のもとへ派遣する店「ファムファタル」の電話番。性的なサービスとは距離のある仕事を選んだはずなのに、そこには性欲や恋愛、フェティシズムについて堂々と語る人々が集まっている。そんな環境に身を置くうち、志川は「自分はアセクシャルなのかもしれない」と、自らの性や恋愛感情について考え始める。

恋愛小説といえば「誰を好きになるか」を描くものが多いが、本作が問うのは、そのさらに手前にある「そもそも人は恋愛や性欲を持っていて当然なのか」ということ。誰かを好きにならない人生も、恋愛を中心に置かない幸福もある。“恋をすることが普通”という前提そのものを揺さぶってくれる一作だ。

評価:ときめき★★☆☆☆/切なさ★★★☆☆/読みやすさ★★★★★/余韻★★★★★/恋のしんどさ★★★★☆

『余命半年の僕が、死へ急ぐ君と出会った話』(森田碧/ポプラ社)

余命半年の僕が、死へ急ぐ君と出会った話 森田碧/ポプラ社
余命半年の僕が、死へ急ぐ君と出会った話 森田碧/ポプラ社

脳腫瘍を患い、自分に残された時間が半年ほどしかない高校生・佑亮。そんな彼が屋上で出会ったのは、いじめに苦しみ「死にたい」と願う少女・陽菜だった。生きたいのに死ななければならない少年と、生きられるのに死を望んでいる少女。正反対の二人は、ある約束をきっかけに一緒に過ごすようになり、やがて奇術部に入り、文化祭を目指すことになる。

シリーズを貫く“期限付きの恋”の切なさはそのままに、本作では「死にたい人へ、生きろと言うだけで本当に救えるのか」という難しい問題にも向き合う。相手を救いたいという思いが、いつしか自分自身の生きる理由にも変わっていく過程が胸を打つ。余命ものの王道が好きな人はもちろん、痛みの中に小さな希望が灯る青春恋愛を読みたい人におすすめだ。

評価:ときめき★★★★☆/切なさ★★★★★/読みやすさ★★★★★/余韻★★★★★/恋のしんどさ★★★★★

『探偵小石は恋しない』(森バジル/小学館)

探偵小石は恋しない 森バジル/小学館
探偵小石は恋しない 森バジル/小学館

私立探偵・小石は、本格ミステリを愛し、いつか難事件を華麗に解決することを夢見ている。ところが現実に舞い込む依頼のほとんどは、恋人や配偶者の浮気調査。しかも小石は、恋愛沙汰を調査することに異様なほど長けている。彼を手伝う蓮杖とともにさまざまな男女の秘密を覗いていくうち、一見独立していた恋愛事件の裏から、大きな物語が姿を現していく。

タイトル通り、小石自身は「恋をしない」。だからこそ彼の視線を通すと、人が恋によって嘘をつき、執着し、ときには自分でも理解できない行動を取る奇妙さが浮かび上がる。本格ミステリとして仕掛けを楽しみながら、いくつもの“恋の形”まで味わえる異色の一冊。甘い恋愛小説は苦手という人にもすすめやすい。

評価:ときめき★★★☆☆/切なさ★★★★☆/読みやすさ★★★★★/余韻★★★★★/恋のしんどさ★★★★☆

『キスに煙』(織守きょうや/文藝春秋)

キスに煙 織守きょうや/文藝春秋
キスに煙 織守きょうや/文藝春秋

かつてフィギュアスケートの世界で競い合った塩澤と志藤。塩澤は競技を引退し、志藤はトップスケーターとして活躍を続けている。互いに自分にはない才能を持つ相手を意識し続けてきた二人だが、塩澤が志藤へ抱いている感情は、単なるライバル心ではなかった。そんな中、二人がともに複雑な思いを抱いていたコーチが自宅のバルコニーから転落死する。

「もしかして、あいつが殺したのではないか」

隠してきた恋心に疑念が混ざった瞬間、好きな相手を信じたい気持ちと、真実を知りたい気持ちが激しく衝突する。相手を愛しているなら、殺人者だったとしても愛せるのか。恋愛とミステリを同じくらい濃密に絡ませた、危ういラブサスペンスである。

評価:ときめき★★★★☆/切なさ★★★★☆/読みやすさ★★★★★/余韻★★★★★/恋のしんどさ★★★★★

『ホテルローヤル』(桜木紫乃/集英社)

ホテルローヤル 桜木紫乃/集英社
ホテルローヤル 桜木紫乃/集英社

北海道・釧路湿原を望む場所に建つラブホテル「ホテルローヤル」。そこを訪れる男女、働く従業員、経営者とその家族――。一軒のラブホテルを中心に、それぞれ異なる人生を送る人々の「性」と「生」を描いた連作短編集である。そこに登場するのは、幸福な恋人たちばかりではない。夫婦のすれ違い、満たされない欲望、言葉にできない孤独。それでも人は誰かの身体を求め、ほんのひとときでも他人とつながろうとする。

