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「俺だってゴミ出ししてるだろ」と言っていた俺→集積所で「奥さん、丁寧だわ」と言われた袋の結び目

  • 2026.10.3
ハウコレ

集積所から戻った俺は、シンク下の扉を開けました。中にあったのは、俺が見たことのない箱と、ラベルをはがされた瓶。分担だと言い張ってきた言葉の、前段階がそこに並んでいました。

玄関の床に、口をきつくしばった袋が置いてありました。俺はそれを持ち上げ、サンダルをつっかけて集積所へ向かいます。ゴミ出しは俺の係で、それが家事の分担だと本気で思っていました。ところがその日、集積所でかけられた一言から、その前提が少しずつずれていきます。

袋は、いつも玄関に置いてあった

妻に洗い物を頼まれたとき、俺はこう返しました。

「俺だってゴミ出ししてるだろ。家事は分担してるよ」

「そうだね」

妻はふきんで手を拭いて、それ以上は何も言いませんでした。だから話はそこで終わったのだと思っていたのです。

実際、ゴミ出しは欠かしていません。可燃の日も資源の日も、玄関に袋があれば必ず持って出る。重いときも、雨のときも。友人に聞かれれば、家事はゴミ出しを担当していると答えていました。

ただ、あの袋がどうやって玄関に置かれているのか、考えたことはありませんでした。前の日に妻が用意しているのだろう、くらいの認識です。

中身を分ける、口をしばる。そういう作業がそこにあることは知っていても、ゴミ出しの一部として数えたことはなかった。俺の中でゴミ出しは、玄関で始まって集積所で終わるものでした。

むしろ、少し誇らしくすらあったのです。同僚の中には家のことを何もしないと言う奴もいて、その話を聞くたび、俺は違うと思っていました。毎回欠かさず運んでいる。それだけで、分担という言葉を使う資格があると信じていたのです。

「奥さん、丁寧だわ」

集積所には、上の階の奥さんが先に来ていました。何度か顔を合わせたことがある人で、会えばあいさつをする程度の関係です。

「今日は早いのね」

そう言って奥さんは、俺が置いた袋に目をやりました。

「きれいにしばってあるのね。奥さん、丁寧だわ」

「ええ、まあ」

それだけの会話です。奥さんは自分の袋を置いて、じゃあねと戻っていきました。

俺は集積所のネットを直すふりをして、自分の袋をもう一度見ました。持ち手が二重に結んである。確かに、きれいにしばってある。でも、俺は一度もこの袋をしばったことがありません。玄関にあるものを持ち上げただけです。

毎回持っていた俺より、たまたま見た奥さんのほうが、結び目の手間に先に気づいたのです。

戻る道で、数えてみました。袋を持って出るのに、かかっているのはせいぜい3分。じゃあ、この結び目ができるまでに何分かかっているのか。中身を分けるところから数えたら、どこまでさかのぼるのか。答えは出ませんでした。出ないことが、答えのようなものでした。

見たことのない箱と、はがされたラベル

部屋に戻って、出勤の支度をするはずでした。でも足は台所に向かいます。

シンク下の扉を開けました。開けたのは、引っ越してきて以来かもしれません。中には、分別用の箱が3つ。ラベルをはがした瓶と、水を切った生ゴミを入れた小袋が並んでいました。

冷蔵庫の横には、収集日を書いた表が貼ってあります。見えていたはずなのに、読んだことはありません。資源の日の前には瓶がまとめられ、可燃の日の前には小袋が結ばれる。その順番を、妻はひとりで回していたのです。

毎回、玄関で持ち上げていたあの重さの中に、これが全部入っていた。そう思うと、扉を閉める手が止まりました。

「これ、いつ分けてるの?」

妻のほうを見ないまま聞いたのは、顔を見たら何を言えばいいのか分からなくなりそうだったからです。

「毎回だよ。出す前の日に」

「上の階の奥さんと、ちょっと話した」

それだけ言って、扉を閉めました。集積所で何を言われたのかまでは話していません。自分では一度もしばったことのない袋を見て、奥さんが当たり前のように妻を褒めたことを、そのまま伝える言葉が見つからなかったのです。

妻は、何も聞きませんでした。あの「そうだね」と同じ顔だったと思います。あのとき妻が言わなかったことの量を、俺はその顔で初めて想像しました。反論されなかったのは、納得されていたからではなかった。説明を諦められていただけだったのかもしれません。

そして...

次のゴミの日の前日、台所に立ってみました。瓶のラベルは、思ったよりはがれません。はがれないとぼやきながら爪で引っかいて、途中で破れて、水につけてやり直しました。

「次から、前の日から一緒にやる」

「うん」

妻の返事は短かったけれど、袋の口を結ぶとき、手を貸してくれました。結び方が違うと言われて、黙って結び直します。二重にする理由を、そこで初めて聞きました。

分担していると言い張ってきたのは、嘘をつくつもりだったわけじゃない。ただ、ゴミ出しの始まりを玄関だと思い込んでいただけです。次の収集日、集積所に置いた袋の結び目は、俺の手で作ったものでした。奥さんに褒められるほどではないけれど、ほどけてはいませんでした。

(30代男性・営業職)

本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。

(ハウコレ編集部)

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