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人事部で最終面接を長く担当してきた私、娘から聞いた婚約者の名前に覚えがあった

  • 2026.10.8
ハウコレ

娘の婚約者が食卓で話した、学生のころに断った内定のこと。その会社の最終面接で向かいに座っていたのが私だと、彼はまだ知りません。私も、知らせないと決めていました。

娘から婚約者の名前を聞いたとき、その響きに覚えがありました。人事部で長く最終面接を担当してきた仕事柄、忘れられない名前がいくつかあります。

8年前に合格を出した学生

8年前、その名前の学生を最終面接で合格にしました。何を聞き、どう答えたのか、細かなやりとりはもう曖昧です。ただ、答えるたびにこちらの目をまっすぐ見ていた学生だったことだけは、はっきり残っています。

数日後、担当者から辞退の知らせが届きました。惜しいとは思いました。それでも、あの学生ならどこへ行ってもやっていける。そう思えたことで、自分の中ではきちんと区切りがついていたのです。

玄関で決めた、初対面のふり

挨拶の日、玄関に立った彼は、深く頭を下げて言いました。

「はじめまして。本日はお時間をいただき、ありがとうございます」

彼は覚えていない。そう分かって、少しほっとした自分がいました。私が名乗れば、彼は内定を断った人として、あらためて頭を下げることになる。

「いえ。どうぞ、お上がりください」

面接の日と同じ敬語のまま、初対面として通すと決めました。

食卓で、妻が聞きました。

「どんなお仕事をされてるの?」

彼は設計の仕事を、妻にも分かる言葉で説明していきます。

「学生のころ、名前の知れた会社から内定をいただいたんですが、いろいろ考えて、今の会社に決めました」

その会社の最終面接で向かいに座っていたのが私だと、食卓で知っているのは私だけでした。あの日と同じまっすぐな話し方で、彼は今、私の家族に仕事の話をしている。どんな現場を任されているのか、今の会社を選んでよかったか。聞きたいことはいくらでもある。けれど私が何か聞いて、当時の面接を思い出されるのは嫌でした。

「そうですか」

それだけ返して、湯のみを口に運びました。

電話で話しきれなかった続き

2人が帰ったあと、娘から電話がかかってきました。

「どうして彼にだけあんな話し方なの。反対なら、はっきり言って」

「反対はしていない。聞くことは、もう聞いてある」

聞くべきことは8年前に聞き、合格も出してある。そう続けるつもりが、その先を言えば彼が覚えていないことまで娘に話すことになります。

「もういい」

通話はそこで切れました。画面が元の表示に戻るまで、耳から離せずにいたのです。

妻に、また2人を呼んでほしいと頼んだのは、その翌日です。事情があれど態度が悪くなってしまったことをすぐに謝りたかったのです。

そして...

翌月、玄関で「どうぞ、お上がりください」と言うところまでは、前と同じです。

食卓では会社の話はせずに、いろいろな話をしました。

「好きな食べ物は、何ですか」

「卵焼きです。甘いほうの」

「そうですか」

妻に「次は、甘いのを焼いてやってくれ」と頼むと、娘がこちらを見ていました。

帰り際、彼が頭を下げるより先に、私のほうが頭を下げていました。彼は今も、あの面接の相手が私だとは気づいていません。敬語も、まだ崩せていません。

(50代男性・人事職)

本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。

(ハウコレ編集部)

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