恋愛小説というと“好き”という感情の美しさを描くものを想像しがちだが、本作では恋愛の向こう側にある生活や性愛まで容赦なく描かれる。大人になったからこそ分かる寂しさを味わいたい人におすすめしたい。2025年には集英社文庫の新カバー版が登場し、ダ・ヴィンチWebでも改めて書評が掲載された。

評価:ときめき★★☆☆☆/切なさ★★★★☆/読みやすさ★★★★☆/余韻★★★★★/恋のしんどさ★★★★★

『ナチュラルボーンチキン』(金原ひとみ/河出書房新社)

ナチュラルボーンチキン 金原ひとみ/河出書房新社
ナチュラルボーンチキン 金原ひとみ/河出書房新社

45歳の女性は、職場と自宅を往復する代わり映えのない毎日を送っている。一方、彼女が出会った20代の女性は、在宅勤務中に全裸で酒を飲むような、常識や他人の評価に縛られない生き方をしていた。年齢も性格も価値観も正反対。そんな二人の出会いが、凝り固まっていた主人公の日常を少しずつ壊し、新しい人間関係や欲望へ目を向けさせていく。

王道の男女恋愛を描いた作品ではない。それでも、誰かとの出会いによって人生が突然色づき、「この人と出会う前の自分には戻れない」と感じる感覚は、恋愛ととてもよく似ている。本作が描くのは、恋愛だけを唯一の特別な関係としない“出会いの至福”だ。恋人ができて人生が完成する、という恋愛小説の定型から少し離れてみたい人にすすめたい。

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評価:ときめき★★☆☆☆/切なさ★★★☆☆/読みやすさ★★★★★/余韻★★★★☆/恋のしんどさ★★★☆☆

『告白撃』(住野よる/KADOKAWA)

告白撃 住野よる/KADOKAWA
告白撃 住野よる/KADOKAWA

結婚を目前に控えた女性が企てたのは、親友の男性に自分への恋心を「告白させる」ことだった。彼が長年自分を好きでいることを知りながら、このまま何も言わせず結婚してしまえば、友情そのものが歪んでしまう。ならば一度告白させ、きっぱり振って、きれいな友情へ戻ればいい――。

ところが、人の感情はそんなに整理整頓できるものではない。本作が面白いのは、「告白=恋愛の始まり」という王道をひっくり返し、「恋を終わらせるための告白」から物語を始める点だ。友情を守りたいという思いさえ、ときには相手の気持ちを勝手に決めつける暴力になりうる。男女の友情は成立するのか、好きな人の幸せを願うとはどういうことなのか。恋愛の出口から考えさせる、少し変わった青春恋愛小説である。

評価:ときめき★★★★☆/切なさ★★★★★/読みやすさ★★★★★/余韻★★★★☆/恋のしんどさ★★★★☆

『グリフィスの傷』(千早茜/集英社)

グリフィスの傷 千早茜/集英社
グリフィスの傷 千早茜/集英社

傷痕、身体、性愛――。人間の身体に残る「傷」をモチーフに、複数の男女の関係を描いた短編集である。かつて誰かに傷つけられた記憶、愛した人との関係が身体に残した痕跡、自分自身の身体をどう受け入れるのか。恋愛を、心だけではなく肉体の側から捉えていく。

恋愛小説では、ともすると「心が通じ合えばいい」と描かれがちだ。しかし実際の恋愛には身体があり、年齢があり、欲望があり、触れられたくない場所もある。本作は、その生々しい部分を避けない。だからこそロマンチックというより切実である。傷は治っても消えるとは限らない。それでも誰かに触れ、誰かを求めることはできるのか。きれいな純愛より、身体を持った大人同士の恋愛を読みたい人におすすめだ。

評価:ときめき★★★☆☆/切なさ★★★★☆/読みやすさ★★★★☆/余韻★★★★★/恋のしんどさ★★★★☆

『今日のかたすみ』(川上佐都/ポプラ社)

今日のかたすみ 川上佐都/ポプラ社
今日のかたすみ 川上佐都/ポプラ社

ひとりの時間を大切にしたい男性と、できるだけ一緒にいたい女性。愛し合って同棲を始めたはずなのに、生活を共有した途端、それまで見えなかった小さなズレが浮かび上がる――。本作は、同棲、夫婦、家族など、「誰かと生きる」ことを描いた5つの物語を収めた作品である。ダ・ヴィンチWebでも、同棲生活の行方を軸に「誰かと生きる」難しさを描く作品として紹介している。

恋愛は付き合うまでより、付き合ったあとが長い。好きだから一緒にいたいのに、近づきすぎると苦しくなる。その絶妙な距離感を、本作は日々の生活の中からすくい取る。劇的な事件ではなく、食事、部屋、会話といった小さな場面に「恋人と暮らすとは何か」が詰まっている。結婚や同棲を経験した人ほど「ああ、分かる」と胸を突かれるだろう。

評価:ときめき★★★☆☆/切なさ★★★★☆/読みやすさ★★★★★/余韻★★★★★/恋のしんどさ★★★★☆

『星を編む』(凪良ゆう/講談社)

