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「美しいと思った」ワイン造り いつもやり尽くしてきた先に北海道で見つけたもの

  • 2026.10.18

函館のお隣、北斗市にあるtorocco winery(トロッコワイナリー)で、醸造栽培責任者を務める石田幸子さん。

旅行会社の添乗員からソムリエ、フランスへの渡航、そしてきりたんぽ店の経営と目まぐるしく転身していったその半生を前半の記事でお届けしました。

ナチュラルワインにこだわり、40代でワイン醸造家になった石田さん。
今回は、三度北海道へ移住することになったきっかけからお届けします。

Sitakke

連載|私のきっかけ

きりたんぽ店を閉め「北海道でワイナリーを手伝ってくれないか」

札幌のレストランでかつてシェフとソムリエ、という「同僚」だった長尾彰浩さんから「北海道でワイナリーを手伝ってくれないか」と誘われた石田さん。

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当時、東京・浅草で経営していた「きりたんぽ」のお店を閉めたばかりのときでした。

「正直、すごく迷いましたね。東京でひと旗揚げようと北海道を出てきたんです。ここで戻るわけにはいかないという気持ちもありました。それに、以前は同僚だった人が、オーナーという立場になれば、関係性も変わってしまう。私にとっては、かなり勇気のいる決断でした」

そんなとき、決断の背中を押したきっかけは長尾さんのある言葉でした。

「美しい」ナチュラルワインを造る仕事への思い

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「ワイナリー」と聞いたとき、石田さんの脳裏に浮かんだのはフランスでの暮らしでした。

「記憶ではやっぱりすごく美しかったんです。ナチュラルワインを造るっていう仕事とか、ブドウを作る畑仕事が」

すると、長尾さんは「北海道にはその暮らしがあるよ」と石田さんに伝えたのだそう。

「最後にたどり着く仕事はワイン造りなんじゃないの?みたいなことを言われて。すっかり乗せられました(笑)。『ゆっくりした生活ができる』って言われたのは実際違いましたけど。東京の2倍くらい忙しい!」

長尾さんの言葉に、迷いが断ち切れた石田さんは、三度、北海道に移住。
今度は北斗市を拠点にワインの造り手としてのキャリアを歩むことになりました。

「ナチュラル」へのこだわり

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今、石田さんが造っているのは「ナチュラルワイン」。
ブドウの栽培から醸造にかけて、化学肥料や農薬に頼らず、有機栽培されたブドウを使用し、醸造過程でも添加物を控えて造られたワインのことです。

現在、育てている品種は全部で13種類も。

「今は、この土地に合う品種を選んでいる段階です。最低でも5年は栽培してみないと分かりませんから」

品種を見極めるだけでも5年。気の遠くなるような話です。
さらに育てるときには最小限の有機認定農薬しか使いません。
その中ではこんな苦労も。

「ブドウに有害な虫が多く発生してしまうときは、畑を何時間も歩き回って、1匹ずつ手で取るしかないんです。虫が出ると、お休み返上でその作業に追われます」

鳥がブドウを食べに来ることもめずらしくありません。
機械には頼れない作業もたくさんあります。

「毎年、春になるとピヨッシュといって、1本1本の根元の土に鍬を入れます。雑草を刈り取る目的と、根元に酸素を回してあげるという役割もあるんです。機械ではできない作業です」

石田さんは、こともなげに言いますが、その数は8000本!
途方もない作業です。

まだ日が短く、肌寒い季節でも、畑での作業はほかにも盛りだくさん。
作業は太陽が昇るよりも早く始まり、ピーク時には日没まで続くことも。

日々、3名のスタッフとともに畑を管理し、収穫時期になると札幌から長尾シェフをはじめレストランのスタッフたちも来て仕込みをします。

さらに醸造過程でも「ナチュラル」にこだわります。
品質保持のための酸化防止剤「亜硫酸塩」を使わないのも石田さんの信条です。

そうまでして、なぜ「ナチュラルワイン」なのか。
そこにも石田さんの原点があります。

「美しさ」に魅了される

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「農薬も亜硫酸塩も、入れるから悪い、ということではないんです。でもたまたま飲んで感動したワインにそういうものが多かった。私は『ナチュラルワイン』じゃなかったら造っていないので」

