1. トップ
  2. エピソード
  3. 友人に言えない秘密のために集合時間をずらし続けた私が、あの日だけ時間通りに現れた理由

友人に言えない秘密のために集合時間をずらし続けた私が、あの日だけ時間通りに現れた理由

  • 2026.10.17
ハウコレ

「うん。今日は、ちゃんと来たかったから」。そう答えた私には、実はその日のためにキャンセルした大切な予約がありました。隠していたのは「眠気」ではなく、周りに見せたことがない「不器用な自分」だったのです。

予約のキャンセルボタンを押したのは、友人に返信を送った直後でした。画面に表示されていたのは、「この後に外せない予定があるから、集合時間は動かせないよ。無理なら次でもいいよ」というメッセージ。でも実は、動かせない予定があったのは私のほうも同じだったのです。

予約が取れた枠に、集合時間を合わせていた

友人との集合時間を何度も遅らせていた理由は、休みの日にこっそり通っていた大人向けの水泳教室にありました。レッスン予約は毎週、空きが出た時間枠を先着順で取るシステムだったのです。

予約が取れた枠が終わる時間に合わせて、集合時間を30分、時には2時間とずらし、そのたびに同じ言い訳をしていました。

「私、朝弱いからそっちが合わせて」

眠そうにするスタンプを添えて送ることもありました。ですが実際は、レッスンのある日ほど気合が入って早く目が冴えていたのです。

27歳になってから水泳教室に通い始めたことは、誰にも打ち明けていません。特に友人には絶対に知られたくありませんでした。夏に一緒に海へ行く約束をしているのに、自分だけ泳げないまま当日を迎えるのが怖かったからです。

プールサイドに残された、あの日の記憶

小学生の頃、進級テストで最後まで合格できなかったのは私だけでした。他の子が着替えを終えて帰っていく中、1人だけプールに残されて再練習をさせられたのです。

着替えを終えた友達が、フェンス越しにこちらを眺めていました。

それ以来、できないことを人に見られるのが苦手になりました。だからこそ、水泳教室に通っていることを隠すために、集合時間を無理やり変更し続けていたのです。

いつものように「時間を遅らせたい」と送った直後、友人から届いたのは「変更できない」という毅然とした返事でした。

理由を聞くこともなく断られたのは初めてのことです。私はスマホを握りしめたまま、ベッドの縁に座り込んでしまいました。断りの文章を打っては消しを繰り返します。

「わかった。その時間で行くね」

そう返信してから、私は水泳教室の予約画面を開きました。

缶コーヒーは、待つための口実だった

当日は、約束の時間の30分も前に駅に到着してしまいました。手持ち無沙汰で落ち着かず、自販機で買った缶コーヒーを未開封のまま手に持って、柱の陰で待つことにしました。

友人が改札から姿を現したのは、約束の10分前のことです。

「今日は時間どおりだね」

「うん。今日は、ちゃんと来たかったから」

私は本当の気持ちを半分だけ口にしました。すぐに歩き出したのは、それ以上追及される前に話題を変えたかったからです。

公園のベンチでは、夏に行く海の話になりました。私はうなずきながら缶コーヒーを飲み干し、飲み終えた缶をそっと手の中でつぶしました。友人はそれ以上、遅刻の理由を聞いてはきませんでした。

改札の前まで戻ってきたとき、私は振り返って素直に謝りました。

「ごめんね、いつも時間をずらしてもらってばかりで」

「今度から、ちゃんと行ける時間を最初に言うね」

レッスンの予約枠を先に確保してから集合時間を決めれば、もう嘘をついて時間を変更してもらう必要もありません。友人は理由を聞くこともなく、そのままうなずいてくれました。

そして...

翌週のレッスン予約は、友人との集合時間より早い時間枠に入れました。駅には相変わらず、友人よりも先に到着しています。

水泳教室に通っていることは、今もまだ彼女には打ち明けていません。海へ行く日まで、あと2か月。本当のことを話すなら、その海の砂浜でと決めています。

(20代女性・販売員)

本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。

(ハウコレ編集部)

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