星を編む 凪良ゆう/講談社
星を編む 凪良ゆう/講談社

『汝、星のごとく』で描かれた人々の、その後とその周囲を描く物語である。愛する人を失ったあとに残された者は、どのように人生を続けていくのか。過去の恋を抱えたままでも、新しい日常を生きることはできるのか。恋愛の「結ばれる瞬間」より、その後に続く長い時間へ目を向ける。

誰かを愛した記憶は、別れや死によってゼロになるわけではない。本作では、愛した人の不在さえ、その後の人生を形作る一部になっていく。だからこそ、単純な失恋小説とも喪失小説とも言い切れない。人を愛することが人生にどんな痕跡を残すのかを描いている。『汝、星のごとく』を読んだ人はもちろん、「恋が終わったあとにも人生は続く」と思える物語を探している人におすすめしたい。

評価:ときめき★★★☆☆/切なさ★★★★★/読みやすさ★★★★☆/余韻★★★★★/恋のしんどさ★★★★★

『マリエ』(千早茜/文藝春秋)

マリエ 千早茜/文藝春秋
マリエ 千早茜/文藝春秋

40歳を目前に夫と離婚したまりえ。結婚生活を終えた彼女は、仕事を続けながら新たな人間関係や恋愛と向き合っていく。結婚相談所、周囲の夫婦、独身者。それぞれ異なる人生を眺めるうち、彼女は「結婚とは何か」「自分は本当にもう一度結婚したいのか」を考えるようになる。

本作には、若い頃の恋愛小説にありがちな「好きだから結婚したい」という一直線の価値観がない。好きでも一緒に暮らしたくない人もいれば、恋愛感情とは違う安心を結婚に求める人もいる。離婚経験を持つ主人公だからこそ、「結婚すれば幸せ」という前提そのものを疑えるのだ。恋愛と結婚を同じものだと思えなくなってきた人、大人になってからのパートナーシップを考えたい人におすすめしたい。ダ・ヴィンチWebでも、離婚後にさまざまな結婚観と向き合う作品として紹介している。

評価:ときめき★★★☆☆/切なさ★★★★☆/読みやすさ★★★★☆/余韻★★★★★/恋のしんどさ★★★★☆

『恋とそれとあと全部』(住野よる/文藝春秋)

恋とそれとあと全部 住野よる/文藝春秋
恋とそれとあと全部 住野よる/文藝春秋

高校生のめえめえが片想いしているのは、同級生のサブレ。ある夏、サブレの親族に不幸があり、めえめえは彼女と一緒に遠方へ向かうことになる。好きな人との二人旅。それだけなら胸が高鳴る青春恋愛だが、旅の目的は葬儀である。この「不謹慎さ」が物語に独特の緊張感を与える。ダ・ヴィンチWebでも、片想い相手との“不謹慎”で特別な旅を描く青春恋愛小説として紹介している。

好きな人と一緒にいられるのはうれしい。でも、うれしがってはいけない状況でもある。そんな矛盾の中で、めえめえはサブレという人間をもっと知ろうとする。恋愛とは、相手を理想化することではなく、自分には理解できない部分ごと受け止めようとすることなのかもしれない。甘酸っぱいだけではない青春恋愛を読みたい人に。

評価:ときめき★★★★★/切なさ★★★★☆/読みやすさ★★★★★/余韻★★★★☆/恋のしんどさ★★★☆☆

『汝、星のごとく』(凪良ゆう/講談社)

汝、星のごとく 凪良ゆう/講談社
汝、星のごとく 凪良ゆう/講談社

瀬戸内の島で暮らす高校生・暁海と櫂。ともに家庭に問題を抱え、逃げ場の少ない島で出会った二人は次第に惹かれ合う。しかし進学、仕事、家族、都会と島――人生の選択が増えるにつれ、二人の距離も少しずつ変わっていく。好きでいることと、一緒に生きることが同じではないと気づかされる恋愛小説である。

最大の魅力は、恋愛を「人生のすべて」にしないところだ。相手を愛していても、自分の人生まで犠牲にすればいいわけではない。一方で、自分を優先することで失う愛もある。どちらが正解とも言えない。その苦しさが長い時間軸で描かれる。若い二人の恋から始まるが、読むほどに「自分の人生を誰のために生きるのか」という物語へ広がっていく。人生ごと揺さぶられる恋愛小説を読みたい人におすすめだ。

評価:ときめき★★★★☆/切なさ★★★★★/読みやすさ★★★★☆/余韻★★★★★/恋のしんどさ★★★★★

『光のとこにいてね』(一穂ミチ/文藝春秋)

光のとこにいてね 一穂ミチ/文藝春秋
光のとこにいてね 一穂ミチ/文藝春秋

小学2年生の結珠と果遠が出会ったのは、団地の片隅だった。育つ環境も家庭もまるで違う二人は、なぜか強く惹かれ合う。しかし人生は二人を何度も引き離し、再会させる。幼少期から大人になるまで、22年間にわたって交錯し続ける二人の関係を描いた物語である。