ブドウの木を見つめながら、石田さんは続けます。

「ブドウを動物たちに食べられちゃうのは良くないけど、でもやっぱりそれは自然の美しさ。しょうがないです。おいしいからしょうがない。動物は正直なのかなって、そう思います」

やはり、頭の中に常にある、あのフランスでの経験、自然と、その中でブドウ作りをする「美しさ」が石田さんを魅了します。

「経営者になりたいわけでもない、ワインで身を立てたいわけじゃない。『ナチュラルワインを造りたい』んです」

造る責任を感じながら

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2021年から始めたブドウ畑の造成や栽培に加え2024年には自社の醸造施設が完成。ブドウ栽培から一貫したワイン造りが本格的にスタートしています。

現在、トロッコワイナリーが造っているのは、ブドウに付着する天然酵母だけを使って醸すワイン。
ペティアンと呼ばれる微発泡性のワインをはじめとして、2026年冬には待望の自社ブドウワインを白・赤それぞれ1樽ずつリリースする予定です。

これだけ時間と手間をかけて造ったワイン。できあがったときはさぞ感動したのではないかと思いきや…

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「やっぱりこうできたな、とか、あれがこうなってよかったな・悪かったなって結構客観的な感じの感想です」とのこと。

ワインは生きて呼吸をしているので、常に変化するもの。
この先、どうなっていくのか、半年、1年、そして3年先まで…石田さんは自分が手がけたワインの姿を追っていきます。

「ソムリエは数ある中からお客さまの要望に合わせてワインを選ぶけど、ワインを造るって不特定多数の方に届いていくことじゃないですか。ソムリエとして話すのと、造る責任は違うと思っています」

だからこそ、科学的根拠も大切にしながらワイン造りに取り組んでいます。

「本当に難しいけど面白い。最後の最後まで分からない。すべて積み重ねです。1年に1回しか造れないので。だからノートにはめちゃくちゃ書いているんです。ファイル1冊分、何月何日に何度で何をしたとか。失敗した経験を活かすのはまた次の年です」

100%になることはない

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これからの石田さんの目標はもちろん、トロッコワイナリーが目指す「おいしいワイン」を造ること。

だけどその一方で「それが思い通りになることはないんです」と石田さんは話します。

「だって、これが100%だって思った瞬間に、私たちの成長は止まってしまいますから。どこまでも100%を追い求めていくのだと思います。それが何かをつくるってことなのかも」

きっかけをつかむには…「いつもやり尽くしてきた」

添乗員からソムリエ、飲食店経営からワインの醸造家まで…さまざまな「きっかけ」でここまで歩んできた石田さん。
「選んだ道がいつも順調というわけではなかった」と話します。

でもまっすぐこう話してくれました。

「端から見たら、失敗だと思われていたかもしれません。『あっちにしておけばよかったのに』と言われることもあります。でも、私の中に後悔はありません。どんな瞬間にも全力を注ぎ、その時にやれる限りの最善は尽くしたからです」

自らが歩いてきた道のりの中にあった点が、次の点とつながり、線になっていく。そしてそれが、いつしか道となっていく。

「この瞬間をがんばらないと未来はないっていつも思っているので、今やれることを一生懸命やって。それがいろんなご縁のおかげで、未来につながっていった。だから別にこれが正解って思っているわけではなくて。ただ、今の生活には満足しているので、そういう意味では正解だと思うんですけど」

北海道の地で、「美しい」と思える仕事をする。
さまざまなきっかけで進んできた石田さん。

「常に全力でがんばっていれば、何か新しいきっかけが訪れたときに、それをつかむことができるんじゃないかなって思います」

連載|私のきっかけ

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文:菅谷環
編集:Sitakke編集部あい

※掲載の内容は取材時(2026年4月)の情報に基づきます。

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