1. トップ
  2. 「革新は、伝統のために使うもの」ーー次世代パティシエ、ニナ・メタイエが紡ぐフランス菓子の新章

「革新は、伝統のために使うもの」ーー次世代パティシエ、ニナ・メタイエが紡ぐフランス菓子の新章

  • 2026.10.1
SHINTARO OKI

2026年4月1日、東京・六本木のホテル「ザ・リッツ・カールトン東京」1階に、「ニナ ザ・リ ッツ・カールトン東京」がオープン。フランス・パリを中心に世界で活躍するトップパティシエ、ニナ・メタイエの繊細で美しいパティスリーの数々が、すでに多くの人々を魅了している。来日したシェフに、日本の出店にかける思いや菓子哲学、伝統と革新、女性としてしなやかに生きる流儀を聞いた。


Photo SHINTARO OKI

SHINTARO OKI

ニナ・メタイエ

1988年、フランス・ラ・ロシェル生まれ。メキシコへの交換留学の折に、ブーランジュリーとヴィエノワズリーを学ぶことを決意。その後、オーストラリアで経験を積み、フランスに帰国して伝統ある料理学校「フェランディ」で学ぶ。

卒業後は「ル・ムーリス」、「ル・ラファエル」など、名門ホテルのレストランでパティシエとして研鑽を積み、ジャン= フランソワ・ピエージュのもと、「ル・ グラン・レストラン」のデザートメニューの開発を担当。ミシュラン2つ星の獲得に貢献する。

2016年には「ル・シェフ」、2017年には「ゴ・エ・ミヨ」、2018年には「GQ」 と、名だたる書籍で最優秀パティシエに選出され、⼀躍注目の的に。2017年、「カフェ・プー シキン」のスイーツクリエイション部⾨の責任者に就任し、世界に活躍の場を広げる。

2020年、自身のブランドとなる「Délicatisserie(デリカティスリー)」を立ち上げ、オンライン販売を開始し、2021年にはパリの百貨店「プランタン」にコーナーを出店。ブーランジュリーやショコラトリーを含め、故郷 ラ・ロシェルやパリに複数の店舗を展開し、2026年、東京・六本木の「ザ・リッツ・カールトン東京」に「ニナ ザ・リッツ・カールトン東京」をオープン。

SHINTARO OKI

大きな夢だった東京出店

東京に自身のパティスリーを開いた、今の気持ちは?

私にとっては、ずっと抱いていた大きな夢がかなった瞬間でした。日本の芸術や職人技、日本らしいエレガントさ、繊細さ、細部へのこだわりには深い敬意を抱き、長い間憧れていました。なにより、日本は美食の国であるところが魅力的。

オープンまでに約2年かけて、日本でペストリーシェフを務めるヨシエ(加藤芳枝シェフ)をはじめ、日仏のチーム一丸となって準備に取り組み、2つの文化を融合させることができたと感じています。この素晴らしいお店を初めて目にした時には、本当に胸がいっぱいになり、感動しました。

Hearst Owned

オープンに際し、チームのみなさんに「冒険を始めましょう」と、声をかけられたそうですね

私にとって日本にお店を開くということは、まさに冒険でした。冒険とは、未知の世界に足を踏み入れ、新しい発見をしていくということ。日本に深く根付いた文化や価値観、美しさを受け止め、理解し、同時に私自身が知るフランスのそれらをどう融合させて届けていかれるか。それを定めてより良く形にしていくことは、決して容易なことではありません。

このプロジェクトに携わる日本とフランスのチーム、来てくださったお客様、まだ出会っていない未来のお客様まで含めて、みんなが冒険の仲間、この場所を取り巻く人、思い、期待、創造性、すべてのエネルギーがこの冒険を形作っていくのだと思っています。

SHINTARO OKI

シェフが感じている日本の魅力は?

たくさんありますが、まとめていうならば純粋さと敬意でしょうか。素材や土地、人など、あらゆる場面で敬意を払い、尊重する姿勢がある。守ること、保つこと、敬うこと、そして優雅さ、繊細さ、やわらかな感性、細部を見つめる眼差し。それらすべてが、日本という国の美しさを作り上げていると感じています。

SHINTARO OKI

日本人とフランス人どちらにとっても発見のある場所を目指して

東京でどんなお菓子や世界観を表現したいと思いましたか?