友情なのか、恋愛なのか、家族のようなものなのか。そのどれか一つに当てはめようとすると、二人の関係から何かがこぼれ落ちる。だからこそ、「恋愛小説」の枠そのものを考えさせられる。好きだから結ばれたい、という単純な欲望以上に「この人に光のある場所にいてほしい」という願いが切実だ。自分の人生の中に、どうしても忘れられない誰かがいる人なら、二人の時間が痛いほど響くだろう。

評価:ときめき★★★★☆/切なさ★★★★★/読みやすさ★★★★☆/余韻★★★★★/恋のしんどさ★★★★★

『夜に星を放つ』(窪美澄/文藝春秋)

夜に星を放つ 窪美澄/文藝春秋
夜に星を放つ 窪美澄/文藝春秋

恋人との別れ、家族の喪失、誰かを好きになることへの戸惑い――。さまざまな形で孤独を抱えた人々を描く短編集である。恋愛だけを扱う作品ではないが、誰かとつながりたいという気持ちが、各編を静かに結んでいる。

作者・窪美澄氏が描く恋愛は、傷ついた人を魔法のように救ってはくれない。恋人ができても過去は消えず、好きな人がいても孤独は残る。それでも、誰かと食事をしたり、言葉を交わしたり、同じ夜空を見上げたりすることで、人は少しだけ生きやすくなる。その小さな変化が美しい。劇的などんでん返しや甘い台詞より、日常の中にあるかすかな救いを読みたい人に向く。恋愛に疲れているときにも手に取りやすい一冊だ。

評価:ときめき★★★☆☆/切なさ★★★★★/読みやすさ★★★★★/余韻★★★★★/恋のしんどさ★★★★☆

『エゴイスト』(高山真/小学館)

エゴイスト 高山真/小学館
エゴイスト 高山真/小学館

ファッション誌の編集者として働く浩輔は、パーソナルトレーナーの龍太と出会い、恋に落ちる。二人は関係を深めていくが、愛する相手を支えたいという浩輔の思いは、金銭的な援助という形でも表れるようになる。愛することと与えること、その境界が次第に揺らいでいく。

タイトルの「エゴイスト」が突きつけるのは、誰かのためにしていることが、本当に相手のためなのかという問いである。愛しているから助けたい。しかし助けることで、自分が必要とされたいだけなのではないか。愛は純粋であろうとするほど、自分の欲望を隠してしまうことがある。本作は男性同士の恋愛を描きながら、愛するという行為に必ず混ざるエゴを容赦なく見つめる。美しく、そして非常に痛い恋愛小説である。

評価:ときめき★★★★☆/切なさ★★★★★/読みやすさ★★★★☆/余韻★★★★★/恋のしんどさ★★★★★

『愛じゃないならこれは何』(斜線堂有紀/集英社)

愛じゃないならこれは何 斜線堂有紀/集英社
愛じゃないならこれは何 斜線堂有紀/集英社

推し、恋人、元恋人、憧れの相手――。「好き」という感情に人生を振り回される人々を描いた恋愛短編集である。しかし登場する感情は、どれも簡単に「純愛」と呼べるものではない。嫉妬、執着、承認欲求、依存。好きだからこそ生まれてしまう醜い感情まで、遠慮なく物語にする。

本作を読むと、「愛」と呼べば美しく聞こえる感情が、角度を変えればかなり恐ろしいものだと分かる。相手の幸せを願うのが愛なら、相手を独占したい気持ちは何なのか。推しに認知されたい欲望と恋愛感情はどこで分かれるのか。恋愛小説とホラーの境界を歩くような読み味があり、甘い作品が苦手な人にもおすすめできる。「こんなの愛じゃない」と思いながら、では何なのかと聞かれると答えられなくなる一冊だ。

評価:ときめき★★★☆☆/切なさ★★★★☆/読みやすさ★★★★★/余韻★★★★★/恋のしんどさ★★★★★

『赤と青とエスキース』(青山美智子/PHP研究所)

赤と青とエスキース 青山美智子/PHP研究所
赤と青とエスキース 青山美智子/PHP研究所

オーストラリアに留学中の女性と、日本人男性。二人は恋に落ち、ある画家に二人の肖像を描いてもらう。それから年月が流れ、一枚の絵「エスキース」はさまざまな人の手を渡っていく。物語は複数の男女へ移り、一見別々な恋愛が、一枚の絵を通してつながっていく。

とにかく構成が美しい作品である。恋愛は終われば消えるもののように思えるが、誰かと過ごした時間は、その後の人生に見えない形で残っていく。一枚の絵が、人から人へ渡るように。読み終えたあと、もう一度最初からページをめくりたくなるのは、仕掛けを確認したいからだけではない。人を好きになった時間そのものが愛おしく感じられるからだ。苦しい恋より、温かな余韻に浸りたい人へすすめたい。

