1. トップ
  2. エピソード
  3. 「いいのよ、みんなやってるんだから」ホテルの朝食でパンと果物を袋に詰めた母親。だが、入口で袋の底が破れた瞬間

「いいのよ、みんなやってるんだから」ホテルの朝食でパンと果物を袋に詰めた母親。だが、入口で袋の底が破れた瞬間

  • 2026.10.19
「いいのよ、みんなやってるんだから」ホテルの朝食でパンと果物を袋に詰めた母親。だが、入口で袋の底が破れた瞬間

山盛りの皿と布の袋

妻と旅行に出かけ、ホテルに泊まった翌朝のことです。

朝食のバイキング会場は宿泊客でにぎわい、料理を取る場所にも列ができていました。

私の前に並んでいた家族連れの父親は、料理を皿に山盛りにして席へ運び、また列に戻ってきます。

何枚もの皿を抱えて往復する姿に、周りの客もちらちらと目を向けていました。

私と妻が席に着くと、その家族のテーブルがすぐ近くにあることに気づきました。

両親と小学生の子どもがふたり。テーブルには料理の載った皿がいくつも並んでいますが、ほとんど手がつけられていません。

父親が席を立ちかけたとき、母親がかばんから布の袋を取り出しました。

そして、かごのパンをつかみ、皿にあった果物も次々と袋へ移し始めたのです。

子どものひとりが、戸惑ったように尋ねました。

「ねえ、持って帰ってもいいの?」

「いいのよ、みんなやってるんだから」

母親は笑って答え、手を止めませんでした。

その様子を見て妻が小さくため息をつくと、母親と目が合いました。

「……何か?こっちはちゃんとお金を払って泊まってるんですけど」

突然の言葉に、私は返事ができませんでした。すると父親まで笑いながら口を挟みました。

「そうそう。取った分はうちのものだよ」

母親はさらにパンを押し込み、布の袋は今にもはちきれそうに膨らんでいました。

入口の前で破れた袋

やがて家族は席を立ち、母親が袋を胸に抱えて会場の入口へ向かいました。

私たちの席からは、入口で入場を待つ人たちの姿も見えていました。

母親が列の前を通りかかった、そのときです。

「ビリッ」

布が裂ける音がして、袋の底が破れました。

中に詰め込まれていたパンや果物が床に落ち、並んでいた客たちの足元へ転がっていきます。

足元を見た客たちの視線が、破れた袋を持つ母親に集まりました。

「あれ、全部持って帰るつもりだったのかしら」

列の中から、そんなつぶやきも聞こえてきました。母親は顔を赤くしたまま、動けずにいます。

そこへ制服姿の若い男性スタッフが駆け寄ってきました。

「お怪我はございませんか」

スタッフはそれ以上何も言わず、しゃがんで床に落ちたパンや果物をひとつずつ拾い、回収していきました。

「あ、それは…」

母親は何か言いかけましたが、その先の言葉は出ません。父親も、さっきまでの笑顔を消して立っていました。

家族はパンも果物も持たず、足早に会場を出ていきました。入口では、待っていた客たちが再び順番に進み始めます。

私と妻は顔を見合わせました。食後のコーヒーを飲みながら、妻がぽつりと言いました。

「みんなやってるわけじゃないのにね」


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた30代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