1. トップ
  2. エピソード
  3. 「遅くまで大変ね」毎朝使う駐車場。帰宅時刻まで知る斜め前の奥さんに感じた違和感

「遅くまで大変ね」毎朝使う駐車場。帰宅時刻まで知る斜め前の奥さんに感じた違和感

  • 2026.10.3

バックで入れる、いつもの駐車場

実家の一戸建てから少し歩いたところに、家族で使っている駐車場がある。車で通勤している私は、毎日そこから車を出し、帰宅するとバックで同じ場所へ停めていた。

駐車スペースの奥には低い柵があり、細い道をはさんだ斜め前には、60代くらいのご夫婦の家が建っている。その家の窓は、ちょうど駐車場のほうを向いていた。

ある夕方、車を停めてドアを閉めると、斜め前の庭から声をかけられた。

「おかえりなさい。毎日、お仕事大変ね」

奥さんがじょうろを手に、生垣の向こうで笑っていた。

「こんばんは。ただいま帰りました」

すると奥さんは、私の車の後ろにある柵へ目をやった。

「いつも結構ギリギリまで下がるでしょう。見てると、ちょっとヒヤヒヤするのよ」

「あ、そうですか。すみません。気をつけます」

柵にぶつけたことも、こすったことも一度もない。それでも、ずいぶん細かく見ているんだな、と少しだけ気になった。

ただ、心配してくれているだけかもしれない。そう思い、翌日からはいつもより早めにブレーキを踏むようにした。

止め方だけではなかった

数日後の朝、車に乗ろうとすると、奥さんが庭で洗濯物を干していた。目が合うと、タオルを持った手を軽く上げた。

「最近、ゆっくり停めるようになったわね」

「はい。気をつけてます」

「そうそう。そのほうが安心。昨日は帰ってきたの、9時ごろだったでしょう?遅くまで大変ね」

私は一瞬、返事に詰まった。

たしかに前の晩は残業で、車を停めたのは夜9時を回ったころだった。駐車場の周りは暗く、庭に誰かいた記憶もない。

「ああ……昨日はちょっと残業で」

そう答えながらも、少し落ち着かない気持ちが残った。家が斜め前なのだから、車の音で分かったのかもしれない。そう考えることにした。

「10分」のひと言で気づいたこと

また別の日の夕方。車から降りると、奥さんが庭の花に水をやっていた。

私に気づくと、いつものように顔を上げる。

「今朝は、いつもより10分早く出たのね」

「……はい。朝から会議があって」

思わず答えたあとで、私は奥さんの顔を見た。

10分。

毎朝ほぼ同じ時間に出ているとはいえ、自分でも意識しなければ気に留めないほどの差だった。

奥さんは責めるでもなく、ただにこにこと花に水をやっている。

車の止め方。夜に帰った時刻。そして朝、駐車場を出た時刻。

何か困ったことをされたわけではない。それでも、思っていた以上に日々の動きを見られているのかもしれないと、そのとき初めて意識した。

あれから3年近くたつ。今も私は同じ駐車場を使っている。

車を停めてエンジンを切ると、ときどき斜め前の家の窓へ目が向いてしまう。

その日も、閉まったカーテンがほんの少し揺れたように見えた。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた20代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