評価:ときめき★★★★★/切なさ★★★★☆/読みやすさ★★★★★/余韻★★★★★/恋のしんどさ★★☆☆☆

『スモールワールズ』(一穂ミチ/講談社)

スモールワールズ 一穂ミチ/講談社
スモールワールズ 一穂ミチ/講談社

夫婦、姉弟、親子、恋人――。一見すれば小さく閉じた人間関係の中で、それぞれの秘密や感情が思わぬ方向へ動き出す短編集である。恋愛だけを描く作品ではないが、「この人を愛している」と思う気持ちが必ずしも相手を幸せにするとは限らないことを、さまざまな角度から見せる。

誰かを好きになると、その人のことを理解したつもりになる。しかし、どれほど近い相手にも、自分の知らない世界がある。本作の「スモールワールズ」という題名は、そんな一人ひとりの小さな世界を思わせる。恋人や家族だから分かり合える、という幻想を壊しながら、それでも他人とつながろうとする人間を描くところに温かさがある。単純な恋愛小説より、人間関係全体の中で愛を考えたい人におすすめだ。

評価:ときめき★★★☆☆/切なさ★★★★☆/読みやすさ★★★★★/余韻★★★★★/恋のしんどさ★★★★☆

『オルタネート』(加藤シゲアキ/新潮社)

オルタネート 加藤シゲアキ/新潮社
オルタネート 加藤シゲアキ/新潮社

高校生限定のマッチングアプリ「オルタネート」が当たり前になった社会。恋人探しも人間関係も、相性をデータで判断する高校生たちの青春を描いた群像劇である。ダ・ヴィンチWebでも、マッチングアプリを軸にした青春小説として紹介した作品だ。

「運命の相手」という言葉はロマンチックだが、もしアプリが本当に高精度で相性のいい相手を教えてくれるなら、人はそれを運命と呼ぶのだろうか。自分で選んだ恋と、アルゴリズムに薦められた恋の違いは何なのか。本作は現代的な設定を使いながら、結局のところ「自分は誰を選びたいのか」という普遍的な問題へ戻ってくる。SNSやアプリが当たり前の世代にはもちろん、大人が読んでも今の恋愛観を考えるきっかけになる。

評価:ときめき★★★★☆/切なさ★★★☆☆/読みやすさ★★★★★/余韻★★★★☆/恋のしんどさ★★★☆☆

『私は女になりたい』(窪美澄/講談社)

私は女になりたい 窪美澄/講談社
私は女になりたい 窪美澄/講談社

美容皮膚科の院長として働く50歳目前の女性。仕事も家庭もある彼女が惹かれたのは、14歳年下の男性だった。年齢、立場、家族、世間の目。若い男女なら問題にならなかったかもしれないことが、彼女の恋には次々と重くのしかかる。ダ・ヴィンチWebでも、アラフィフ女性の「道ならぬ恋」を描く作品として紹介している。

年齢を重ねると、人は「恋愛する存在」ではなくなるのか。妻、母、医師といった役割を外したとき、自分はまだ一人の女性なのか。本作はその問いをかなり生々しく描く。若返りたいのではない。ただ、もう一度「誰かに求められる自分」を感じたい。そんな欲望をきれいごとで包まないところが強い。若者の恋愛とは違う、大人だからこその痛みを読みたい人に。

評価:ときめき★★★★☆/切なさ★★★★☆/読みやすさ★★★★☆/余韻★★★★★/恋のしんどさ★★★★★

『ふたり、この夜と息をして』(北原一/ポプラ社)

ふたり、この夜と息をして 北原一/ポプラ社
ふたり、この夜と息をして 北原一/ポプラ社

高校生の男女には、それぞれ人に言えない秘密がある。外からは普通に見えても、自分自身を肯定できず、他人に本当の姿を見せることに怯えている。そんな二人が出会い、少しずつ相手にだけ秘密を明かせるようになっていく青春小説である。ダ・ヴィンチWebでも「互いの秘密を共有する男女2人の青春ストーリー」として紹介した。

好きになってもらうために、人は自分を良く見せようとする。しかし恋愛で本当に怖いのは、きれいに整えた自分ではなく、隠してきた部分を見せたときに相手がどう反応するかだ。本作は、その恐怖と救いを丁寧に描く。相手に愛されることで自信を得るというより、「この人の前なら少しだけ自分を許せる」と思える関係が温かい。自己肯定感に悩んだ経験のある人にすすめたい。

評価:ときめき★★★★☆/切なさ★★★★☆/読みやすさ★★★★★/余韻★★★★☆/恋のしんどさ★★★★☆

『この恋は世界でいちばん美しい雨』(宇山佳佑/集英社)

この恋は世界でいちばん美しい雨 宇山佳佑/集英社
この恋は世界でいちばん美しい雨 宇山佳佑/集英社

愛し合う男女を突然の事故が襲う。二人は奇跡的に命を取り戻すが、そこには残酷な条件があった。二人に与えられた寿命は共有され、どちらかに幸せな出来事が起これば、その分だけもう一方の寿命が削られてしまうのだ。

