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「今、1月だぞ」請求メールを3回確認した新人の僕。だが、先輩が宛名を見て固まった理由

  • 2026.10.3
「今、1月だぞ」請求メールを3回確認した新人の僕。だが、先輩が宛名を見て固まった理由

3回読み直して胸を張った朝

入社1年目の1月、営業部にいた僕は、初めて大事な取引先への請求を任された。

請求書を添えたメールを、先方の社長あてに送る仕事だった。

隣の席の先輩は、僕が書きはじめる前に椅子ごとこちらを向いて、指を1本立てた。

「宛名だけは絶対に間違えるな」

「はい、任せてください」

宛名の間違いはいちばん失礼にあたるからな、と先輩は付け加えた。

僕は会社名を1文字ずつ確かめながら打ち、その後ろに敬称をつけた。

同じ宛名を請求書の宛名欄にも写して、頭から3回読み直した。

会社名の漢字も、金額の桁も、振込先の番号も合っている。僕は画面を先輩のほうへ少し傾けて、自信たっぷりに言った。

「宛名は完ぺきです」

「本当に見たんだな」

「3回見ました」

ちょうど先輩の机の電話が鳴り、先輩はうなずいただけで受話器を取った。

僕は背筋を伸ばして送信ボタンを押し、奥の席の上司にも「送りました」と声をかけた。

電話口で社長が笑った理由

10分ほどたったころ、電話を終えた先輩が僕の画面をのぞきこんだ。

送信済みのメールを開いたまま、先輩は黙って椅子から立ち上がった。

「おい、この一行目、声に出して読んでみろ」

指でさされたところを、僕は読み上げた。会社名のあとに、堂々と「御中元」と並んでいた。

「御中」と打つつもりが、変換でひと文字増えていたのだ。

3回読み直した目は、会社名の漢字しか見ていなかった。

「御中元、です」

「真冬だぞ」

血の気が引いた僕は、先輩に背中を押されて奥の上司の机へ走った。

画面を見た上司は一度目を閉じ、すぐに先方へ電話をかけて取り次ぎを頼むと、受話器を僕に差し出した。

「宛名を間違えまして、大変失礼いたしました」

声が震えた。60代くらいの社長は少しのあいだ黙り、それから受話器の向こうで声を出して笑った。

「1月なのに、お中元はまだ届いてないよ」

笑い声は、横に立つ上司にも聞こえるほど大きかった。社長は息を整えて、もうひとこと足した。

「夏まで楽しみに待っていればいいのかな」

電話を代わった上司は、受話器を持ったまま、見えない相手に何度も頭を下げた。

社長は「若い人は元気があっていい」と言い、直して送った請求書のとおりに支払ってくれた。

その年の夏、僕は上司と2人で、本物のお中元を抱えてあいさつに行った。

社長は箱を受け取ると、包みをぽんとたたいた。

「やっと届いた」

あれから長い年月がたち、僕は新人に教える年になった。

それでも今も、メールの宛名を打つたびに、「御中」の次で指が一瞬止まる。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた60代以上男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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