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「それ、名刺じゃないぞ」取引先で自信満々に差し出したポイントカード→取引先の部長が返した一言

  • 2026.10.3

鏡の前で練習を重ねた前の晩

営業の仕事に移って最初の月、僕は初めて取引先へあいさつに行くことになった。

付き添ってくれるのは、営業ひとすじでやってきた40代の先輩だ。

前の晩、僕は鏡の前で何度も名刺交換の練習をした。背すじを伸ばし、相手の顔を見ながら名刺入れを取り出し、両手で差し出す。

手元ばかり見ないほうが堂々として見えると、何かで読んだからだ。

当日の朝、駅で落ち合った先輩が僕の顔をのぞきこんだ。

「緊張してるか?」

「大丈夫です。名刺交換はかなり練習しました」

「自信あるんだな」

「そこだけは完ぺきです」

先輩は笑いながら、「じゃあ最初は任せるよ」と言った。

僕は安心するように上着の内ポケットを軽くたたいた。中には名刺入れと、カードだけが入る薄い財布がある。

どちらも黒い革だったが、そのときは特に気にしていなかった。

部長さんの手元を見て固まった

取引先の応接室で待っていると、ほどなく50代くらいの部長さんが入ってきた。

僕と先輩も立ち上がり、あいさつをする。

いよいよ出番だ。僕は背すじを伸ばし、部長さんの顔を見ながら内ポケットに手を入れた。

黒い革のケースを取り出し、中から1枚抜いて両手で差し出す。

「はじめまして。どうぞよろしくお願いいたします」

練習どおりにできた。そう思った次の瞬間、部長さんが受け取った1枚を見て、不思議そうに目をぱちぱちさせた。

隣の先輩が僕の手元を見て、小さな声で言った。

「…おい。それ、名刺じゃないぞ」

え、と部長さんの手元を見る。

そこにあったのは、僕が昼によく行く弁当屋のポイントカードだった。

名刺入れではなく、隣に入れていた薄い財布を取り出していたのだ。

一気に顔が熱くなった。

「す、すみません!間違えました」

部長さんはカードを裏返して眺めると、少し間を置いて聞いた。

「これ、100円で1ポイント貯まるんですか?」

「はい……それは僕の昼ごはんのほうでして…」

僕がそう答えると、部長さんは笑った。

「じゃあ、うちと取引したら何ポイントもらえますかね」

隣で先輩も吹き出した。僕はもう一度謝り、今度はきちんと手元を確認して本物の名刺を差し出した。

部長さんはポイントカードを返してくれ、その後の商談は、緊張していたのがうそのように和やかに進んだ。

帰り道、先輩が僕の肩をぽんとたたいた。

「名刺交換はともかく、つかみは完ぺきだったな」

それ以来、僕は家を出る前に名刺入れの中身を確認するようになった。

そして部長さんは今でも、僕が訪ねると笑いながら聞いてくる。

「ポイント、貯まりましたか?」


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた30代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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