好きな人の幸せを願えば、その人の命が縮む。自分が幸せになれば、愛する人が死へ近づく。普通の恋愛なら美しいはずの「相手の幸せを願う」という感情が、本作ではそのまま残酷な選択になる。設定はファンタジーだが、描いているのは恋愛に潜む自己犠牲の問題である。自分が不幸になってでも相手を生かしたいと思うのは愛なのか。それとも独りよがりなのか。泣ける恋愛小説を探しているなら、かなり強力な一冊である。

評価:ときめき★★★★☆/切なさ★★★★★/読みやすさ★★★★★/余韻★★★★★/恋のしんどさ★★★★★

『傲慢と善良』(辻村深月/朝日新聞出版)

 傲慢と善良 辻村深月/朝日新聞出版
傲慢と善良 辻村深月/朝日新聞出版

婚活を経て婚約した架と真実。しかし結婚を目前に、真実が突然姿を消す。彼女はどこへ行ったのか。架は真実の過去をたどるうち、自分が知らなかった彼女の姿、そして自分自身が恋愛や結婚相手をどう評価してきたのかに向き合うことになる。

「いい人だけれど、何か違う」。婚活で相手を選ぶとき、人は無意識に点数をつけてしまう。年齢、年収、見た目、会話、家族。自分が“選ぶ側”だと思った瞬間に生まれる傲慢さと、誰かに選ばれるために「善良」であろうとする苦しさ。本作は恋愛のロマンチックな部分より、結婚相手を選ぶという行為の残酷さを描く。恋愛経験が増えた大人ほど、自分の中にも似た感覚があることに気づいて痛くなるだろう。

評価:ときめき★★★☆☆/切なさ★★★★☆/読みやすさ★★★★★/余韻★★★★★/恋のしんどさ★★★★★

『さんかく』(千早茜/祥伝社)

さんかく 千早茜/祥伝社
さんかく 千早茜/祥伝社

恋人と暮らす男、その男と食事をともにする別の女性。三人の関係は、典型的な三角関係のようでいて、恋愛感情だけでは説明できない。料理を作り、一緒に食べるという日常を通して、それぞれの距離が少しずつ変わっていく。

本作では、「誰を好きか」以上に「誰と食べたいか」が重要になる。身体を重ねることより、同じ食卓を囲むことの方が親密に見える瞬間さえある。恋人だから一番近いとは限らず、一番話せる相手と恋愛関係になるとも限らない。その曖昧な関係がタイトルの「さんかく」に凝縮されている。恋人、友人、家族といった名前をつけなければ関係を保てないのか。食べ物の描写を楽しみながら、人との距離について考えたい人におすすめしたい。

評価:ときめき★★★☆☆/切なさ★★★★☆/読みやすさ★★★★☆/余韻★★★★★/恋のしんどさ★★★★☆

『じっと手を見る』(窪美澄/幻冬舎)

じっと手を見る 窪美澄/幻冬舎
じっと手を見る 窪美澄/幻冬舎

富士山の麓で介護職として働く若者たち。身体に触れ、老いや死を日々間近で見る仕事をしながら、彼ら自身も恋愛、性愛、孤独を抱えて生きている。誰かを求めても満たされず、別の誰かへ手を伸ばしてしまう。複数の男女の視点から描かれる連作長編である。

若い恋愛小説のように、「この人こそ運命の相手だ」とは簡単に言えない。人は寂しいから抱き合うこともあれば、好きなのに傷つけることもある。本作では、肉体を持った人間同士が接触することの温かさと残酷さが、介護という仕事とも重なって描かれる。「愛している」という言葉だけでは救われない人たちの姿が切実だ。きれいな恋愛より、生きることと性愛が地続きになった物語を読みたい人に向く。

評価:ときめき★★★☆☆/切なさ★★★★★/読みやすさ★★★★☆/余韻★★★★★/恋のしんどさ★★★★★

『君は月夜に光り輝く』(佐野徹夜/KADOKAWA)

君は月夜に光り輝く 佐野徹夜/KADOKAWA
君は月夜に光り輝く 佐野徹夜/KADOKAWA

高校生の卓也は、病院に長期入院している同級生の少女・まみずと出会う。彼女は「発光病」と呼ばれる不治の病を患い、余命も長くない。病院から自由に出られない彼女の代わりに、卓也は「死ぬまでにやりたいこと」を一つずつ代行するようになる。

最初は頼まれごとだった二人の関係が、やがて恋へ変わっていく。しかし、好きになればなるほど別れの日も近づいてくる。余命ものの王道ともいえる設定だが、「代行」という仕掛けによって、彼女が生きられない人生を彼が代わりに体験する構造が切ない。好きな人と未来を想像することが幸せであると同時に苦痛になる。青春恋愛らしい透明感と、避けられない喪失を一緒に味わいたい人におすすめだ。

評価:ときめき★★★★★/切なさ★★★★★/読みやすさ★★★★★/余韻★★★★☆/恋のしんどさ★★★★★

『余命10年』(小坂流加/文芸社)