いらしてくださる日本のお客様には、自分のお家のように寛いでいただくと同時に、フランスのかけらを感じられるような場所にしたいと思いました。提供しているのはあくまでもフランス菓子ですが、日本の食材や日本の職人技が感じられる食器やナプキンなど、ちょっと和を感じられるようなものを取り入れ、そのバランスを楽しんでいただけたら。逆にフランス人のお客様がいらしたときにも、日本らしさを感じつつどこか懐かしいフランスの味を楽しめ、日本人とフランス人どちらにとっても発見のある場所になるといいな、と思っています。

SHINTARO OKI

こうした細かいディテールを通じて、私自身もヨシエと一緒にたくさんの発見やインスピレーションをクリエイティビティに繋げ、新しいものや好きなものを豊かに表現していきたい。それはとても刺激的で、日本からのインスピレーションによって、自分の創造性がより一層豊かになったことを深く感じています。

実は、ブティックだけでなくサロン・ド・テを開くのは、私にとって今回が初めてなんです。まるでレストランを訪れたかのようなフランス流のサービスも体験しながら、一口サイズのケーキからよりしっかりしたサイズのケーキ、デザート、飲み物を味わい、心地よくゆったりしたひとときを過ごしていただきたいと思います。

SHINTARO OKI

ひとつのケーキに感情を込めて

お菓子作りで大切にしていることは?

エモーション(感情)です。驚きだったり、清々しさだったり、安らぎだったり、そういった感情をこめることを大切にしています。ときには、雲のようにふんわりやわらかいとか、音を立てるほどにザクザクしているとか、花のようだとか、ちょっと冬っぽく陰のある感じとか。多くの場合、その方向性を決めるのは季節であり、自然です。花や光、香り、音、質感など、私はいつもその土地の空気を感じながら、この場所だから生まれるデザートを生み出したいと思っています。

そして何よりも、インスピレーションを強く受けるのは、人です。人と話すと、その人の物語や記憶、嗜好、気質などが少しずつ見えてきます。甘いものはみんな大好きで、多くの場合、子どもの頃の記憶や小さなご褒美の時間を思い出させてくれます。だからこそ、甘いものを通じて心和む時間を作りたいというのが、私の思いです。

Hearst Owned

花束やお菓子を贈る習慣はフランス文化の大切な遺産のひとつ

シグネチャーの「フラワーケーキ」について言えば、私は花が大好きで強い憧れを抱いているんです。というのも、花には非常に不規則的で偶然性による美しさと、完璧に整った幾何学的な美しさが共存しているから。そういった自然の中にある矛盾による美しさにとても心惹かれます。

それからフランスでは、誰かの家を訪ねる時には花かお菓子、あるいはワインを持っていくのが定番。どんな小さい村でも、パン屋さんの隣にはたいてい花屋さんがあって、あとは教会や薬局があるというように、大体同じような風景が広がっています。

それはフランスで当たり前のように受け継がれてきた生活、そして文化であり、花束やお菓子を贈る習慣はフランス文化の大切な遺産のひとつ。それら2つを合わせたのが、このフラワーケーキというわけです。

SHINTARO OKI

写真左「マダガスカル産バニラとピーカンナッツのフラワーケーキ」(ミニサイズ)
軽やかなバニラムースの中に、コク深いバニラのクレムー(濃厚なクリーム)、ピーカンナッツのプラリネ、フルール・ド・セルを利かせたピーカンナッツのクルスティヤン(カリカリ、サクサクとした食感の層)を繊細に重ねたひと品。バニラの芳醇な香りとピーカンナッツの奥深さのハーモニー、塩気のアクセントとともに、食感のコントラスト、カリッとした音まで多彩に楽しめる。

写真右「クラッカンショコラ」(ミニサイズ)
ザクザクとしたクランブル・ショコラに、フルール・ド・セルを加えたクルスティヤンを重ね、ビターで軽やかなチョコレートのクリームを花びらのように美しく絞った、パリでも人気のシグネチャー。カリッとしたピーカンナッツのキャラメリゼがやさしい甘みと食感のアクセントを添える。甘さ控えめでチョコレートの豊かな風味と心地よい食感の洗練された調和が魅力的。

