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シンディ・シャーマンが語る「老い」と写真。「恐ろしくもあり、新たな発見でもある」

  • 2026.10.16
© Cindy Sherman, courtesy of the artist and Hauser & Wirth Gallery

新シリーズ「Fabric Matrons」(*1)のために制作した最初の作品を見返していたとき、シンディ・シャーマンは奇妙な感覚にとらわれた。

*1 「Matron」は年配の女性や貫禄のある婦人を意味する英語。シリーズ名の「Fabric Matrons」は、「布をまとった婦人たち」といった意味になる。

過去50年にわたり、さまざまな人物に変身した自らの姿を撮影し続けてきたシャーマン。新作に写っているのは、短くカットされた、おそらく染めているであろう巻き毛に、描き足した眉、ピンク色の口紅が印象的な年配の女性だ。

「写真を見たとき、『母にそっくり』と思ったんです」と彼女は語る。母親が亡くなったのは、ちょうど現在のシャーマンと同じ年齢だったという。

「写真の中で私がつくり出した女性は、とても年老いて見える。でも考えてみれば、私自身もきっとこんなふうに見えているんでしょうね」

シンディ・シャーマン「Fabric Matrons」シリーズ(2026)より。 © Cindy Sherman, courtesy of the artist and Hauser & Wirth Gallery

ところが、実際のシャーマンと作品の中のシャーマンは、まるで別人だ。最新作で扮する厚化粧の女性たちとは対照的に、目の前にいる72歳の彼女は化粧気のない、すがすがしい表情をしている。シルバーグレーの髪を首の後ろでお団子にまとめ、黒と白のボーダー柄の薄手のニットは袖をラフにまくっている。

現在はニューヨーク州イーストハンプトンに滞在中。ミュンヘンのゲッツ・コレクションやモンテネグロ現代美術館での展覧会が続いた多忙な一年を経て、ようやくひと息ついているところだ。そして10月13日にはロンドンのハウザー&ワースで、新シリーズ「Fabric Matrons」の展覧会が開幕した。

「Fabric Matrons」シリーズ(2026)より、シンディ・シャーマン。<em></em> Courtesy of the artist and Hauser & Wirth

今回のシリーズを制作するきっかけとなったのは、シャーマンが高級宝飾店の雑誌をめくっていたときのこと。誌面には、アメリカ人モデルのクリスティ・ブリンクリーの写真が数多く掲載されていた。

「片手に5つも指輪をはめて、首にはダイヤモンドのネックレスを重ねづけして、とにかく派手なジュエリーを身につけていたんです。もちろん、写真にはレタッチが施されていて、若々しく美しく見えるようになっていました。いえ、彼女は実際に美しいんですよ。でもなんというか、彼女は私と同い年なので、やっぱりどこか引っかかるものがあった」とシャーマンは話す。

<em>Sherman in ’Fabric Matrons’ (2026)</em> Courtesy the artist and Hauser & Wirth

今回はデジタルで背景をつくる代わりに、大量の布を吊るして撮影することにした。その布は、衣装としても使われている。

「頭を通す穴をひとつ、必要なら腕を通す穴をふたつ開ける。それだけです」

布の一部はシャネルのアーカイブから提供されたもので、厚手のツイードや、金糸を織り込んだパールカラーの生地など。ほかにも、自身が収集してきた膨大な布のコレクションにはない色や柄を、オンラインで取り寄せた。

「たくさんの布を自分の周りに重ねて、そこに身を置きながら、布に囲まれた空間を形づくっていくのが本当に楽しかったですね」

「Fabric Matrons」シリーズ(2026)より、シンディ・シャーマン。 Courtesy the artist and Hauser & Wirth

いくつかの作品では、西洋絵画の巨匠たちが描いた女性のヌードを思わせるポーズで横たわっている。ただしシャーマンが演じる女性たちは全身を布で覆われ、その表情にはどこか凄みがある。

貝殻のようにクリーム色の布に包まれた姿もあれば、グレーの装いで堂々とした存在感を放つ姿もある。黄金色の衣装をまとった作品では、人物が背景に溶け込んでしまいそうだ。蜂蜜色の巻き毛さえも、淡い金糸が渦を描く周囲の布地に紛れ、その輪郭が消えてしまいそうに見える。

“背景に溶け込んで、目立たない存在でいたい。でも一方で、どこかで誰かに見てもらいたい、認められたいという気持ちもある”

これらの女性たちは、人目にさらされながらも同時に見えない存在になっているように思えるが、しかし、シャーマン自身はそんなふうに考えたことはなかったという。

「面白い捉え方ですね。考えてみれば、それは私自身の感覚にも通じる気がします。私は背景に溶け込んで、目立たない存在でいたい。でも一方で、どこかで誰かに見てもらいたい、認められたいという気持ちもあるんです」

ただ、高解像度のカメラを使うことには厄介な面もあると彼女は言う。何ひとつ隠すことができないからだ。

「Fabric Matrons」シリーズ(2026)より、シンディ・シャーマン。 Courtesy the artist and Hauser & Wirth

「まずはどんな人物を演じるのか、その感覚をつかむためです」と、シャーマンは普段、メイクをしていない状態でポーズをとるところから撮影を始めるという。

「そうすると、ありのままの自分と向き合うことになるんです。自分が実際にどんな姿をしているのか、客観的に見つめることになる。そうやって自分の姿を見つめながら年齢を重ねていくのは、新たな発見があると同時に恐ろしくもあります」

その感覚は、作品に反映されているのだろうか。

「もちろん、作品の中の女性たちも老いに対して葛藤を抱えています。私自身がそうですから」

作品によってはシャーマン自身の手や腕が見えるものもあるが、ほとんどは肌の色に合わせた、不気味なほどなめらかな手袋で覆われている。その色合いはミルクティーのような淡いベージュで、昔ながらの薄手のストッキングを思わせる。

そして、彼女が演じる女性たちは、誰もが厚化粧をしている。

「つけまつげや不自然な眉毛で、年齢を重ねて失ったものを補おうとしているんです。でも、もはや美しく見せるためだけのものではない。かつての自分には戻れないことを、彼女たち自身もわかっているんです」

「Fabric Matrons」シリーズ(2026)より、シンディ・シャーマン。 Cindy Sherman, courtesy of the artist and Hauser & Wirth Gallery

シャーマン自身、写真の中に現れる人物像に驚かされることがよくあるという。あらかじめ綿密に設定するのではなく、カメラの前でポーズをとるうちに思いがけない人物が生まれてくるのだ。たとえば、彼女が「両替商」と呼ぶ女性。シャーマンいわく農婦のような風貌だが、その手にはパールをあしらったシャネルのバッグが握られている。

あるいは、山積みの本に囲まれ、銀色の衣装をまとって優雅にくつろぐ女性もいる。

「そうそう、もうひとり、すごく気に入っているのが、赤い筒状のドレスを着た女性です。面白いのは、実はあのドレスに使った布は、正面から見える部分を覆うだけの幅しかなかったんです。実際には、布をテープで体に貼りつけていただけ。拡大して見ると切りっぱなしの端がわずかに見えるかもしれません。だから撮影では立ち位置や体の向きを慎重に考えなければなりませんでした」と、シャーマンは笑う。

「彼女が好きなのは、はつらつとしていて、パーティーにいたら楽しそうな人だから」

きっとシャーマン自身も、パーティーではそんな存在なのだろう。

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