余命10年 小坂流加/文芸社
余命10年 小坂流加/文芸社

20歳の茉莉は、難病によって余命10年を宣告される。限られた時間の中で、彼女は「もう恋はしない」と心に決める。誰かを好きになれば、必ずその人を残して死ななければならないからだ。それでも再会した同級生との関係は、少しずつ彼女の決意を揺らしていく。

本作の苦しさは、10年という時間が絶妙に長いことである。明日死ぬわけではない。働くことも、友人と遊ぶことも、恋をすることもできる。だからこそ、未来を期待するたびに「自分にはその先がない」という現実へ戻される。恋愛によって生きたいと思えるようになるほど、死ぬことが怖くなる。その逆説が胸に刺さる。思い切り泣きたいとき、限られた時間の中で人を愛する意味を考えたいときに手に取りたい。

評価:ときめき★★★★☆/切なさ★★★★★/読みやすさ★★★★★/余韻★★★★★/恋のしんどさ★★★★★

『桜のような僕の恋人』(宇山佳佑/集英社)

桜のような僕の恋人 宇山佳佑/集英社
桜のような僕の恋人 宇山佳佑/集英社

美容師を目指す美咲と、カメラマンを目指す晴人。若い二人は出会い、恋に落ちる。しかし、美咲は人よりも早く老いてしまう難病を発症する。未来へ向かって夢を追っていたはずの二人に、残酷な時間差が生まれていく。

恋愛小説で「ずっと一緒にいたい」という言葉はありふれている。しかし本作では、その“ずっと”が急激に失われていく。相手の前で美しくいたい、若い姿を覚えていてほしいという美咲の気持ちと、変化していく彼女ごと愛したいという晴人の思いがすれ違う。桜が美しいのは、すぐ散るからなのか。タイトル通り、美しさと儚さが重なる物語である。切ない恋愛ものを一気読みしたい人にぴったりだ。

評価:ときめき★★★★★/切なさ★★★★★/読みやすさ★★★★★/余韻★★★★☆/恋のしんどさ★★★★★

『僕が愛したすべての君へ』(乙野四方字/早川書房)

僕が愛したすべての君へ 乙野四方字/早川書房
僕が愛したすべての君へ 乙野四方字/早川書房

並行世界の存在が当たり前に認識されている世界。人生の選択によって別の世界へ移動する可能性がある中、一人の少年が恋をし、さまざまな「もしも」の人生と向き合っていく。対になる『君を愛したひとりの僕へ』とあわせて読むことで、物語の意味が変わるSF恋愛小説である。

恋愛では「あのとき別の選択をしていたら」と考えることがある。本作は、その想像を本当に別世界として存在させる。世界が違えば、同じ人と出会わないかもしれない。別の人を好きになるかもしれない。それでも「運命の相手」と呼べる人は存在するのか。読む順番によって印象まで変わる仕掛けも面白い。恋愛とSF、両方を楽しみたい人におすすめだ。

評価:ときめき★★★★☆/切なさ★★★★☆/読みやすさ★★★★☆/余韻★★★★★/恋のしんどさ★★★★☆

『君を愛したひとりの僕へ』(乙野四方字/早川書房)

君を愛したひとりの僕へ 乙野四方字/早川書房
君を愛したひとりの僕へ 乙野四方字/早川書房

並行世界が存在する社会で、暦は研究所で出会った栞と惹かれ合う。しかし二人の関係には、世界そのものをまたぐ大きな障害が立ちはだかる。愛する人を救うため、暦は無数の世界の可能性に向き合うことになる。

対となる『僕が愛したすべての君へ』が「さまざまな可能性の中にある恋」を描くとすれば、こちらは「たった一人を選び続ける恋」の色が強い。無限に世界があるなら、別の誰かと幸せになる可能性も無限にある。それでも一人の相手に固執することは、究極の純愛なのか、それとも執着なのか。SF設定があるからこそ、「運命」という言葉を真正面から考えられる。2冊を読み比べることで切なさが何倍にも増す作品である。

評価:ときめき★★★★☆/切なさ★★★★★/読みやすさ★★★★☆/余韻★★★★★/恋のしんどさ★★★★★

『君の膵臓をたべたい』(住野よる/双葉社)

君の膵臓をたべたい 住野よる/双葉社
君の膵臓をたべたい 住野よる/双葉社

クラスで目立たない「僕」は、病院で一冊の文庫本を拾う。それは、明るく人気者の同級生・山内桜良が綴った「共病文庫」だった。そこには彼女が膵臓の病気を患い、余命が長くないことが記されている。偶然秘密を知った僕は、彼女と残された時間を過ごすようになる。

正反対の二人が近づいていく青春恋愛の魅力はもちろんだが、本作の核は「人と関わることで自分が変わる」ということにある。桜良は死を前にしているからこそ生を欲し、僕は彼女と出会うことで他人を必要とすることを知る。タイトルの奇妙さの意味が分かったとき、それは恋愛以上に切実な言葉へ変わる。定番の泣ける恋愛小説を一冊読むなら、やはり外せない。

