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改札の前で彼女を50分待った。手の中で冷めていく缶を握ったまま、俺が思い出していたこと

  • 2026.10.16
ハウコレ

半年前、口から出たのは、自分が一番嫌っていたはずの言葉でした。改札の前で彼女に問われても、本当のことを言えば言い訳にしか聞こえない気がしたのです。

改札の前の柱にもたれて、何度目かの時刻を確かめました。彼女の講座が終わるはずの時間は、とっくに過ぎています。送ったメッセージには、まだ既読がついていませんでした。

打ちかけて消したメッセージ

講座が終わる時刻に合わせて「改札の前にいるね」と送ったのは、俺のほうでした。

20分を過ぎたころ、「まだ?」と打ちかけて、送らずに消しました。講座の途中なら、通知は邪魔になるだけ。そう思ったものの、手持ちぶさたにスマホを出しては、またポケットに戻す繰り返しでした。

30分を過ぎて、自販機で缶のミルクティーを買いました。出てきたら温かいものを渡そう。そのつもりで握っていた缶は、少しずつ手の温度と変わらなくなっていきました。

待つ時間は、思っていたよりずっと長い。改札を抜けていく人を目で追ううちに、半年前のことが頭から離れなくなりました。

父がよく言っていた言葉

子どものころ、父は帰りが遅くなっても連絡をしない人でした。母は台所で、冷めた味噌汁を何度も温め直していました。父はそれを当然のように受け取り、「待つのが女の仕事だ」と口にしていたのです。コンロの前に立つ母の背中を見ながら、その言葉がずっと嫌いでした。

半年前、取引先との打ち合わせが長引き、40分遅れました。あと少しで抜けられる、と思っているうちに、連絡するタイミングを逃していたのです。改札の前で「連絡くらいしてよ」と言われ、言い訳も浮かばないまま、笑ってその場をやり過ごすように口から出たのが「待つのが女の仕事だろ」でした。

言った直後に、父と同じだと気づきました。けれど彼女は言い返さずに改札のほうへ歩き出し、取り消す言葉を探せないまま後を追いました。彼女がその話をしないのをいいことに、忘れてくれたのだと自分に言い聞かせていました。

改札の前で答えられなかった問い

50分が過ぎたころ、彼女が早足でこちらへ向かってくるのが見えました。缶を差し出して「おつかれ」と言うと、返ってきたのは「ごめん、連絡できなくて」。

「いいよ」

本心でした。待ちながら、講座で手を離せない理由はいくらでも考えられたからです。

けれど、続いた彼女の言葉で、何も忘れられてなどいなかったと分かりました。

「待つのが女の仕事じゃなかったっけ」

あれは父の言葉で、本当は自分が一番嫌っていた。そう言えば、言い訳にしか聞こえない気がしました。人が行き交う改札の前で、ちゃんと謝れる自信もありません。足元に目を落としたまま、口から出たのは「寒いし、帰ろう」だけ。また逃げたのだと、階段へ向かいながら分かっていました。

そして...

階段を下りる途中、隣で彼女が缶を開ける小さな音がしました。

家に着いてから、チャットの画面を開きました。何度か打っては消して、送ったのはこの文面です。

「半年前に言ったこと、ちゃんと謝りたい。次の講座のあと、少し時間をもらえる?」

スマホを伏せずにテーブルに置き、返事を待ちました。既読がつくまでの時間が、改札の前の50分と同じくらい長く感じられました。

(20代男性・営業職)

本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。

(ハウコレ編集部)

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