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「兄貴が全額奢るのが昔からの決まりだろ」会計前に毎回席を立つ叔父。後日、父が残した1枚の伝票

  • 2026.10.8

伝票が来るころ、決まって空く向かいの席

父方の親族は、年に2、3回、和食の店の個室に集まって食事をする。

長いテーブルを10人ほどで囲み、私の隣に父、その向かいに父の弟である叔父が座るのがいつもの並びだった。

会計は、長男である父が毎回まとめて払ってきた。

ところが食事が終わり、店員が伝票を持ってくるころになると、叔父は決まって腰を上げる。

「ちょっと手洗いに行ってくる」

そう言って個室を出ていき、戻ってくるのは父が支払いを済ませた10分ほどあとだった。

最初は偶然だと思っていた。しかし、それが5回続くと、さすがに私も気になった。

父も集まりのたびに、空いた向かいの席を見て小さくため息をつくようになった。

前回の食事会の帰り、店の玄関を出たところで、父が叔父に声をかけた。私は父の横にいて、そのやり取りを聞いていた。

「毎回とは言わんけど、少しは出したらどうだ」

すると叔父は笑いながら答えた。

「兄貴が全額奢るのが昔からの決まりだろ」

祖父の代は、家のことは長男が負担するという考え方が強かった。

叔父の言葉を聞いていると、その感覚が今も残っているように私には思えた。

けれど、父も今は年金暮らしだ。その場ではそれ以上言わなかったものの、帰りの車の中でも浮かない顔をしていた。

私は父に言った。

「次から、店に頼んで1人ずつ伝票を分けてもらったら?」

父は少し考えてから答えた。

「……角が立たんかな」

「みんなが自分の分を払うだけだよ。そのほうが父さんも楽でしょ」

叔父の前に残った、1枚の伝票

そして今回の食事会。

最後の皿が空くころになると、叔父はまたいつものように席を立った。

「ちょっと手洗いに」

叔父が個室を出ると、入れ替わるように店員が入ってきた。父は受け取った1人分ずつの伝票を、親族に回していった。

「今日から、こうさせてもらうよ」

すると父の妹にあたる叔母が、すぐに財布を開いた。

「そのほうがいいわ。私もずっと悪いと思ってたの」

ほかの親族もそれぞれ自分の分を払い、店員が伝票を回収していった。

10分ほどして叔父が戻ってくる。

叔父の席の前には、伝票が1枚だけ残っていた。

叔父は立ったまま伝票を見下ろし、しばらく動かなかった。

父が向かいの席から静かに言った。

「それ、お前の分だ。長男が全部持つのは、もう終わりにする」

叔父は父を見た。

「……急にどうしたんだよ」

「わしも年金暮らしだ。これからは1人ずつ払おう」

叔父がまわりを見ると、親族は黙ってうなずいていた。

しばらくして、叔父は何も言わずに伝票を手に取り、レジへ向かった。

戻ってくると父の向かいに座り、湯のみを両手で包んだまま、小さな声で言った。

「…そうか」

父は言い返すこともなく、急須を取って叔父の湯のみに茶をつぎ足した。

それからの集まりでは、叔父が会計前に席を立つことはなくなった。伝票が回ってくると、今では父より先に財布を開いている。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた40代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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