評価:ときめき★★★★★/切なさ★★★★★/読みやすさ★★★★★/余韻★★★★★/恋のしんどさ★★★★★

『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』(七月隆文/宝島社)

ぼくは明日、昨日のきみとデートする 七月隆文/宝島社
ぼくは明日、昨日のきみとデートする 七月隆文/宝島社

京都の美大に通う青年が電車で出会った女性に一目惚れする。二人は付き合い始め、幸せな時間を過ごす。しかし彼女には、どうしても説明できない奇妙な秘密があった――。

設定を理解した瞬間、それまで何気なく読んでいた彼女の言葉や涙の意味がすべて変わる。二人にとって同じ一日は、同じ思い出ではない。相手にとっての「初めて」が、自分にとっては「最後」かもしれない。その残酷な時間構造が、恋愛の一瞬一瞬を異常なほど美しく見せる。読み終えたら最初のページへ戻りたくなるタイプの作品であり、SF的な仕掛けのある切ない恋愛が好きな人におすすめだ。

評価:ときめき★★★★★/切なさ★★★★★/読みやすさ★★★★★/余韻★★★★★/恋のしんどさ★★★★★

『植物図鑑』(有川浩/幻冬舎)

植物図鑑 有川ひろ/幻冬舎
植物図鑑 有川ひろ/幻冬舎

ある夜、道端で行き倒れていた青年を拾った女性。青年は「拾ってください」と頼み、二人の奇妙な同居生活が始まる。彼は植物に詳しく、休日になると主人公を野草摘みに連れ出し、採った草花を料理してくれる。

設定こそドラマチックだが、恋が育っていくのは驚くほど生活感のある場面ばかりだ。一緒にご飯を食べる。散歩する。季節の草花を見つける。そうした何でもない時間が積み重なって、「この人がいる生活を失いたくない」という感情に変わる。その過程がとても甘い。恋愛小説に刺激より幸福感を求める人にぴったりで、読み終えたあと外を歩きながら道端の植物を眺めたくなるような一冊である。

評価:ときめき★★★★★/切なさ★★★☆☆/読みやすさ★★★★★/余韻★★★★☆/恋のしんどさ★★☆☆☆

『小説 秒速5センチメートル』(新海誠/KADOKAWA)

小説 秒速5センチメートル 新海誠/KADOKAWA
小説 秒速5センチメートル 新海誠/KADOKAWA

小学生時代に出会った貴樹と明里。互いに特別な存在になるが、引っ越しによって離ればなれになる。手紙を送り合い、再会も果たすものの、成長するにつれて二人の距離は少しずつ広がっていく。好きだった人を忘れられないまま大人になる男の時間を、長い年月にわたって描く。

この作品には、劇的な裏切りも大喧嘩もほとんどない。ただ、距離と時間が人間を変えてしまう。そのどうしようもなさが痛い。桜の花びらが落ちる速度が秒速5センチメートルであるように、二人は一気に離れるのではなく、少しずつ遠ざかっていく。だからこそ、自分にも似た記憶があるような錯覚を覚える。初恋を忘れられない人には、とりわけ危険な一冊である。

評価:ときめき★★★★☆/切なさ★★★★★/読みやすさ★★★★★/余韻★★★★★/恋のしんどさ★★★★★

『すべての雲は銀の…』(村山由佳/講談社)

すべての雲は銀の… 村山由佳/講談社
すべての雲は銀の… 村山由佳/講談社

恋人の裏切りによって深く傷ついた青年は、大学を休学し、都会を離れて山のペンションで働き始める。失恋の記憶を抱えたまま、新しい土地でさまざまな人と出会い、働き、少しずつ自分を取り戻していく。

恋愛小説でありながら、本作の大きなテーマは「失恋のあと」である。人に傷つけられた心を、新しい恋人がすべて治してくれるわけではない。働くこと、友人と過ごすこと、自然の中で暮らすこと。そうした恋愛以外の時間も、人を少しずつ回復させていく。ダ・ヴィンチWebでも恋愛をテーマにした作品として紹介しているが、同時に再生の物語としても強い。恋が終わった直後に読むには少し痛い。でも、しばらく経ったあとに読むと、自分にも次の季節が来ると思わせてくれる。

評価:ときめき★★★☆☆/切なさ★★★★★/読みやすさ★★★★☆/余韻★★★★★/恋のしんどさ★★★★☆

おわりに

恋愛小説を40冊並べてみると、「恋」という言葉の中にまったく違う感情が詰まっていることに気づく。幸せなときだけが恋ではない。会えない時間も、別れたあとの時間も、好きになってはいけないと自分に言い聞かせる時間も、すべて恋愛の一部なのだろう。

今の自分が読みたいのは、ときめく恋なのか、泣ける恋なのか、それとも「もう恋なんてしたくない」と思うほどしんどい恋なのか。星評価も参考にしながら、その日の気分に合う一冊を選んでみてほしい。

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