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財布を届けに行ったコスモス畑で、俺が丘の上から見た景色

  • 2026.10.23
ハウコレ

「何になるのか、見に来たの?」と聞かれて、丘の上で見た景色が頭に浮かびました。それでも彼女の友だちの前で、口から出たのは別の言葉でした。

駐車場の空きを待つ車の列は、コスモス畑の入口までずっと続いていました。助手席には、彼女の財布。家を出る前に5回かけた電話は、どれも彼女につながらないままでした。

行ったことのなかった場所

「女子同士集まっていくところがコスモス畑?」

「そんなところ行って何になるの?」

彼女のスマホに並んだコスモスの写真を見て、俺はそう言って笑いました。花を見るためだけに車で出かける理由が、ピンとこなかったのです。コスモス畑には、一度も行ったことがありませんでした。

丘の上から探した白いカーディガン

当日、玄関の靴箱の上に財布が残っていました。財布がなければ、売店で何か買うことも、帰りに何かあったときも困るはず。「財布忘れてる。届けに行く」と送っても、既読はつかないままでした。

車の鍵を取って家を出たときは、財布を渡したらすぐ帰るつもりでした。

畑は、思っていたよりずっと広い場所でした。花の間の道を何本か歩いても見つからず、上から探そうと奥の丘へ上りました。

丘に上ると、足元から遠くまで、ピンクと白の花が広がっていました。風が吹くたびに、花の色が波のように揺れていました。探しに来たことを一瞬忘れて、しばらく眺めていました。スマホで1枚だけ写真を撮り、そこから白いカーディガンの後ろ姿を見つけて、丘を下りました。

言いそびれた感想

「何しに来たの?」

「財布、玄関に置きっぱなしだったから」

友だちの1人が声を弾ませる横で、財布を差し出しました。

「何になるのか、見に来たの?」

丘の上で見た景色が頭に浮かびました。けれど、彼女の友だちの前で、あれだけ笑っていた俺が「良かった」と言うのは気恥ずかしく、代わりに丘のことを聞きました。まだだと聞いて、「じゃあ、先に帰る」と背中を向けました。

帰りの車の中で、自分の言った言葉を何度か思い返しました。何になるのかと聞いたのは、行ったこともない場所のことでした。

そして...

家に帰ってきた彼女に「おかえり」と言うと、「財布、ありがとう」と言われました。少し迷ってから、口にしました。

「コスモス、思ったより良かったかも」

彼女がこちらの顔を見返してきたので、それ以上は何も足さずにいました。

スマホの中には、丘の上で撮った写真が1枚だけ。彼女には、まだ見せていません。

(20代男性・会社員)

本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。

(ハウコレ編集部)

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