SHINTARO OKI

シャインマスカットタルト
土台は、米粉と小⻨粉を使用した香ばしい生地に、アーモンドクリームと赤白2種類のブドウを合わせたコンフィを重ねたタルト。シナモンがほのかに香るクリームを添え、シャインマスカットとソーテルヌ(甘口の白ワイン)のジュレ、エディブルフラワーで華やかに。みずみずしい果実味と上品な香りがあふれ出す。(フルーツタルトは季節でフルーツが変わり、シャインマスカットは9月末までの販売)

この投稿をInstagramで見る

Nina Métayer(@ninametayer)がシェアした投稿

クリエーションはどのように行われますか?

創作には2つの方法があります。ひとつは、先に素材や味から発想して、そこにエモーションを乗せていきながら味を組み立て、ビジュアルを考えて作り上げていく方法。もうひとつは、ビジュアルのアイデアが先に生まれ、そこから味やテクスチャーを逆算して考えていく方法です。

※写真のケーキは日本では未発売

この投稿をInstagramで見る

Délicatisserie(@delicatisserieofficiel)がシェアした投稿

より良くするため、そしてまだ存在していないものを創造するために、新しい技術を取り入れることはとても大切

私のお菓子づくりの特徴のひとつといえるのが、3Dプリンターを活用していること。通常、お菓子作りには既成の型が使われますが、オリジナリティを出すため、以前は彫刻のような手法でシリコンを使ったオリジナルの型をつくっていました。でも、すべてひとつずつ手作りしなければならず、繊細さにも欠けてしまうことも多くて、細かいディテールまで完成させるのに膨大な時間を要していました。その状態では、大量に同じ型をつくることなど到底不可能です。

そんなとき、夫の友人で3Dプリンターを持っている人と出会い、新しい技術を取り入れようと決意。夫と一緒に何度も徹夜して、試行錯誤を繰り返しました。最初は何回もスケッチを描いたり、調整したり、うまくいかないことばかりで本当に大変でしたが、いったんうまく運ぶようになれば、正確なものをしっかり作り上げてくれるのが3Dプリンターのよいところ。時間の節約にもなり、お菓子そのものにかけられる時間も増えて、今では私のお菓子作りに欠かせないものとなっています。

より良くするため、そしてまだ存在していないものを創造するために、新しい技術を取り入れることはとても大切です。既存の物だけ使って自分のクリエーションを制限してしまうのは、本当にもったいない。「どんなものでも作れる。リミットなんてない」と感じながらイメージを広げることが、自分のやりたいことや夢の実現に繋がっていく。それこそが革新なのではないかと思います。

イノベーションとは、「何かを発明しよう」と意図して始めるものではなくて、まずは夢を見て、その夢に手を伸ばそうとすることから生まれます。ときに夢が遠く、まるで魔法のように感じることもありますが、それを本当に叶えるために自分たちの手で解決策を生み出していく。それは非常にワクワクするプロセスでもあります。

※写真のガレットデロワは日本では未発売

SHINTARO OKI

イノベーションは、伝統をより深く、より繊細に、より美しくするために使うもの

そういった革新も取り入れながら、伝統も非常に大切にされていますね

伝統というのは、私たちの記憶を呼び起こし、安らぎを与え、心に残っている何かを思い出させてくれる土台だと思っています。さまざまなイノベーションも取り入れますが、私がお菓子作りで求めているものは決して、革新そのものではありません。あくまでもイノベーションは、伝統をより深く、より繊細に、より美しくするために使うもの。それ以上にはならないということです。

この投稿をInstagramで見る

Nina Métayer(@ninametayer)がシェアした投稿

技術は決して前に出さない

革新的なひと品を作る場合でも、ビジュアルが革新的ならば、味は伝統的で安心できるものに、見た目が伝統的ならば、技術や味に革新的なものを加えるなど、バランスを取ります。

そして、甘みを抑えたり、カリッとした食感を加えたり、より軽やかで繊細な仕上げにしたり、現代の人たちの味覚に合うよう細かい調整も重ねます。まずは、基盤として伝統が存在する。そして最終的に輝くのはエモーションであり、その輝きを支える技術は決して前に出さない。この辺りはちょっと複雑なのですが、「創造のために創造してはならない」と私は考えています。

※写真のケーキは日本では未発売

この投稿をInstagramで見る

Nina Métayer(@ninametayer)がシェアした投稿

フェランディ校を卒業後のご活躍は、本当に目覚ましく、素晴らしいですね。現在まで、どのような意識をもって、ご自分の道を切り開かれていらしたのでしょうか?

私がこれまでずっと大切にしてきたのは、失敗にくじけないという考え方です。パティスリーの世界では、試作を重ね、また試作を重ねます。そして納得のいくものができるまで、何度でもやり直します。それはレシピづくりにおいても、キャリアを築くうえでも同じことです。大切なのは、自分を信じてやり抜く強い意志なのだと思います。この仕事を女性として続けることは、決して簡単なことばかりではありませんでした。パン職人として修業先を探していた頃は、厨房で働く女性の前例がほとんどなく、製造ではなく販売スタッフとしての仕事を勧められたこともありました。

しかし、そのことに対して恨みや苦い思いはありません。むしろ「絶対に成し遂げたい」という気持ちをさらに強くしてくれました。振り返れば、私はとても幸運でした。信頼を寄せ、多くのことを教えてくださったシェフたちとの出会いがありましたし、どんな時も支えてくれる家族や友人にも恵まれていました。困難な時期であっても、周囲の温かい励ましがあったからこそ前に進み続けることができたのです。

美しい結果は、ひとりの力で生まれるものではありません。一人ひとりの存在や行動、そのすべてが積み重なって初めて実現するものだと思っています。そして私は、自分たちの言葉や行動には必ず誰かに影響を与える力があると信じています。もし私の歩んできた道が、若い女性たちに「この世界は自分たちの場所でもある」と感じてもらうきっかけになるのなら、それだけで私にとっては素晴らしい成功であり、大きな喜びです。

この投稿をInstagramで見る

Nina Métayer(@ninametayer)がシェアした投稿

朝起きたら、まず笑う。そうすれば、いい1日になる

パティシエとして活躍されながらも、ご家族もとても大切にされていて、女性として本当に憧れの存在でいらっしゃいます。最後に、その秘訣を教えてください

すべては、全体のバランスだと思っています。私はこの職業が大好きですし、家族も大好きで、いい友人たちにも囲まれています。そのすべてがあるから、私は幸せでいられる。人は幸せだと、たとえ困難な時でも、前に進むエネルギーを見つけることができます。

そのエネルギーはまわりにも広がって、みんなで支え合うことができると私は思うんです。私自身、経営者として問題に直面することもあれば、複雑な時、疲れているときもあります。そんなときこそ、笑顔を保つことが大切。笑顔を通じて良いエネルギーを送れば、まわりの人達も笑顔になりますし、その笑顔がまた自分自身を支えてくれます。

人はどうしても、うまくいかないことにばかり目を向けがちですが、何がうまくいっているのか、どこに光があるのかを探し、目を向けることで問題は軽くなります。本当の問題なんて実はあまりなくて、よい仲間に囲まれ、そのエネルギーを保つことができれば、解決策は必ず見つかります。とにかく、笑顔が一番大切。「朝起きたら、まず笑う。そうすれば、いい1日になる」。そう思います。

Hearst Owned

ニナ ザ・リッツ・カールトン東京

住所/東京都港区赤坂9-7-1 東京ミッドタウン
電話番号/03-6434-8711
営業時間/11:00〜20:00(L.O. 19:00)
インスタグラム/@nina.ritzcarltontokyo


Hearst Owned

【NEWS】

10月17日(土)に特別イベントを開催!

イベントでは、パリから来日するニナ・メタイエ シェフが登場。提供するひとつひとつのスイーツに込めた思いやこだわりを解説。圧倒的な技術力に触れられる1日限りのプレミアムな食体験をお見逃しなく!

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